ガーディアン-イクセプト
浄化された恐怖の大魔王は、つるつるすべすべになった。
「なんてこと……!」
悔しそうに
「きゃあっ」
「比奈!」
大魔王の発した衝撃波で比奈が吹き飛ばされる。慌てて受け止め、事なきを得た。
「
大魔王がまた呪詛を吐き出し始める。あの破壊の攻撃だ。しかも今回は先の比ではない。巨大な光球が徐々に生み出される。あんなものが落とされたら、裏庭ごと消滅だ。
おためごかしのバリアーなど、あれの前では無力だろう。逃げなければ。そう思うものの、体はまったく動かない。皆で呆然と死の光を見上げるしかない。絶望的だ。
「
比奈が手を握ってくる。その声は震えているが,瞳は力を失っていない。この人は、まだ諦めていない。
「椿。みんなを、守って」
ごめん、ムリ。
チリチリと肌を焦がすような熱気を上から感じる。
わたしの、風巻家の
でも、比奈ならよく知っているだろう。守護は強力だけれども、それは守り護ると心の底から思い定めた一人にしか真価を発揮できない。
もしかしたら比奈一人なら守り抜けたかもしれない。でもここには相沢も彩乃さんもいる。他にもたくさんの生徒がいる。このなかからたった一人を選んで守護することも、あの人もこの人もと皆を守ることも、風巻椿にはできない。
恐怖の大魔王を仰ぎみれば、空を蔽うような破滅の球ができあがったところだった。これは本当に、終わりだ。
「違う、椿! あきらめないでっ。世界を救うヒーローになるの」
今さら意味はないだろうが、比奈をかばってぎゅっと抱きしめる。
手のかかるお嬢様だったけど、比奈は大事で大好きな親友だった。
相沢も、気になるやつ止まりだったけど、一緒にいてすごく楽しくて、このまま友達を続けていればきっと好きになったと思う。
彩乃さんは出会ったばかりでまだよく知らないけど、あの比奈に付き合ってくれているんだから絶対いい子に違いない。
家族も好きだし学校も楽しかった。こんな唐突かつ意味不明にめちゃくちゃにされるなんて納得はいかない。
わたしだって世界を救えるものなら救いたかった。この世界は好きだか――ん?
ふと、思いつく。
わたしは“世界”が好きだから、だから“世界”を守り護るとしたら、どうなる?
できるのかどうか、ちょっと微妙な気がした。でも、下で比奈が力強く頷く。やれ、と言っている。
恐怖の大魔王と消滅の光球。周りに渦巻く瘴気。それらが、空を空気を大地を生きとし生けるものを脅かしている。この世界を侵している。
だから、わたし風巻椿は、世界を守り護る。
「守護」
恐怖の大魔王はなにか叫んだようだったが、強力な守護のベールに遮られ、それさえもこちらへは届かなかった。紫に覆われたそれは、どんどん丸く小さくなり。
ぽとん、と落ちてきたときにはビー玉サイズに成り果てていた。
「…………」
拾い上げてみる。紫色の光沢に包まれたそれは、日に透かしても中がどす黒くてなにも見えない。
すっかり晴れた空には、昼ののどかな空気が漂っている。
立ち上がった比奈がスカートの土を払いながら、満足げに微笑む。
「これが、攻撃は最大の防御というやつね!」
お嬢、それは違うと思います。
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