宇宙のおばちゃん

にゃべ♪

第1話 謎のおばちゃん達

 私の名前は神田美和。独身でアラサーのどこにでもいるOL。特に趣味もなく、いつも会社と家を往復するだけの日々。仕事は嫌いじゃないけど、特に好きでもない感じ。ルックスも地味で年齢の事もあってあんまり浮いた話もなく、毎日が無味乾燥に過ぎていくばかり。ああ、せめて何か新しい出会いが欲しい。


 そんな代わり映えのしないルーチンワークをそつなくこなしていた私はある日とんでもない事件に遭遇してしまう。


 それは暮れも差し迫った冬のある日の事、年末進行で毎日残業続きの私はかなり疲れを溜めていた。疲れた果てた帰り道、私は日課のように夜空を見上げる。


「ふう~疲れた~」


 満天の星空を見ているとすうっと気持ちが晴れるような気がするから不思議だ。背伸びをしながら深呼吸していると、ちょうど私の目に飛び込んでくるものがあった。そう、それは流れ星だ。


「おっ、ラッキー。給料上がりますようにっと……。なんか最近よう流れ星見る気がするなぁ……」


 そこまで口に出したところで、私は以前流れ星を見た時の記憶を辿り始める。本当に最近は毎週のように流れ星を目にしていた。そうなる前は流れ星なんて年に一度目に出来たらラッキーって言うくらいくらいに珍しかったのに、いつの間にか結構当たり前に見つけられるようにまでなっていた。


「確か前も金曜の夜やったっけ? もしかしたら来週もまた流れ星が落ちてきたりして……まさかねえ」


 疲れていると独り言も増えるのか、私は星空を見上げながらぶつぶつとその後も仕事の愚痴なんかをつぶやいていた。誰かに不満をぶちまける友達もいない私はこの帰り道こそがストレス発散の場となっている。こうでもしないと心のバランスが取れないのだ。

 誰ともすれ違わないこの夜の帰り道は少し淋しくて、それでいて少し安心出来る、今の自分にとってはかなり理想的な空間だった。


 それからまたあっと言う間に一週間が過ぎる。まさかとは思いながらも多少の期待を込めて私は夜空を見上げながら帰っていた。


「あ~、今日こそ早く帰ろうと思ったのに結局いつものこの時間、どうにかせんとなぁ~。これで流れ星が流れたらほんまおもろいんやけど……」


 私がそう言った次の瞬間だった。本当に目の前を流れ星が落ちていったのだ。この偶然に私は目を丸くする。


「うそやん?! 本当に流れた……って言うか落ちた?」


 いつもは夜空の途中で消える流れ星が、今回に限って最後まで光って最後に遠くの山に落ちていくのが分かった。その山は昔遠足でも登った事のある地元でも有名な山だ。ここで私の好奇心が疼き、このまま山に登ってあの流れ星の正体を探ってみる事にした。

 どうせ明日は休みだし、他に大した用事もないし……。ちょっとした冒険に私の心は踊り始めていた。


「まさかとは思うけど……隕石が落ちたにしては静かやった……。ほんまにここに落ちたんやろか?」


 バスを乗り継いで山道の入り口まで来た私はごくんとつばを飲み込む。ここまで来て何アホな事をしているんだろうと思いつつ、私は途中で買った懐中電灯を付けて、意を決して山を登り始めた。

 昔登った事のある山ではあったものの、最近は全くの運動不足で、山の中腹まで来たところでもうハァハァと息を切らしてしまう。


「流石に今山登るんはしんどいなあ。もっと運動せんといかんわ、若い頃は平気で登れてたのになあ」


 自分の体力不足を恨みながら休み休み山を登っていると、山頂の方が明るくなっているのに気が付いた。この山にライトアップするように施設はないはず。確か展望台みたいなのはあったような気がするけど……。

