Chap1-7 斎藤家にて

月面のAIC指令室では、子供丈の2人が腕組みをして何やら相談している。


「ケイティ、高島町2丁目大鳥神社付近の動体エネルギーを分析してもらえる。」

羊の角が生えた女性が答える。

「3~4メートルの物体が5体。時速10kmぐらいの低速で移動しています。これはウエイ人ですね。」


「どうしようかコヨコヨを転送する?」

「バグスターがいない時間が不安だ…ここはチャネリングだろ!」

「チャネリングしてどうすんのさ??」

「恒星騎士の刀を使うんだよ。アラトの遺品のやつさ。」

「でも、彼女は資格者じゃないし、抜けないでしょ!」

「俺がチャネリングすれば抜けるって…騎士だし」

「元だろ。なんだかやけっぱちだな~」


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氣恵は取り調べが終わると、女性刑事に付き添われ、第八方面本部を出た。

「昭和高校の女の子はどうなったんですか?」

「彼女は医務室で休んでいます。幸い命に別状はないみたいです。」


「犯人は?もう襲ってこない?」氣恵は用心深く聞いた。

「犯人は射殺されたようです。もう、心配しなくて大丈夫ですよ。私がご自宅までお送りしますね。」


女性刑事は感情のこもっていないような声で氣恵に話した。


パトカーが斎藤家の道場の前で止まる。


氣恵がインターフォンを押すと、祖父の益一が出た。

「おじいちゃん、遅くなってごめんね。今日は色々あって、警察の人が来てるから経緯を聴いてもらえる。」


「氣恵、お前よろしくないものを色々連れてきてしまっているようだな。

お母さんは二階に隠れてなさい。

今からドアを開けるが、中まで一気に駆け込みなさい。

いくぞ!1、2、3っ」


ドアが開くと益一は木刀を構え一気に飛び出る。変わって氣恵が扉へ飛び込んだ。


「おじいちゃん見えてるの??」


とっさに立ち上がったムカデの喉元に木刀が突き刺ささる。その一匹をけり倒した勢いで益一もドアの中へ。「何をやってるの?扉を閉めなきゃ。」


益一はドアを閉め鍵をかけたが、バンッバンッとドアに体当たりをしている重い音がこだまする「あまり長く持ちそうじゃないの・・・」


その時、氣恵の意識の中に何者かが語り掛けた。


“道場へ行くんだ。行って、飾られている刀を鞘から抜くんだ”


