主人公シロー・サリバ・スロークが放り出されたのは全方位宇宙<そら>のどこにも寄る辺ない虚無空間だ。遭難して一ヶ月、彼は彼が乗る小型船【デカン号】の中で今にも息絶えようとしていた。
あまりにも絶望的な状況で、デカン号はある通信波をキャッチした。そして満身創痍の機体と彼は、文字通り命を懸けた最後の賭けに出る。
手に汗握る船内活劇で幕を開けるのは、超空間航行で繋がった汎世界を翔る、旅人シローの冒険の物語。
大胆不敵でありながら機知に富む切れ者、おまけにクレバーでユーモアも併せ持つが何と言ってもお人好し、憧れを生きる旅人の中の旅人、シロー・サリバ・スローク。
彼がまた凄いんです!彼こそをまさしく理想の宇宙の男と称したい!読者は必ず彼と彼の生き様を好きになる、いや惚れる!
そして忘れてはならないのが彼の相棒でんたく!作業補助知能としてだけではないシローの親友としての彼の活躍を見れば、誰だって愛おしく思えてくるはず!
茶目っ気たっぷりな上に超高性能、とにかく可愛いボット、でんたく!
彼らを始めとする登場人物たちの魅力が、時に不気味に、時に切なく、時に熱く描かれていく。この作品の大きな特長の一つでもある、洗練された描写で、彼らの心が映し出される。
それは例えば破滅をも恐れぬ野望であり、行き場を失った後悔、美学とも言うべき食欲、決して折られる事のない矜持、そしてこの宇宙に燦然と輝く夢。
この世界で己がじし躍動する彼らの魂の、その息吹に触れて、読者は感動しそっと想いを馳せる。いわゆる一つの幸福をぜひ味わって欲しい。
古代の旧王朝に眠りし巨大外骨格のコックピットに搭乗した時、伝説を巡る物語が目を覚ます――。
広大過ぎるほど広大な宇宙を舞台に、幾つもの運命が交差する。底知れない大きな謎を背景に進んでいく物語の果てに、どうしようもなく引き込まれていく。
ロマン溢れる世界観が主にシローの視点を通して、透徹したSFのエッセンスと読者の心を揺さぶる巧みな構成で描写されていく。
垢抜けていてスタイリッシュだが、親しみやすく懐かしい、近未来的であり現代的であり古き良き時代的でもある、美しい文体によって織り成される。
それは恐らく、彼の視点を通して書かれているが故に、そう感じられるのだろう。奇しくも星と星を繋ぐように、過去と未来を結ぶ架け橋になってくれているようだ。
作者の含蓄の豊かさつまり表現の深みに私は時々、恐ろしくも胸を打たれるのだ。
センスも良い上に趣味も良い、読んでいてこれ程心地好い小説は本当に希少です。人生でそういった作品に出会えるのは黄金よりもずっと価値のある事だと思います。
どうかこの愛すべき魂たちの愛すべき人生を見届けられたらと願っています。
【最後に】
こんな浅学手前の無知な私では、GOLD SPICE!!の魅力を紹介し切れないのは当然も当然です。苦し紛れにべらべらと長ったらしくレビューのような真似をさせて貰いましたが、伝えたい事は一つなんです。
とてもかなり面白いので、ぜひあなたもこの珠玉の傑作を読んでください!