さけび 三十と一夜の短篇

白川津 中々

第1話

 我が身は刺され、猛火に焼かれる。

 灼熱の炎が火柱をあげ、今か今かと我を待つ。泰平に産まれ悪行もせず、日に三食のままと、六時間あまりの眠りとたまの午睡を望み、平素において慎ましく、僅かな幸を至上と思い、命の鼓動に耳を傾け、天寿を全うせんと、ただただ、生きていただけだというのに、斯様な仕打ちは如何にして、我が身に与え給うのであろうか。

 あぁ。くうに座する御仏よ。我は慈悲なく焼かれ死ぬのであろうか。一塵に劣る我が生なれど、刹那の法も耳に入らず、浄土を踏めず、地に堕ちては閻魔に裁かれ、悪鬼羅刹の責め苦を受けて、無間地獄を這わねばならぬというのか。声なき我が身の背負いし業は、其れ程までに、咎を受けたるものであろうか。あぁ……せめて、念仏を唱えることができたのならば……






 川縁の小さな小屋で、一匹の魚が焼かれて死んだ。魚は一人の山男に獲って食われた。天には山鳥が群れをなし、山男は鳥達に魚の臓腑を撒いて与えた。魚の叫びは、誰の耳にも届かなかった。



 鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。声あるものは幸いなり。

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さけび 三十と一夜の短篇 白川津 中々 @taka1212384

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