ザファースト-センテンス

 巨大で禍々しい異形のソレ。紛うことなき恐怖の大魔王。

 威圧感が轟く重低音になって空気を、大地を震わせる。

 声にならない悲鳴を上げて、腰を抜かし頭を抱え這って逃げようともがく生徒。

 阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

 恐怖の大魔王が口から呪詛のごとき不明瞭な音を吐き出す。徐々に赤い光が集まっていく。触れるまでもなく多大な熱量を感じさせるそれは、すべてを消滅させる破壊力そのものか。

 呪詛がやむ。次の瞬間、恐怖の大魔王が無言で破壊光線を撃ち放った。

「――っ、シールド!」

 とっさに両手を突き出し、光線を受けるための防御壁を展開する。

 そう、隠してはいるけれど、風巻かざまき家も異能ストーン持ちだ。その能力はまぁつまり防御系である。

 でも本来はこういう使い方をするためのものではない。全力で張った不可視の障壁は見事に光線を防いではくれるが、両腕にかかる圧力はすさまじい。

 腕と肩がミシミシと嫌な音を立て、胸の心臓ストーンがあまりの負荷に悲鳴を上げる。

 あ、ダメだこれ、押しつぶされる。

 ぐらりとよろける。

「大丈夫か、風巻」

 相沢あいざわが左手に手を添え、ぐっと力強く支えてくれる。ありがとう、相沢。でも顔が近い。照れる。

「あきらめないで、椿!」

「うう、頑張ってください、椿さん」

 比奈が右手を、そして彩乃さんまでもが背中を支えてくれる。

 うん、ありがとう。これなら大丈夫。

「せーのっ」

 四人で力を合わせて大魔王の破壊光線を押し返す。つんざく破裂音と共に防御壁は光線を弾ききった。反動が衝撃波になって皆地面に叩きつけられる。

ってぇ」「やあん」「ぐふ」

 相沢が全身を打って左に転がる。比奈は髪と顔に土をつけて震える。彩乃さんは、……ごめん、わたしが上に乗って潰した。おかげでわたし、無傷。

 そして、恐怖の大魔王の濁った目が邪魔をしたわたしを見下ろし、睨む。その視線はとても気持ち悪い。吐きそうだ。

「わたしが――」

 比奈が立ち上がった。視線を防ぐように前に立ち、気丈に大魔王をめあげる。

「浄化を試してみる!」

 比奈が真っ赤な業火をまとう。汚れの落ちた金髪がふわふわと火に踊る。その姿はとても綺麗だ。

「浄化っ!」

 炎を両手に集め、裂帛の気合いと共に撃ち出す。恐怖の大魔王は、比奈の浄化の炎に包まれた。がぁ、と恐ろしげな奇声を上げる。

 とはいえ、比奈の炎は単なる能力の視覚効果エフェクトに過ぎず、それ自体に熱とか燃焼とかはない。カッコいいだけ。

 だから、大魔王は燃えなかった。アニメみたいに浄化で灰燼に帰したりもしなかった。あえて言うと、ちょっと清潔感増して肌つやが良くなった……?

 恐怖の大魔王の目がにまりと笑い、口からおぞましい声を出す。

「…つるつる……すべすべ……」

 恐怖の大魔王の第一声は、「つるつるすべすべ」。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る