エピローグ「日常」
*話の区切りの為、3話連続投稿となります。お間違えの無い様ご注意下さい*
「マスター、三番ブレンドです」
空に流れる鱗雲が朱色に染まる頃、喫茶店YATAGLASSの店内には元気な声が飛び交っていた。
20席以上ある席はすべて埋まり、それぞれ談笑に応じている者、または読書に埋没している者。比較的にぎやかな店内には活気が溢れていた。
そんな中忙しくカウンターの中で作業をしている渚は次々とオーダーを取りながら隣の結城と話していた。
「あれから二ヶ月、ようやく以前にまで戻りましたね」
食器を洗いながら言う渚の顔は何時にもなく笑みが浮かんでいる。
「みんなのおかげだよ。それにいつも来てくれる常連さんたちのおかげでもある」
二つのコーヒーを同時にカウンターに置いた結城は軽く息を吐くと笑みを浮かべた。
二か月前、半壊に近い状態だったYATAGLASSは以前と同じように元通りになっていた。
多種多様なジャンルの書籍。それを並べた壁一面の本棚。
ひっそりとした雰囲気を醸し出す半地下の店内は薄暗いながらも天井から吊るされた複数のモダンなシャンデリアによって照らされている。
壁紙も元通りに貼りなおされ、立て直され新品同様だった柱も適度に傷を入れられ景観を損ねていない。
しかし、二つだけ依然と違う風景が混じっていた。
店内を元気に往復する二つの可愛い服装の店員。特注サイズの制服を着たアリスとボーイッシュな制服に身を包むリーナの姿だ。
元気に回復したアリスは成春の手で九尾を封印され、首に結城と同じようなペンダントをつけている。
そして決戦の数日後日本支部のエルの元から一通の手紙と共にやってきたのがリーナだ。
小さめのトランクケースを片手に私服姿でYATAGLASSを訪れたリーナは、いきなり頭を下げるとアリスと咲に丁寧に謝った。
その後リーナがここで働きたいということを会話の途中で匂わせ始めたことに気づいた渚が軽く進めたところ満場一致で決定された。
そして店で働き始めたリーナだったが、なぜか支給された制服が男性用で疑問に思いながらも仕事をこなしていた。
その後その犯人が渚だと判明し抗議したが、意外と似合っているということで制服の変更を却下。今に至る。
「リーナも仕事を覚えるのが早くて助かるよ」
そうですねぇ、とかるく相槌を打った渚はふと思いだしたように結城に尋ねた。
「そう言えば、リーナが持ってきた手紙って何だったんですか?」
ん?と手元を休めることなく返事を返した結城はしばらく考えるとなぜかうなずき、顔だけを渚に向けて軽くウィンクをしながら言った。
「内緒だよ」
そうやって微笑む結城の姿をまるで見守るかのように、戸棚に並べられた一枚の写真に店内にいない二人の姿が写っていた。
END
YATAGLASS-八咫烏- 織田 伊央華 @oritaioka
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