第2話 好き

あいつの名前は石森奏という。いつも仏頂面で、決まった友達もいないし、どこかのグループに所属しているわけでもない。成績は常にトップクラスで、先月は学年集会で表彰もされていた。いわゆる一匹狼というやつだ。「根暗だよね」と友達はよく噂している。

でも、私はあいつのそんな気高さが好きなのだ。

私みたいに誰かとベタベタ付き合うのは嫌だけど、かと言って一人ぼっちにはなりたくないというハンパな人間にとって、人との関わりを断ち自分の世界に没頭するという強さには憧れざるを得ない。


それに長ったらしい髪と厳つい銀縁メガネのせいで隠れがちだが、結構整った顔をしているのだ。それが奏の凛々しさを引き立たせているのだとも思う。

あまり人と積極的に関わろうとしない私には珍しく、もっと話して友達になりたいと思っているのだけど、なかなか声を掛ける勇気がなく気がつけば月日だけが流れていった。

勉強に打ち込んでいるわけでもなく、かといって部活に精を出しているわけでもなく。いつも同じ友達グループと一緒に放課後にマックに行ったり家でだらだらしたりと、およそ理想の高校生像からは程遠い学園生活を送っている私は、心のどこかで絶対的な人間を求めていた。

彼氏もいないし(自分では割と悪くない顔をしているのだとは思っているのだけれど)、別に積極的に行動するほど欲しいとも思ってはいない。

別に人を好きになったことがないというわけでもないし、こう見えても告白されたことだってある。けれど、やはり人と付き合うというのはその人のことを好きじゃないと相手に失礼だし、軽い気持ちでしていいものでもない気がするのだ。……なんて。

こんなことは友達には言えない。どうやら周囲は私のことを「ぼんやりしてるけど面白いやつ」程度にしか思ってないようだし、キャラじゃないというのも自分でわかっている。


自分でもまさか女の子をこんなに好きになるとは思っても見なかった。

でも、1日に何回も何しているか気になって、家で漫画を読んでいるときも、お風呂に入ってる時でも、部屋の明かりを消してベッドに入る時でもふとした時にあいつ《奏》の事を思ってはドキドキするこの感じは、やっぱり恋なのかなと思ってしまうのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

楓と奏 文月 @triplet_sft0746

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る