第2話 おばちゃん達のおもてなし

 背の高さはユキが私より少し高いくらいで165cmくらいだろうか。後の2人は160cmの私から見ても少し低く、セリが155cmくらいで、イモに至っては150cmあるかないかくらい。

 3人の服装は上下共派手なヒョウ柄の服で決めていて、今時ここまでコテコテなヒョウ柄も見ないんじゃないかと思うくらいの異彩を放っている。


 3人の自己紹介が終わり、おばちゃん達だけに自己紹介させるのも不公平だと思った私はこの話の流れで今度は自分の自己紹介をする。


「わ、私は神田美和……」


 こうして簡単な自己紹介が終わったところで、ユキが目をキラキラと輝かせながら私に質問する。


「美和ちゃんひとりでここまで来たん?」

「いつも流れ星が落ちるの見てて、今日に限ってこの山に落ちていくのが見えたから……」

「あちゃー、その時から壊れとったんかー」


 私の話を聞いたユキが頭を抱えている。この様子から察するに、どうやら機械が故障したせいで私にも宇宙船が見えるようになってしまったようだった。

 事情が理解出来た私は勇気を振り絞って、目の前のおばちゃん達に話を振る。


「な、何しに地球に?」

「そんなん観光に決まってるやん」

「え?」

「今なあ、地球に旅行するんがうちらの星でブームになっとってな。それで私らは定期的に遊びに来てるんよ。ここエエ街やろ? 気に入ったわ」


 ユキの話す真実を聞いた私は呆気に取られてしまった。侵略じゃなくて観光って……。彼女達のフレンドリーな理由が分かって私はほっと胸をなでおろす。


 とは言え、この話はどこまで本当なのだろう。そもそもあのこれみよがしに構えているUFOは本物なんだろうか? 実は壮大な質の悪いイタズラって事はないのだろうか? 何もかもが気になった私は思わずその事についても質問する。


「ぜ、全部本物なんですよね? 仕込みとかやなくて」

「あんた、私らが宇宙人に見えへんのやろ。そりゃ当然や。バレたら騒ぎになって観光どころやないしな。実はな、これ、人間そっくりのスーツなんよ。これ着て現地の言葉使うたら誰にも私らが宇宙人ってバレへんちゅー訳や」


 宇宙人が何故おばちゃんの姿をしているのかはこのユキの解説で分かったものの、観光と言う事は当然買い物とかもするのだろう。ならば先立つものも必要になるはず。私はその疑問を当然のように口にする。


「お、お金は?」

「ちゃんとあるで。ほれ」


 ユキは躊躇なく私に財布の中身を見せてくれた。高額紙幣がごっそりとその中に収まっている。その束を見た私は思わずゴクリとつばを飲み込んだ。


「お金はまぁ政府との裏の取引でな。バレへん事を条件に両替してくれてるんや」

「そ、そうなんですか……」

「な、秘密にしてくれるやろ? まぁ記憶を消してもええんやけど……」


 ユキが迫力のある笑顔で迫ってくる。勿論私の出す答えは決まっていた。


「や、あの……。だ、誰にも言いません! 言っても誰も信じてくれへんやろし……」

「どうする? 帰ってもらう?」


 ここでユキの友達のセリが話に割って入る。私としてもここで帰れるなら、このまま素直に帰りたかった。やっぱりこの状況は不気味で怖いし……。そんな訳で渡りに船と私が口を開きかけると、ユキから意外な言葉が返ってくる。


「いや、折角ここまで来たんやし、上がっていかへん?」

「へ?」

「宇宙船、興味あるやろ?」


 彼女はそう言いながらニコニコと笑っている。この突然のお誘いに私は困惑してしまう。確かに流れる光に興味を持ってここまで来たものの、別に宇宙船に興味があってやってきた訳ではない。それに宇宙船に乗せられたらその先でどうなるか全く予想がつかない。

