第3話 優しいおばちゃん達

「実は前から本場の人に食べてもらいたかったんよ。ささ、遠慮なく食べてや。味は正確に再現出来てると思うんやけど……」

「ん、美味い。よく出来てます」

「ほんま? 良かったわあ。しっかり研究した甲斐があったわ」


 自慢の料理を褒められたユキは満足そうに笑う。それにしても冬はやっぱりこたつに鍋と言うか、彼女の作った鍋料理は本当に絶品だった。実はこっそり一流の板さんに料理を指導してもらったんじゃないかと思うほど、つまりお金を取れるレベルの美味しさだったのだ。

 その内に炊き上がった美味しそうなご飯も運ばれてきて、もう何も言う事がなかった。私は手厚いおもてなしを受けながら、ここでふと気になった事を話のネタにする。


「あの、そちらの星の人はみんな日本に?」

「いや、アメリカに降りたりフランスに降りたり、バラバラやね」

「そうなんですか」


 ユキの説明によれば、地球に観光に来る宇宙人は世界各地に散って観光をしているらしい。どこの国が人気だとか言うのはあるものの、大幅に人気が偏ると言う事はないらしく、北半球も南半球も、アメリカもアフリカも、アジアもロシアも南アメリカも、更には太平洋の島々も、とにかく地球上の街のあるところならどこにも等しく宇宙人達は観光に訪れているのだそうだ。

 この話に私がうんうんと感心しながら頷いていると、私の隣で土鍋をつついているイモが口を挟む。


「みんな現地の人に馴染んだスーツ着てるからバレへんのよ。今回はたまたま。それにしても機械が壊れるとは思わへんかったわ」

「災難でしたね」


 私が今回のトラブルについて同情していると、ユキが鍋の具をお玉ですくって私の小皿につぎながら話しかける。


「まぁもうそんな細かい事はもうええから、今はとにかく楽しもうや」

「あ、有難うございます」


 こうして楽しいおもてなしの時間は過ぎていく。色々話して盛り上がっていく内にお腹も膨れてお酒も回って、いつの間にか私はすっかり酔っ払ってしまった。

 このタイミングを見計らってか、ユキが私にプライベートな事を聞いてきた。


「美和ちゃんは何してるん?」

「普通にOLしとるよお……」


 宇宙人にこっちの仕事の事を話して理解してくれるのかどうか分からなかったものの、酔っ払ってしまった私はそう言うのを一切気にしないままに話を進める。

 それでもちゃんと話は通じたようで、イモが私を労ってくれた。


「お仕事大変やろお? 色々聞いて知っとるよ。ブラック企業とか……」

「そうなんれふよ~。聞いてくらさいよお~」


 彼女の心遣いが嬉しかった私はこの環境に甘えて、そこから怒涛の愚痴タイムを始めてしまう。そうして一方的に溜まっていた愚痴を全て吐き出し終わると、私はこたつのテーブルに突っ伏した。この状況を目にしたイモは呆れている。


「あかん、出来上がってしもうたわ……」

「美和ちゃん!」


 私がそのまま眠りかけた時、それを阻止するかのようにユキが大声で私を起こした。この状況に、私は訳の分からないままむくりと起き上がって返事をする。


「ふぁい」

「ええか、生きとったらええ事あるで。せや! これあげよ。出会いの記念や」


 彼女はそう言って私に何かを手渡してきた。渡された右手をよく見るとそれは何かの指輪のようだった。


「なんれすかこれ?」

「ちょ、ええん? それあげても」


 ユキのその行為にイモが驚いている。どうやらこのアイテムはとても重要なものらしい。その彼女に責められたユキはニッコリと笑う。


「ええのええの、私も現地の友達が欲しいって思とったから」

「何の話れふか?」


 酔っ払っていたのもあってこの状況に理解が追いつかない私は、目の前の揉めている2人に説明を求める。この要求にユキが答えた。


「これがあったら私らとこうやって会う事が出来るんや」

「ふぁい?」


 その話が端的過ぎた為に私はもう一度聞き返す。ちゃんと伝わっていないと理解した彼女はもう少し具体的に説明する。


「普通は街から出たら私らはバレんように宇宙船の装置を使って姿を消しとるんや。それで今まで誰にもバレんかった。その指輪はその装置の効果を無効にする物なんや」

「じゃあ、また会えるんれふね?」

「そう言う事や。美和ちゃん、また会おうな。そんで色んな話をしよや」

「ふぁーい……むにゃむにゃ」


 具体的な説明を受けてようやく話が理解出来たところで、私はついに襲いくる睡魔に負けてしまう。それを目にしたイモが苦笑いを浮かべた。


「あ~あ……ついに寝てしもうたねえ」

「寝かしといてあげよ」


 それから私は完全に意識を失った。そして何をどうやったのか次に気が付いた時、自分のベッドで私は目覚めていた。


「あれ? ここは……?」


 あれは夢だったのだろうか。夢だと思えば全てに合点がいく。我ながらおかしな夢を見たなと苦笑していると、右手が何かを握っている事に気がついた。

 恐る恐る手を広げると、そこには宇宙船でユキから貰ったあの指輪があった。


「夢やなかった!」


 それから私は週末が来るのが楽しみになった。きっとまたあのおばちゃん達に、愉快な宇宙のおばちゃん達に会える。今度はどんな話をしようか。何かお土産を持っていこうか。色んな妄想が頭に中に広がって止まらない。ああ、早くまたおばちゃん達に会いたいな。

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