人にはそれぞれの考え・立場・人生がある。だから損得勘定で説得なさい。

現代の異世界ファンタジーにとって経営・経済はすっかり主要なテーマの一つだ。
本作は転生者のフェリックス少年が若くして経営学・帝王学を実践していく様子を描く。それにしてもこれほど徹底している作品は驚きだった。

貨幣換算が可能になっているからとも言えるが、私たちの社会はとにかく生きていくためにも働くためにも経費がかかる。
それだけではなく、家柄の問題や趣味嗜好の問題、行動経済学や政治的側面も商売の成功のためには当然考慮しなければならないが、実際にそこまで気を使うのは難しい。
それを乗り越えていく様は痛快だが、それと同時に、人間社会は――
作品としては貴族社会だが――ここまで様々なしがらみに縛られているのかと嘆息する。
しかし、まさにこういう描写こそがリアリズムなのであって、読み心地には本格歴史小説の風味も感じられる。

湿地に優位なマルイモを生産させることで、主要な作物である小麦の税率が上がり、農民の実質所得も二倍になった。
こういう触れ込みにピンと来た読者は、ぜひ、これからの更新を楽しみにしてもらいたい。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=村上裕一)

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