エターナル-フェアウェア

「まったく。比奈ひなお嬢様が無事だったから良かったものの。お前が止めないでどうする」

 すべてが終わった夜。ご当主様のお部屋でわたしは父に怒られた。首をすくめてごめんなさいと謝ってみたが、……比奈を止めるとか、正直できる気がしない。

「ちょっと、紅葉もみじ椿つばきちゃんは悪くないだろ。悪いのは全部比奈だ。ほんとごめんな、椿ちゃん。だいたい比奈は、風巻かざまきの力を人に知られでもしたら、一体どうするつもりだったんだ」

 ご当主様が父をたしなめ、わたしに謝り、比奈に対してぷりぷり怒る。

 実はさっきまでここで比奈はご当主様にめちゃくちゃ怒られていた。今夜の夕飯抜きと自室での謹慎を言い渡され、しょぼしょぼと出て行ったところだ。

 比奈にしては随分反省しているようだった。さすがに夕飯抜きはかわいそうだ。後で甘いものでも持ってこっそり会いに行こう。


 結局、あの恐怖の大魔王がなんだったのかは分からずじまいだった。

 大魔王とその脅威は消えたが、裏庭にはけが人や意識不明者、体調不良者が大量発生した。先生たちの迅速な通報で駆けつけた救急隊や警察のおかげで最悪の事態は防いだものの、ちょっとした事件になった。

 事後対応やら緊急搬送やら事情聴取やら、ともかく午後は授業どころではなく、かといって状況不明のまま生徒を帰すわけにもいかず、とりあえず五時間目は自習ということになり、なぜか21HRではばっちり歴史の小テストが実施されたのは誤算だった。

 ともかく。恐怖の大魔王が学校に顕現していた時間はわずか2,3分だったらしい。比奈やわたしの事前情報や彩乃さんの証言、他の多くの生徒の目撃情報はあったものの、そんな非現実的な存在がすんなり認められるわけもない。

 さらには、どうして大魔王が消えたのか、わたしと比奈が黙ってしまえば他にあの状況を理解し説明できる人はいなかった。

 この事件は、謎の有毒ガス発生による混乱及び集団幻覚パニックということで片付けられるらしい。

 もっとも、どうして恐怖の大魔王が消えたのかを追求されたくないが、恐怖の大魔王の存在ごと闇に葬った可能性もあるけれど。

「椿ちゃんには比奈がいつも迷惑をかけてごめんねぇ」

「椿がもっとしっかりしていれば、比奈お嬢様を危険な目に遭わせなくてすんだんだ」

 その誰かさんたちは、お互いに謝ったりそれぞれ娘を怒ったり、まぁなんとも仲がいい。

 聞いた話では、うちの曾祖父そうそふが守護の力を狙われて困っているところを助けてくれたのが大海崎家のひい祖父様じいさまだとかで、それ以来の持ちつ持たれつの間柄ということだ。

 わたしは、ポケットからを取り出した。

 本当は恐怖の大魔王の物証として警察に提出しないといけなかったのだろう。でもそうすると守護の異能のことも話さなければいけなくなる。ということで、ポケットに入れっぱなしだった。

「父さん、ご当主様」

 二人の目の前に掲げてみせる。二人の目が「なにそれ?」と聞いてくる。

「今日の恐怖の大魔王なんだけど。どうしよう」

 守護の力が効いている限りは、恐怖の大魔王の脅威は一切ない。逆に言えば、こちらからも大魔王なかみをどうにかすることは一切できないだろう。

 無言のまま、父が手を出してきたのでビー玉を渡す。

 父は窓を開けて恐怖の大魔王を思いっきり投げ捨てた。ビー玉は夜闇の中に消えていった。

「――って、ええええ! ちょっと父さん! それ、大丈夫!?」

 万が一守護の力が切れたら、あの恐怖の大魔王が出てくることになるわけで。

「うん、まあ、大丈夫だろう。もしその恐怖の大魔王が出たりしたら……」

「……したら?」

「そのとき考えればいいだろう」

 あんなビー玉、持っているだけで気色悪い、とのこと。

 なんか、軽いなー。


 そんなわけで、大海崎家の庭のどこかには恐怖の大魔王が落ちています。


Adventure in school. Fin.

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Adventure in school. たかぱし かげる @takapashied

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