18時~19時
「若菜ー」
「ん?どうしたの?」
翔と未来は部室に戻ってきていた。
「屋上のセッティングがある程度終わったから、あまり遅くならないうちに買い出しに行こうと思って戻ってきたんだ。おれたちがいない間部室の様子はどうだった?」
「それがさー……」
部室には流星群の時間やどの方向に流れるかを聞きに来る生徒が相当多かったようだ。ネットで情報を調べても『北方向』など方角が書いてあっても、空に方角が表示されるわけではないので結局方向かわからなかったり、『未明から』など時間が書かれていてもその時間が何時頃からなのかわからずに聞きに来る、そういった生徒が跡を絶たなかったらしい。
「それはお疲れ様だったね」
「本当だよー。ここは未来に任せておくべきだったわ……」
若菜はどちらかと言うと体を動かすのが得意で、未来はどちらかと言うと頭を使うのが得意なのだ。
「たしかに今回の流星群はテレビとかでもやってはいたけど、そこまで部室に生徒が来るとは考えが回らなかった……。今後の課題だな」
来年の改善を誓う部員たちだった。
「そんなことより、買い出し行くの?」
若菜が脱線した話をもとに戻してくれた。
「そうそう、そうそれが本題。あまり暗くなると夜道危ないし、今のうちに行こうかなってなって翔と部室に戻ってきたの」
「たしかに遅くなって後々バタバタするのも嫌だもんね。そいじゃあ行こうか」
三人は軽く身支度をして部室を出ていった。
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部室を出て向かった先はスーパーマーケット、ではなく職員室だった。外出する許可をもらわないといけないからだ。
「失礼します」
未来と若菜を残し、翔が代表者として職員室へ入っていった。
「おおどうした?」
「森野先生はいらっしゃいますか?」
森野先生は天文部の顧問になってくれた教諭で、さらに外出の許可を出してくれる人でもあるのだ。
「ああ、自分の席にいると思うよ」
「ありがとうございます」
森野先生は自分のデスクに向かって仕事をしているようだった。
「森野先生、外出許可を貰いに来ました」
「そろそろ来ると思って用意しておいた」
デスクの引き出しから外出許可の書類を取り出した。あとは翔の署名をするだけになっていた。翔はペンを取り足早に署名する。
「買い出しか?」
「はい。未来と若菜もいるんで暗くなる前に行っておこうと思いまして」
「賢い判断だな。女子部員2人のこともちゃんと考えるとか紳士なことやってるじゃないか」
「茶化さないでくださいよ。それよりも観測のときには先生はこれるんですよね?」
基本的に部活は顧問の指導の元行わないといけない決まりがあるのだ。更に言うと、それが屋上や学校外などの屋外活動なら顧問がいるのは必須事項になるのだ。だが。
「悪いな、仕事が溜まってて行けそうにないんだ。でも安心しろ」
そう言うと引き出しからもう一枚別の紙を取り出した。そこには『臨時顧問許可状』という文字がかかれていた。
「これなんですか?」
「要約すると、顧問がいなくても屋外活動してもいいぞって書類だ」
学校内で活動するのであれば部長がいれば顧問がいなくても制限はかかるが活動自体はすることができる。だが屋外活動になるとそれではいけない。だからこういった特別処置を取らないといけないのだ。
「臨時顧問はお前だ」
「おれで大丈夫なんですか?」
翔は学生でもちろん顧問をやった経験など一度もない。
「大丈夫だ。そのための許可状だからな。ここに署名だけしといてくれ」
言われるがままに署名欄に名前を記入した。
「よし。これでお前達3人で活動しても大丈夫だ。あの2人の事もしっかり見てやってくれよ」
「わかりました。ありがとうございます。失礼します」
軽く頭を下げると翔は職員室をあとにした。
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「へー。じゃあ今日は翔のこと顧問って呼ばなきゃいけないの?」
「特にそんなこと言ってなかったしいつも通りでいいだろ。たぶん屋外活動をおれたちだけでできるようにしてくれただけだろうから」
そんな話をしながら3人は校舎を出て行く。
学校の内外にはまだ多くの生徒が残っている。教室で勉強している者、体育館や校庭では部活をしている者、下校途中の者。日が落ちそうなな時間帯だが学校は意外と遅くまで生徒も教師も残っているもで特に特別な風景ではない。
「なんか不思議な感じだね」
未来がそう呟いた。今日の3人は特別だからだ。普段の3人であれば部活をするために部室にいるか、下校途中だ。買い出しのために外出するなんてことは初めての状況。他の生徒がいつものように勉強や部活、下校している中で自分たちだけが違う行動をしているのに違和感を感じているのだ。
「まあ普段はこんなことしないしできないからな」
「流星群に感謝だね」
そんな雑談をしつつ3人はスーパーマーケットへと向かった。
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スーパーマーケットは学校から10分ほど歩いたところにあった。未来が買い物かごを取ったがすかさず翔がそれを取り上げ3人はスーパーマーケットを練り歩く。
「とりあえず飲み物は必要だよね」
未来のその言葉でまずは飲み物コーナーへと向かう。
「お茶はとりあえず必要だろ。あとは、何飲みたい?」
「紅茶がいいかな」
未来は吟味しつつ2リットルの紅茶を買い物かごへ入れた。
「んじゃオレンジジュースも追加で!」
今度は若菜がそう言いながらオレンジジュースを買い物かごへと入れる。その後翔は眠気覚ましのためにとドリップ式のコーヒーを3つカゴへと放り込んだ。
飲み物コーナーをあとにした3人は食材コーナーへと向かう。
「あ、ここは翔どっか行ってて」
若菜が急にそんなことを言いだした。
「は?どういうことだよ」
「まあまあ。ね?未来」
「うん。ちょっとどっか行ってて」
どうやら若菜と未来で何か考えがあるようだった。翔は買い物かごを未来へ預け、仕方なく食材コーナーから立ち去った。
それから数分してブラブラしていた翔のもとに2人がやってきた。だが何を取ってきたから見られないとするため、かごはそのまま未来が持つことになった。
「最後はお菓子だな」
お菓子コーナーへやってくると翔のことはそっちのけで未来と若菜が選びだした。辛いお菓子、チョコレート菓子、おせんべい系。様々なものをかごへと放り込んでいった。
「女子は太ったはこういうところから来るんじゃ……」
――翔が若菜に鉄拳制裁を食らったのは言うまでもない。
買い物を終えた3人は学校への帰路についた。荷物は率先して翔が引き受けていた。
時間は19時前。そろそろ日が落ち、夜がやってくる時間帯だ。
流星群の夜に @ginga_uduki
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