どんな苦境にも負けない少女と言うと、どんな少女を想像するだろうか?
本作の主人公ユリアナは、おそらくその想像にぴったりな、それでいてとんでもなく型破りな存在になること間違いない。
以下長々と書くが、このレビューを読む暇があったら本編を読んでほしいと言い切れる作品が、本作『かくして、少女は死と踊る』である。
反逆罪の嫌疑をかけられ、帝都へと連行されるユリアナに降りかかるのは、理不尽の過ぎることばかり。美形軍人に踏みつけられ、蹴られるのはまだいい方で、大好きな後見人にもらった義足すら無くしてしまい、果てには消えない傷までつけられる。
ユリアナがすごいのは、この理不尽の雨をくらっても、決して生への渇望を切らさないところだ。落ち込んだり、彼女なりに悩んだりはするものの、次の瞬間には、強気で生意気で聡明なユリアナは復活している。しかも、より人間として成長しながら。
そんなユリアナを見ている読者に、何故か力が沸き起こってくるのは間違いない。理不尽の中にさらされた現代人の心にも、不屈の勇気が芽生え始めるのだ。(ちなみに私もかく死を読んで仕事を辞めた)
そして、勇気だけではなく、尊敬や優しさまでよみがえってくるのが、この作品のものすごいところである。
様々な思惑を抱えた豊かなキャラクターたちが、魅力的過ぎるのだ。
彼らの誰ひとり、流されて生きてなどいない。叶えたい夢や、逃れたい現実に直面しながら、信念を持って戦う彼らは、ユリアナの視点から見ても(利害が一致していたのなら)尊敬に値する存在なのだろう。敵対したり、共闘したりする中から、ユリアナは自分の無力さ、欺瞞、弱さにも向き合い、成長していく。
読者の中には、いわゆる推しキャラがたくさんいる人も多いだろう。それだけ、魅力的なキャラクターが多いのだ!
そしてこの骨太激アツ青春小説を少女小説たらしめているのが、ユリアナを囲む男性キャラ陣である。超絶美形だがユリアナをドアマットにするクラエス、大好きな優しい後見人だったはずが、ユリアナの苦難のきっかけになったバラド。謎の多い2人がもたらすときめきに、読者もユリアナと一緒になってドキドキすること間違いない。
さて、ここまでレビューを読んだにもかかわらずまだ本編を読んでいない方が万が一いたら、まずはこう言おう。
今すぐ『かく死』を読め!!!!
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さて。このレビューを最初に書いたのは、『かく死』が中盤の頃だった。
今、物語は終盤も終盤だ。ここまで読んできて、私は上記の前のレビュー時点では考えられないほど、心が揺り動かされているのをのを感じている。
あの時点ですでに驚くほど面白かったというのに……。
『かく死』の登場人物たちの過去や思いは砂漠の嵐のように吹きすさび、濁流のようにうねって、ここまで来た。
全ての謎と、思いの先にある物語の終わりを、ユリアナとともに迎える日を待ち望んでいる。
繰り返しになるが、万が一未読の人がこのレビューを読むことがあれば、これはいいから一秒でも早く、『かく死』を読んでくれ……!
まず本作は、痛快でハッタリの効いた、優れたエンタメ性を備えた少女小説であると言って間違いありません。我々とは異なる歴史を辿った世界線、クテシフォンを首都に据えた巨大な「帝国」を舞台に、個性豊かでケレン味あふれるキャラクターたちが西へ東へ大活躍します。彼らが各々異なる行動原理と価値観を持って動き、物語を転がしてゆく様は、まさに圧巻の一言。
一方で本作のもうひとつの大きな魅力は、テンプレ的なキャラ類型には到底おさまりきらない、複雑な人物造形が随所に散りばめられている点です。記号化されていない生々しい心情のゆらぎや、思考/感情/行動の間に矛盾をはらむ複雑な人間性を、高い濃度と精度でもって味わうことができます。
主人公の思考/感情/行動のあいだに次々生ずる様々な不協和を、彼女はいかにして解消するのか、あるいは解消しないのか!?…という点が、物語上の重要なフックであると同時に、メインドラマのひとつとなっています。彼女の前に「難題」が立ちふさがるごとに、読み手は主人公と一緒になって狼狽し、考え、彼女の選択に寄り添い、また「自分ならどういう選択をするか」と思いを巡らせてみたり…するとかしないとか。(わたしはする)
本作を読みはじめてすばらしいと思った点は、筆者がこの物語の語りの視点として一人称を選んだことです。
読者は必然的に、まだ十代半ばの少女のやや狭窄な目線を通して物語世界を覗き込むこととなります。不条理な世界へ放り出されて右も左もわからない不安と混乱、そこからどうにか世界のりんかくを掴み取ろうともがく彼女の痛み、苦しみ、勇気、熱量…そうしたものが、一人称視点の語りをとおして読み手の心に直に伝わってくるのです。
たとえば主人公と同年代の読者が本作に触れたなら、ユリアナの不安や恐れ、勇気や決断を、そのまま「私の物語」として読むことができるかもしれません。また、社会人が読んだなら、「かつてのゆらぎ」が蘇り、そこに新たな意味を見出したり、勇気づけられたり、慰められ癒やされたりするかもしれません。そのうえで、もう一度フレッシュな目で世界を見つめ直す機会を与えてくれるかもしれません。…いや、社会人だって常に新しい次元へ向かって歩み続けねばならないわけで、そこに広がっているのはたいてい「未知の」「不条理な」領域であるわけです。全然「過ぎた時代」のことなどではありません!