 私がこの山に登ったのは随分昔の事だから、最近新しく何か出来たのかも知れない。とか、色々考えながら頑張ってその光の近くまで辿り着くと、驚きの光景が私を待っていた。


「えっ? 何やあれ! 宇宙船なんか?」


 そう、光の正体は何と宇宙船だったのだ。昔テレビで見たUFO特集でよく見かけたような、そんな分かりやすい形の宇宙船が山頂にうまい具合にピッタリと収まっている。そうしてそれだけじゃなくて、そこでセカセカと動き回る複数の人影も同時に発見した。

 私はよくその手の番組で登場する頭でっかちの宇宙人の姿を想像して身を震わせる。そうしてよく目を凝らすと、その想像を裏切る姿が唐突に私の目に飛び込んで来た。


 何と、そこにいたのはどこにでもいるような近所にいそうなおばちゃんの姿だったのだ。


「嘘? おばちゃん? 今時あんなコテコテのおばちゃんがおるん?」


 その衝撃的な光景に私は思わず声を漏らしてしまう。その声が大きかったのか、視界の先にいるおばちゃん達に気付かれてしまった。


「あっ」

「誰や?」

「うわっ、やばい、見つかってもうた。どうしよう? じっとしとったら誤魔化せるやろか?」


 私は思わず声を出してしまった事を後悔して、それから木の陰に身を隠して息を潜めた。それでほどぼりが冷めたらこの場から離脱しようと、逃げる事だけを考える。

 宇宙人に見つかったらエライ目に遭う。その手の番組の定番の展開を思い出した私はすうっと背筋が凍っていった。


「ちょっとセリ? あんたまさか装置の電源切っとったん?」

「は? んな訳ないやろ。でもちょっと様子見てみるわ」

「頼むで。バレとったら大変や」


 息を殺しながら慎重に様子をうかがっていると、どうやら宇宙人のおばちゃん達は何かトラブルを起こしているらしい。


「何やろ? 揉めとんやろか? 今やったら帰れるかも! 逃げよ!」


 今なら逃げられると踏んだ私はこのチャンスを逃すまいと急いで一歩を踏み出した。

 でもそれは私の大きな勘違いだったのだ。


「あんた、おるやろ。そこにおるやろ」

「ひい! やっぱバレとる!」

「怒らへんから出てきい。顔見せてや。大丈夫、何もせんから」

「ほ、ほんまですか?」


 見た目が怖い宇宙人の姿だったら私だって警戒して、どんなに声をかけられたって出ては行かなかっただろう。

 しかしそれが近所でも見かけそうな普通のおばちゃんの姿と声で言われたものだから、私もついその言葉を信用して表に出てしまう。


「やっぱりおったわ。セリ! どないなっとん!」

「ごめん、なんかエラー出とった。一部の現地人には認識されてしまうって表示になっとる」

「マジか。えらいこっちゃ!」


 言葉遣いも関西弁でとても宇宙人とは思えないし、もしかしたら映画かなんかのロケかもしれないと思い直し、私は改めて彼女達に恐る恐る質問する。


「あの~、一体あなた方は……」

「こうなったらしゃーないなぁ。そうやで! うちらはあんたらの言う異星人や」

「異星人て言うと他の星の?」

「当たり前やん。他に何がある言うん? あ、まずは自己紹介しょうか。みんな集まってや」


 話しぶりから見てリーダーっぽいおばちゃんが仲間を呼び始める。私はこの状況にパニックになってしまい、何も出来ないでいた。


「まずは私からやな。私はこの船の船長のユキや。それで友達のセリ、その隣も友達のイモ。私ら3人昔からの仲良し3人組なんよ」


 ユキと名乗るそのおばちゃんは自らを船長だと主張している。と、言うことは彼女がリーダーなのだろう。彼女の友達と紹介された後ろの2人もどう見てもご近所で見かけそうなおばちゃんの姿をしていた。

 みんなそれぞれにおばちゃんパーマをかけていて、見事にそれが似合っている。

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