斯くも美しい此の『星』で

私は本作を読んだ時に絶句した。
と同時に、自然と歓喜に身が震えた。

何だ、この作品は。
ぺんぺん草も生えない世界に私達を放り込むでは無いか。

丹寧に、そして精緻に組み上げられた表現は、まるで読む者の肌身に感じさせるかの如く作者の掌で世界を構築する。
膨大な言語と知識の奔流をこれ程までに練り上げ、一つの河として束ねる作者の技量。
脳内で新たな概念を芽吹かせ、ここまでに育て上げる編纂の指先は未だ続きを産み出そうとしている。

終末の世に翔ける人々。私達は作者の指先に弾かれる事で、傍観者にして当事者となり、この世界に佇むのだ。

そしてコンテクストの随所に散りばめられ息を潜める「意味」の数々。過去へ未来へ翻弄される私達は、その光をどれだけ拾い上げられるだろうか。

そう、この作品は何も無い世界に対して「美しい」と心から吐き出させる様な、魅惑にして蠱惑の力が宿っている。
作品の完結までレビューするのはやめよう、と先日心に決めた私は気がついたらここまでレビューを書き上げていた。

やれやれ、またも気が付かぬ内に作者の『星』の中で踊っている。

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奈落の星