ユリアナ頑張れ!私も頑張る
まだ序盤ですが、かつて読み漁っていた少女小説群を思い出す空気感が深々と突き刺さりましたので、僭越ながらレビューを書かせていただきます。
辛辣な美貌の軍人や謎めいた後見人、そして主人公を立て続けに襲う苦難の数々……かつて少女小説が好きだった方は間違いなく感じるところがあると思います。ぜひ、ご一読を。
タグの「ドアマット系主人公」とは一体なんだろうと思いましたが、読んでみてよくわかりました。思った以上に主人公がドアマットされるので、そこは少し心の準備が必要でしょうか。
しかし、数々の愛すべき少女小説で描かれてきたように、少女であるということは、形はどうあれ痛みを伴うものであるかもしれません。
死の商人となれ、鉄の心を持て。
主人公ユリアナにかけられる言葉は厳しく、いまの彼女が持たないものを容赦なく求める。愛するひとや彼女がおさめた優秀な成績とともに今まで歩んできたその足が、「これから」少女に歩ませる道の厳しさたるや。
美貌の軍人がかたわらにあろうと、優しい後見人がひそかに支えようと、ユリアナに突きつけられるのはいつも人はひとりであり、誰も信じてはいけないという冷徹な現実だ。16歳、女学院で学び「これから」の日々を信じて疑わなかった彼女に降りかかるのは俄かには信じがたい事実ばかり。
容赦なく少女を踏み躙るのは軍人の足などというなまぬるいもののみならず、優しい過去までがユリアナに牙を剥く。
ユリアナはなすすべもなく、彼女のあずかり知らぬ事情により蹂躙されるが、彼女の心は折れない。どころか、己を取り巻く現実を知ろうと努め、その足で立ち上がる。物語にありふれた構造? そう言われても構わない。それが16歳の少女であり、わたしたち女児の求めてやまない物語の主人公のすがただ。
彼女は立ち上がる。歩み出す。そのすがたをいま追いかけることの出来る喜び。地を掴み一歩一歩頼りない足取りで進むユリアナを想像するとき、いつもその瞳は強くはげしい光を湛えているのだ。
わたしは作者のファンだが、このようなバチバチのエンタメを書くかただとまったく思っていなかったために非常に驚かされた。とにかく面白い。各話ごとに盛り込まれるエピソードはそれぞれ粒立っていて更新のたびにワクワクする。さらに引きが強い。次が気になるのだ。
そして特筆すべきはサービス精神。だいたい美貌の軍人と優しい保護者(っぽいもの)に挟まれる絵面からして、個人的には読まない手はなく、読み始めれば腑抜けた顔で「どっちが好きかな〜?」と言いはじめる……のは正直もうわかりきっていた。(クラエスが好きですと書こうと思ったけれど最近バラドもアツいです)
ユリアナに、クラエスに、バラドに、あらゆる人物に隠された謎や思いに惹かれてやまない。キャラクタたちへのこの関心や胸ときめく数々のシチュエーションがてんこ盛りにされたサービスたっぷりの本作を楽しまないという選択肢がない。
しかしながら最もこの作品を好ましく思う点は、素敵なメンズに挟まれてなお、ユリアナが鉄の女を目指してひとり驀進するすがたである。打ちのめされ立ちあがり歩みだすそのとき、ユリアナの手はきっと固く拳となっている。その手はいずれ開かれるのか、なにを選ぶのか。
二人の男と一人の少女、という文句から想像する絵面と実相のギャップこそかく死の醍醐味だ。
つぎの更新が、完結が待ち遠しい。
全ての少女(あるいはかつて少女だった全ての人)に目を通していただきたいのが、「かくして、少女は死と踊る」です。
この物語の主人公たる、成績優秀にして眉目秀麗な女学生ユリアナ・ファランドール嬢は、のっけからイケメンに足蹴にされ、身に覚えのない罪への関与を追求されています。そしていたいけな女学生ユリアナは女学校から無理やりに連れ出され、謎の軍人たちとの砂漠の旅がスタートするのです。
物語開始から十五行を待たずして、イケメンにドアマットにされる主人公。これ以上の衝撃が少女小説界にあるでしょうか。
この物語はまるで禁断の知恵の実。一口齧れば、今いる世界にいられなくなってしまう。アダムやイブとこの物語の読者が違うのは、待ち受けるのは艱難辛苦だらけのこの世ではなく新たな楽園だということです。私たちが足を踏み入れる新世界。その名は、ドS軍人×ドアマット系お嬢様の萌えのパラダイス!!
遍く砂漠に照り付ける太陽の光のごとく主人公に降り注ぐ受難と苦難は凄まじい。ですが彼女は、どんな時もしなやかに「己」を保ちつづけ、厳しい世界と戦ってゆく。
そんな彼女は見渡す限りの荒野でただ一輪、凛と咲き誇る白百合のよう。温室の薔薇も良いものですが、厳しい自然に毅然と立ち向かう野の花の趣と誇り高さは格別です。主人公の闘争を見守っていると、現代社会に飼いならされる過程で失ったはずの野生や、闘争本能がメラメラと燃えたつのを感じます。もちろん甘いときめきも。
少女小説。それは少女のために書かれた小説。
少女に必要なエッセンスがぎゅっと詰まったこの物語で、あなたも新たな素晴らしい世界に旅立ちませんか?