15時~18時

 今日の天文部はいつもより忙しい。

 流星群のことを聞きに来る生徒がいたり、流星群に向けた準備をしなければいけないからだ。

 本番前から準備は進めているものの、最終準備となるとまた準備の内容は違ってくる。

「やっぱり屋上に部室欲しいよな」

 天文部の部室は1階にある。そして流星群を観測する場所は屋上。

 つまり、観測するための機材は1階から屋上に運ばなければいけないのだ。

「でも屋上を開放してくれるだけでもありがたく思わなきゃ。ね、未来」

 屋上は普段は開放されていない。流星群や天体ショーがあるときにのみ特別に開放されるのだ。しかも天文部に向けてのみ。

「わたしたちの働きの結晶だからね」

 もともと屋上は天文部に向けても開放はしていなかった。天文部だけ特別扱いはできないからだ。だが翔たち3人はなんとか流星群や天体ショーのときだけでも開放してほしいと働きかけていたのだ。その結果、今年からようやく開放されることになった。働きがけが実を結んだ最初の天体ショー、それがこの流星群というわけだ。

「じゃあおれは望遠鏡を上に運ぶから未来はカメラとか他のものを運んでくれないか?」

「はーい」

「あたしは?」

「若菜はおれたちが運ぶものを手前まで出してきてくれ。あと部室に来た生徒の対応を頼む」

 若菜に部室を任せ、翔と未来は機材を屋上に運ぶことにした。


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 天文部の歴史は長くはない。なぜなら翔たち3人がこの学校に来て初めて立ち上げたからだ。だから学校には天文部の機材はそんなにたくさんは揃っていない。だから今運んでいるる機材は。

「この望遠鏡もうだいぶ使ってるよね。わたしたちの子供の頃からだから……」

「10年近くはもう使ってることになるかな」

 これも翔たちの働きがけの結果だった。

 天文部は立ち上げることはできたが、もともとあった部活動ではないのでもちろん専用の機材なんて存在はしない。部活ができたことによって部費は支給されたが、部員数や部ができたばかりだということもあったので、たくさんは支給されなかった。そこで考えたのが、自分たちの私物を部活に持ち込むという方法だった。翔と未来は小さな頃から親の影響で天体が好きなこともあって、家には天体関連の機材などが所狭しと置かれている。だからそれを持ち込むことで機材不足を解消させようと考えたのだ。だがもちろんここにも障害はたくさんあった。屋上の件同様に特別扱いはできないと言われてしまったのだ。しかも今回は私物を持ち込むということで盗難であったり、部活以外でも使うんじゃないかなどいろいろなことを指摘されていた。だがこちらも働きがけが実を結び、屋上開放と一緒に私物の持ち込みが許可されたのだ。もちろん部活以外で使わないなどの条件付きで。

「やっぱ階段を運ぶのはわりと辛いな……」

 望遠鏡は決して軽いものではない。小さい頃から使っていて、しかも家庭用なのでそこまで大型なものではない。だが、精密なものなので慎重に運ぶとなると話は変わってくる。

「わたしも手伝う?」

「いや、未来には他のものも運んでもらいたいからおれ1人で十分だ。ありがとう」

 そんな時だった。

「おお、そういえば今日だったよな。流星群」

たけるか」

 同級生の健だ。翔たちの親友でもある。

「ちょうどいいところにきた。望遠鏡運ぶの手伝ってくれ」

「いやー運びたかったんだがちょうど今さっき五十肩になってしまって方が上がらないんだ。あいたたたた」

 そう言っている健の腕を未来がひょいと持ち上げる。要するに、健の言っていることは嘘だと未来は言いたいのだ。

「運べばいいんだろ。やはり未来の目はごまかせないか……」

「いや、おれの目もそんな程度じゃごまかせないって」

 そんな少しおちゃらけているのが健だ。

「はいはい。ふざけてると準備する時間なくなっちゃうよ。じゃあわたし先にこれ持って屋上に行くね」

 未来はそう言って自分の荷物を持ってそそくさと1人で屋上へと向かっていった。そんな未来を見ていた健は。

「翔は相変わらず未来には頭が上がらないって感じだな」

 そうポツリと呟いた。

「な、何だよ急に!」

「いーやなんでもない。さ、運ぶんだろ? 早くしないと準備する時間なくなっちゃうよ。きゃぴるん」

「う、うっせーよ!ったく……。んじゃそっち持ってくれ」

「はいよ」

 そんなやり取りをし、2人も翔の指示で望遠鏡を持ち慎重に屋上へ向かった。


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「このあたりでいいか?」

「もうちょい左。よしこのあたりで」

 望遠鏡を屋上まで運んできた2人はそのまま望遠鏡の設置をしていた。設置場所は予め流星群の方向がわかっているのでその方向に設置した。設置している間に未来は2往復したようで、あらかたの必要機材は準備されていた。

「他に準備するものは?」

「大方準備できたからあとはスタンバイするときに持ってこればいいだろ」

「そうだね。今が17時30分すぎだからまだまだ時間はあるね。どうしようか?」

 準備さえできればあとは時間を待つだけだ。

「今のうちに買い出し行くか。夕飯もここで食べるわけだから何か買ってこないと」

「それもそうだね。今行っとかないとあとで行けなくなってもダメだしね」

 今日は流星群のために特別に学校は開放されている。だがなるべく夜間はうろちょろしないようにと指導を受けているのだ。

「んじゃ部室に戻って若菜も連れて買い出し行くか」

 方針は決まった。

「健も天体観測一緒にするか? お前なら大歓迎だぞ」

 翔は健を誘った。だが。

「いや、オレはパス。寒いし眠いし。それに」

「それに」

「それに?」

「オレがいるとお邪魔じゃん?」

 意味深な一言を言って健はにやりと笑った。それに食いついたのは未来だった。

「も、もう! 何いってんの?! さ、翔早く買い出し行こう!」

 そう捨て台詞を言って先に屋上をあとにした。

「何カリカリしてんだ? アイツ」

「そういうところだよ、翔」

 呆れ顔の健がそこにいた。

 その後2人も屋上をあとにした。






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