手向ける剣
池袋にいたときにも食べたことがないくらいのごちそうを食べ、
氷雨ちゃんは新しく買ったコーヒーミルとサイフォンでいろいろと味を研究しているらしい。ミオさんの目を盗んでは味見をして僕を困らせている。
ようやくお祭りのような大騒ぎも一段落した頃、ロウさんが大きな桐の箱を持ってギルドに帰ってきた。着物とか日本人形なんかが入っていそうな洗練された形で、特別飾り付けられているわけでもないのに、見ただけで身が引き締まる思いがする。
「ほらよ、叶哉」
「僕に、ですか?」
「忘れたのか? お前はこれをもらうために戦ってたんだろうが」
そう言われて、僕はその中身がなんなのか、やっと理解した。投げるように渡されたそれはずしりと重く、そこに風格も合わさってなんだか僕には似合わない。
「もう少し趣のある渡しかたはできないんですか?」
「そんなこと言ったってよ。俺には似合わねえだろ」
いつもの夫婦漫才を隣に見て、僕は安心する。誰もこれを特別なものだなんて思っていない。ぽちさんも町の人も快挙に沸いていたけど、ここでは当然手に入るものという確信があったのだ。
「ほら、開けてみたらどうだ?」
急かされるままに桐の箱を開く。その中には木目のきれいな剣が静かに横たわっていた。
「おめでとう、叶哉」
誰ともなくギルドにその言葉が溢れた。
「お前がその剣を手にしたときから、もう
「どこへでも、ですか?」
「あぁ、いつ電車に乗るかはお前に任せる。でも勝手に帰ったりするなよ。自由ったって俺たちにだって見送る権利くらいはあるだろ」
いつでも。確かにそう言った。なら僕がやるべきことは決まっている。
僕は剣をとって裏庭に向かった。もう一人、ちゃんと言わなきゃいけない相手がいる。
遊び倒した体には外の空気は冷たかった。相変わらず殺風景な裏庭はお金が入っても特に変わり映えすることなく、狭い中に海斗さんのお墓があるだけだった。でもよく見ると墓前にまたビールの缶が置かれている。ロウさんがここにお供えしているんだろう。
「僕、勝ちましたよ」
僕がこうして
「だから、剣はここに刺しておきます」
「おい、叶哉。
「そうですね。前に言ったレストラン行きませんか? 僕、結局ほとんど食べられなかったんですよね」
「ぴーちゃんのおうたのときはひさめがまもってあげるね」
「氷雨、耳を凍らせるのはダメだからな」
なんだか怖い話が始まっているけど、今のは聞かなかったことにしよう。お店に行くまでに耳栓の一つでもどこかに売ってくれているといいんだけど。
「みなさん。いつまでだらけているつもりですか! お金は有限なんですよ!」
ミオさんのお叱りを受けながら、僕は次の旅立ちを青空に描く。僕の名前を呼ぶ方、みんなの輪の中に戻っていった。
次は終点、異世界です 神坂 理樹人 @rikito_kohsaka
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