第10話「異常の文化」
久方ぶりに飛行機に乗った。普段見上げている雲が、今は目を下に向けると見える。
この光景が、ある種の“非現実”のように思える。
今、私が飛行機で旅をしていることは紛れもない現実であるが、それは「人の技で成し得た現実」である。
つまり「自然界における異常」なのだ。
我々は科学という力を使い、“異常”を起こし続けながら文化を成長させてきたということなのだろう。
機内販売で買ったクリームパンを食べ、紅茶を啜りながら、そう考えていた。
我々の作り出していた“異常の文化”で食しているパンと紅茶は、何か特別なようなものである気がした。
そのうち、日が沈んできた。
飛行機の窓から見えるのは、藻屑のように這い蹲る雲と、オレンジ色に輝く水平線。それを押し潰さんとしているかのような、深く青色がかった闇だった。
ふと、後方に目をやった。後方の窓に映っているのは、ゆっくりと消えていくオレンジの光と、それを飲んだ闇だった。
まるで「私の乗る飛行機の後に何も残っていない」ようだった。
オレンジ色の光で区切られた境界線があるからこそ「闇」を認知出来るのであり、それを失えば境界線も消える。
至極当然のことであるが、これを「人間の理性と衝動」に置き換えて考えると、シンプルで当たり前であることに秘められている「純粋な恐怖」を感じる。
「この『境界線の消えた時間』を悟らせないために、眠りというものが生まれたのかもしれないな」と、愚にも付かぬことを考えていた。
私は既に冷めきった紅茶を飲み干し、一息つくと再び窓のほうへ目をやった。
自覚が薄れてきているようだが、今私は空の上なのだ。
今私は空の上にいながら、「ぼんやりと空想にふける」という原始的な行動をとっている。
科学という異常がもたらした、素晴らしい矛盾ではないか。
独白脳の男 配達員 @senedesumusu
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