冤罪、裏切り、自爆テローー通っていた女学院からある日突然連れ出された義足の少女には、行く先行く先で災難が絶え間なく降ってきます。生き抜くことの難しさに打ちひしがれる少女は、いつのまにか自ら命綱を掴み取り、ただ巻き込まれるばかりの運命に自分から進んで「足」を踏み入れていく。その変化は、あまりにも鮮やかで劇的でした。
読者が暮らす日常にも、無数の理不尽が降ってきます。この物語のように直接命の危険にさらされなくても、ある日突然起こった事件や事故に思い当たらない人はあんまりいないのではないでしょうか。
そんな時、私たちは「どう生き抜けばいいのか」。その答えの一片を、この物語の主人公・ユリアナは示してくれます。生き汚いって、悪いことじゃない。勇気や覚悟はいつでも必要だけど、その先に必ず希望がある。行く手の見えない不安の中に、きらりと光る「運命の糸」を探すユリアナのたくましい姿が読者の胸に迫ります。私は彼女に、現実を生きていく勇気をもらいました。
そして、この作品の魅力はそれだけにとどまりません。綿密に仕組まれたストーリーにわくわくして、次々ページをめくってしまいます。いつも自転車で通う道を、この話の続きを少しでも読みたいがためにバスで往復した日があったくらいです(笑) 現実世界の中東周辺を舞台にした、ちょっと照れちゃうような恋愛あり、胸躍る冒険ありの遠未来ファンタジーです。予備知識なく読んでももちろんとっても楽しく、勉強にもなるのですが、世界史をかじったことのある方は聞いたことのある名前が出てきて三倍楽しめます。
私はこの物語にたくさんのものをもらい、たくさんのものを掻き立てられました。次は、今からこの物語のページを開くあなたの番です。読み終わる頃にはいつのまにか、「どこまでも歩ける足」を登場人物たちにもらっていることでしょう。
まず最初に驚かされたのが物凄い文章力。
一人称のテンポのいい文体から見せられる情景はハッとするほど綺麗で、主人公の内面も切なさを呼び込んでくる。しかもちょっとした仕草、表情、容姿からそこはかとなく感じられる美しさはエロスも含んでいて、なんというか全部が輝いて見えるのです。
本作の魅力はなんといっても主人公ユリアナのキャラクター。
大人たちの策謀の中でもがくユリアナはとても芯が強く、信頼を裏切られながらも立ち止まることはない。逆境を撥ね退けようとする逞しさが読者をぐいぐいと物語の中に引っ張り込んでくれる。
他にも一癖ありそうなキャラクター達が、それぞれの思惑を持って動いているのでハラハラする展開が待ち受けています。
決して少女小説の枠に因われない大作だと、個人的には太鼓判を押せるつもりです。
是非とも読んでみてください。
「恋愛」や「少女小説」の冠に、良い意味で裏切られました。
ハリウッド映画的なジャンルでしたら、バイオレンス・アクション・ロマンティック・アドベンチャー的な感じでしょうか?
後半になればなるほど、映画的な映像シーンが続きます。
物語はユリアナの1人称で進みます。
1人称ですが、良くある「共感しやすい主人公」とは一味も二味も違います。
最初、なぜユリアナちゃんがこんなに強い(ある意味偏屈)のか不思議に思いましたが、物語が進むにつれて、彼女の過酷な過去が明らかになっていきます。
出てくる人物ほとんどが何かが欠けている。それぞれが、それを補いたい想いから、他人に依存したり、自立しようとしたりする。
3人称視点ではわからない、人の心のゆがみをユリアナ視点で答え合わせをしながら、穏やかではない物語の波に激しくのまれ、終着点にたどり着きます。
面白かったです。素敵な作品をありがとうございました。