ディセンティング-テラー

「世界を救いましょう!」

「へ? えと、ちょっと意味が」

 手をがっちり握られて、相沢あいざわが困惑顔をこちらに向ける。ごめん、でもこんなときに声かけてきたそっちが悪い。

「あら、相沢君も異能ストーン持ちなのね」

 比奈ひなは相沢の手をにぎにぎしながら朗らかに言い放つ。というか、いつまで握ってるつもりだ。わたしは手なんか握ったことないのに。

「え、ああ、うん。大したヤツじゃないけど」

 相沢がそっと比奈の手をほどき、右手のひらを開いてみせる。小さな青い石がきらめいた。

「まあ。ヒーロー戦隊っぽくなってきたわね! それで、どんな攻撃ができて?」

「いや、攻撃とかではないけど。なんていうか、しょぼい探索」

 ちょっとした探し物は得意だと聞き,比奈があからさまに残念そうな顔をする。

「もう、比奈。いいかげんにして! なにが降ってくるか しれないんだから、いったん建物の中に――」

「そうだ!」

 比奈が勢いよく手を打ち合わせる。今度はなにを思いついた?!

「それなら相沢君、探し物を頼めるかしら? 見つけて欲しいのは、攻撃力の高い仲間か、恐怖の大魔王なのだけれど」

 目をキラキラ輝かせながら無茶ぶりをする。

「あー、悪い。俺が見つけられるのって具体的なものだから、人ならせめて名前がわかんないと。っていうか、恐怖の大魔王ってなに!?」

 こっち見て聞かれても困る。事の発端である彩乃あやのさんを振り返ってみたけれど、憔悴しきった顔で首を振るばかり。もはや元気なのはお嬢、大海崎比奈だけだ。

「恐怖の大魔王は恐怖の大魔王よ。わたしもよくは知らないけれど。ふう、異能ストーン持ちが集まっても世界を救うのって難しいわね」

 かわいい顔で悩ましげにつぶやくが、誰も比奈に世界救って欲しいなんてそんな期待していない。どちらかというと、余計なことはしないでいてもらいたいと願っている。

 お嬢をどうしたらいいだろう。はぁと嘆息し空を仰いだ。だからちょうどに気づいた。

 校舎よりはるか高いところに一つの点が現れ、黒く煌めく。目を疑っているうちに点は空に広がり黒々とした穴になった。バリバリと雷鳴がとどろき、黒い雲霞が渦巻く。皆が呆気あっけにとられて空を見上げる。

 ズズズズズ……肉を引き裂くような不気味な音と共にそれは穴から姿を現した。裏庭を蔽うほどの巨大な影を落とし、ひどく禍々しい、人とも獣ともつかない異形のフォルムで恐怖を振りまく。それが今まさに頭上に降りてきている。

 これは、すごくやばいヤツだ。想像以上にガチだ。そう思うのに、誰一人動くことさえできない。

 すぐ横の相沢がかくかくした動きでかろうじて顔をこちらへ向ける。その顔は恐怖に染まっていた。

「……風巻。俺、今、恐怖の大魔王、見つけたわ」

 言われなくても知ってるよ!


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