フラフラと歩きだす氣恵を見て、益一は

「道場か、道場なら多少安心だ。あそこの扉は閂がはまっている頑丈なやつだ!」


氣恵は道場に行くと、神棚の下に飾られている西洋風の刀の前に来た。この刀は父である或人の唯一の遺品であると氣恵は聞かされていた。


刀を手にしたその時。「バリバリバリン」と左右の道場扉の閂が折れ、ムカデが2匹道場に侵入した。


「うわーっちょぃぃ!!」

氣恵の意識の中の声が叫ぶと、氣恵は自意識を取り戻したが、取り戻した反動で、刀が鞘から抜けた。その瞬間、氣恵の意識は別の世界へ飛んだ。


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氣恵の意識―


私は、不思議な世界にいた。

この世のものとは思えないほど美しい女の人が現れ、今、私の身に起こった事を説明してくれた。


―どうやら、あの刀を抜くことができてしまった者は、恒星騎士と言う資格を得るらしい―


彼女から刀の使い方、宇宙の始まりの話、並行する別世界の話、善と悪との戦争の話などを聴かされた。


そして、ある時は燃え盛る恒星へ、ある時はどこまでも続く宇宙に横たわった海へ、銀河を眺めたり、SF映画で見たような文明が高度に発展した都市へも連れていってくれた。


私はその世界に何年も留まっていたかのような感覚を受けた。


女性が「そろそろいかなきゃね!Good Luck」と言うと、私の意識は元の世界に戻っていった。


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2匹のムカデが今まさに、氣恵に襲い掛かろうとしていた。

ムカデの牙が氣恵に触れようとした瞬間。


既に氣恵はその位置にいなかった。


と同時に2匹のムカデの動体は真っ二つに切り裂かれ。上部が床に落ちた。

「ドサ」っと言う音とともに、再び氣恵の姿は現れた。


「これが、マルチスペースってやつね。案外楽勝かも♪」

「そうだ、おじいちゃんを助けなきゃ!」


玄関ホールではドアが半分までこじ開けられ、そこからムカデの牙が見え隠れする。そこへ氣恵が到着した。

「氣恵!まさかお前刀を抜いたな!!」

そう益一が言い終わる前に氣恵が叫んだ。

「おじいちゃんよけて――っ」

益一が身を翻すと、氣恵は逆袈裟の形で刀を振り上げた。


刀から三日月状の衝撃波が発射され、ドアごとムカデを切り裂いた。


ドアを切り破ると、二体の斜めに切り裂かれたムカデの残骸と、

益一が突き殺したムカデが転がり、奥の方には女性の刑事も倒れていた。

「この人は大丈夫なのかな?」益一がそう口にすると、


「大丈夫だ。毒はそのうち消える。

操っていた主が死んだので、もう操られることもない。」

益一が声の方向を向くと、月にいた宇宙服の子供丈の二人が立っていた。


「お前たち、見ての通り氣恵は刀を抜いたぞ!どうしてくれるつもりだ!」

益一は子供丈二人を怒鳴りつけた。


子供丈の二人がぐちゃぐちゃと小声で話している。

「オヤジさん状況が飲めてるぞ、どうして??」

「昔から勘が良くて、理解力も半端ないからそうなんだろう・・・」

「お前が抜く手はずだったんじゃないの?」

「だから、チャネリングが一瞬解けた瞬間に本人が抜いちゃったの!」

「どうすんの?恒星騎士になっちゃったじゃないか。」

「どうしようもないじゃない、資格者だなんて知らなかったんだもん!」


「ゴホン!!」益一は咳ばらいをした。


「え~と、理解している通りだ。彼女は自分の意志で(と言うか偶然に)刀を抜き、恒星騎士の資格を得た!銀河のルールに従って、彼女には騎士の職務についてもらう! ぅん!」

子供丈の一人が益一に告げる。


「こぉの馬鹿者が~!! 

お前たちが誰だか、わしが知らんとでも思っているのか?

揃いも揃ってふざけた格好をしおって!

お前たちは、この子の気持ちも、この子の未来も考えれんと言うのか?

そんなふざけたもんに孫を預けてやれると思うか!!


帰れ。わしが納得するまでは孫には合わせん。」


「ダメだよ、もう帰ろう・・・」

子供丈の二人が帰ろうとしたその時


二階からの氣恵の母=ナタリーが降りてきた。

帰ろうとする子供丈の二人に向かって

「Per favore aspetta, non andare, torna indietro, per favore!」と叫んで

うなだれた。


うなだれる母の肩に益一はそっと手を置き、

「済まなかった」とつぶやいた。


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その夜、ママは何やら私の部屋の押入れを物色した。

「Shazam!!」ママは嬉しそうに言うと、昔パパから誕生日にもらった、特大のパンダとクマのぬいぐるみを手にしてた。


私は精神的にも肉体的にもかなり疲れていたので、爆睡したけれど、ママは朝までミシンを踏んで何かを作っていた。


21日は学校も部活も休みだったけれど、なぜだか早く起きてしまい。

リビングの方に降りていくと、ママがこっそりドアの無い玄関から昨日の二人を家の中に呼び寄せた。


二人とママはママの部屋に入った。私はママの部屋の扉(引き戸)をこっそり開けて中を覗き込んだ。


一人がもう一人の顔の部分のドームについているコックをひねった。

“ぷしゅーっ”と音がして、用意した洗面器に何らかの液体が流れ落ちるとドームが開き、中からスパゲッティー状の物体が這い出してきて、ママの方に寄って行った。


私はとんでもないものを見てしまった気がしてママの部屋を後にした。


しばらくすると、今度は道場からおじいちゃんの声が聞こえた。またしても、こっそり覗くと、ママの後ろ姿も見える。


「話を聴いてくれてありがとう。今日は、決意とそしてこれからの提案を聞いてもらいに来た。」


・・・昨日の奴の声だ。


「よかろう、話してくれ。」


「我々はこの子を守る。全霊をかけて守る。戦争も我々が引き受ける。そして、そのために俺はここで暮らそうと思っている。」


「よいと思う。精進して氣恵のために励んでくれるなら許そう。」


私はそこで居ても立ってもいられず。道場内に踏み込んだ。


「お爺ちゃん!!“よいと思う”ってどう言う事。

なんでこんな奴と一緒に暮らさなきゃいけないの?

大体こいつら正体は、ぐちゃぐちゃのスパゲッティーみたいなキモイ生物だよ・・・

って何?その格好!!」


私は思わず噴き出した。だってクマのぬいぐるみと、パンダのぬいぐるみが軍服みたいな制服を着て正座してるんだもの!!


「ママ~何って事をしてくれるのよ!!!!」


おじいちゃんが私に語りかけた。

「まあ、氣恵聞きなさい。

お前は昨日の件で、恒星騎士と言う厄介な仕事をけしかけられる存在になってしまった。この二人は、その厄介な仕事をお前の代わりに引き受けると言っている。

当然、守ってもくれる。まあ、確かにふざけた格好だが、お母さんがお前が慣れるように、素敵な衣装も作ってくれた。私は、それが得策だと思う。どうだろうか?」


そんなこんなで、私の家に変な宇宙人が居候することになった。そしてこの日、私は普通の女子高生ではなくなった。


私の名前は斎藤氣恵。17歳。本日より恒星騎士をやらせていただきます。

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