REJECT
新成 成之
第1話
もうどれくらい経ったのだろうか。扉も窓も、ましてや照明も無いこの真っ暗な部屋に閉じ込められて。
「誰か助けてくれよ───」
*****
数日前までは普通に生活をしていた。学校に行って、授業を受けて、家に帰って、飯を食って、風呂に入って、寝る。何て事ない、普通の生活をしていた。ただ一つ、誰とも関わらないということを除いて。
「今日帰りにゲーセン寄ってこうぜ」
帰りのホームルームが終わると共に、仲のいい友人同士が集まり、寄り道の会議やら、部活に行く準備を始める。俺はそのどの輪の中にも入らず、誰よりも早く教室を後にする。
教室いう空間、いやそれ以上に学校いう環境が嫌いだ。
何故、得体も知れない連中と仲良しごっこをしなければならないのか。
俺からしたら、ゲームセンターに寄ろうとしていた男達も、一緒に帰ろうと声を掛けていた女達も、上部だけの関係にしか見えない。そんな事までして、集団に紛れながら生きていかなければならないのか。そう思った時から俺は誰かと関わることをやめた。
そんな俺が珍しいのか、また、いけ好かないのか、クラスの連中は俺を無視し始めた。別に何も困りはしない。そもそも仲良くしようなんてこれっぽっちも思っていないし、何ならそっちから離れていってくれて、清々すらしている。
家に帰ると、俺はすぐ様自室に戻るとベッドに寝転び漫画を読む。
漫画は大好きだ。
現実世界では有り得ないことや、俺の理想なんかが盛り込まれている。それに、僕の知る人間が出てこない。それが、俺が漫画が好きな大きな理由だ。
必要の無いものは描かれず、求めているものだけが登場するこの漫画という世界に憧れさえ抱いている。
「俺もこんなふうになれたらなぁ───」
なれっこない。分かっていながら、そうぼやいてしまう。
*****
広さは四畳半程度。手を伸ばしても、天井には届かない。勿論、家具なんて一つも無くて、それどころか、トイレすら設置されていない。そのせいなのか分からないが、不思議と便意も尿意も、空腹すらも感じない。
時折、部屋の外から夕方を告げる市内放送が聞こえ、それが唯一の時刻を知る手段となっている。何故ならスマホの電源が付かないからだ。
今日も、ドボルザークの交響曲第九番「新世界より」第二楽章が流れている。
それが流れると、小学生くらいの子供たちの声が聞こえてくる。学校帰りなのだろうか、とても賑やかだ。
その声が聞こえる度に、俺は必死に叫ぶ。
「頼む!開けてくれ!!おいっ!聞こえてないのか!?開けてくれよ!」
しかし、部屋の外の音は聞こえても、中の音は外には聞こえない仕組みになっているらしく、これまで幾度となく叫んだが、誰も気付いてくれはしなかった。
「このままここで死ぬのか───」
弱音を吐く。
何故こんな場所に閉じ込められたのか。誰が俺をこの部屋まで連れてきたのか、全てが謎である。
誰にも気付かれない、誰にも聞こえない。俺という存在は、真っ黒な部屋に遮断された。
助けを求めても、届きやしない。
出口を探しても、壁の冷たさが分かるだけ。
まるで、俺が創り上げた“心の壁”の如く、俺と世界を隔てている。
REJECT 新成 成之 @viyon0613
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