 最悪の事態まで想像すれば、この誘いに簡単に乗る訳には行かなかった。私だって命は惜しいのだ。


 答えを出せない私が直立不動のままその場で固まっていると、ユキのもうひとりの友人のイモが彼女に話しかける。


「あんた、乗せるつもりなん? モノ好きやなぁ」

「ええやろ! 私が船長や!」

「はいはい、船長の言う事は絶対です」


 うまく説得してくれるのかと思ったら、イモはあっさりとユキに言いくるめられる。と、なると私がこの宇宙船に乗るのは半ば規定事項のような雰囲気になってきた。ユキはニッコリと笑いながら拒否不可避とも言える強い圧を漂わせながら私に迫ってくる。あ、これ絶対断れないやつだ。


「どうや? 私の自慢の船、見てみとうない?」

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 こうして圧に負けた私はなし崩し的に宇宙船に乗り込む事となる。宇宙船から放たれる、アニメとかでよく見る例の吸い込まれるビームを浴びた私を含む4人はそのまま宇宙船の内部へと吸い込まれていった。


 外から見たらまるででっかいハリボテのようにも見えた、キラキラと輝くその宇宙船内部には馴染みのある様式の部屋が待ち構えていた。この光景を目にした私は思わず叫んでしまう。


「ええっ? 何ですかこれ!」

「すごいやろ?今うちらの星なあ、和室が大ブームでな。それで宇宙船の中身もそうしたって訳や」


 そう、そこにあったのは純和風の畳敷きの和室だった。パッと見20畳ほどのその部屋の真ん中には、これもまた見慣れた大きめのこたつがでんと構えてある。

 部屋の周囲にはふすまがあって、この部屋だけ見たらここが宇宙船内部とはとても思えない。ユキの話によれば、部屋がこう言う仕様なのは和室がブームだからと言う事らしい。


 それにしてもその凝り具合は徹底していて、私は違和感が仕事をしない事が逆に強く違和感を感じさせる結果となっていた。

 船内の和室にどう言うリアクションを取っていいか戸惑っていると、この部屋の住人のイモがするっと自然にこたつに入る。そうしてニコリと笑いかけた。


「まぁ、こたつ入りいや」


 ずっと突っ立っているのも失礼だと思った私は、彼女の誘いに乗ってその大きなこたつに潜り込む。その中はとても暖かく、私は懐かしい気持ちになっていた。

 そう言えばこたつなんて何年ぶりだろう? 実家では冬になれば必ずこたつに潜り込んでいたけれど、一人暮らしになってからはこたつとは全く無縁な暮らしをずっと続けてきた。だからだろうか、こたつには懐かしい実家の記憶がついて回る。


 心が落ち着いて安心したところで、私はこの宇宙船について素朴な感想を口にした。


「宇宙船って言うからもっとメカメカしてるんかと……」

「想像と違ってがっかりした?」

「いえいえ、そんな……」

「まぁ楽にしてや。実家に帰って来たと思って」


 ああ、何て心休まる雰囲気なのだろう。優しくされた私はすっかりこの宇宙船を気に入ってしまった。

 そうしてしばらくこたつでくつろいでいると、ユキが土鍋を持ってやって来る。どうやら社交辞令でなくて、本当におもてなしをしてくれるらしい。


「お待たせー」


 ユキとセリがテキパキとこたつのテーブルの上に食事の準備をしていく。カセットコンロの上に土鍋を乗せて食材を運んで食器を並べて……。宇宙人が準備するにしてはあまりにも見慣れたその光景に、私は友人達と騒いでいた学生時代の頃の情景を思い出していた。


「料理も和食ブームなんですね」

「お酒もあるよー。飲んで飲んで」

「い、頂きます。……あー、美味しい」


 ユキに勧められたそのお酒は地元で有名なものだった。きっとこの3人の誰かが近所で買って来たものなのだろう。それがたまたま私の好きな銘柄だったので、この素敵な偶然がとても嬉しかった。私がお酒を嗜んでいる内に土鍋の料理も完成に近付いていく。

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