第26話 アユ-2017年9月20日

「さっき浜本と浅野に屋上で会いましたよ」


廊下で憤上から話しかけられた時、アユは

「あら、そうですか」と如才なく笑い返した。


「どうして教師になったのかって聞かれました」


「あの子たちも進路について、いろいろ考える時期ですからね。

いい傾向です」


しかし、憤上は

「そんなの生徒に聞かれても、あたりさわりのないことしか言えないですけどね」

と自分のことを話したそうだ。


仕方なくアユは「どうして教師になろうと思ったんです?」と聞いてみた。


「小学校の頃から、理科の実験が好きだったんすよ。

それで、これが毎日、仕事にできたらいいなって。

単純でしょ」


「小さい頃からの夢を叶えたんだから、素晴らしいと思いますよ。

私は、高校三年の進路を決めるぎりぎりになって、教育大を選んだくらいで、

全然、真面目に将来とか考えてませんでした」


憤上が笑った。

「今はこんなに真面目で、用意周到なのにね」


アユはぴくりと眉を吊り上げた。

「どういう意味ですか、それ?」


憤上は答える代わりに白衣から鍵を取り出し

「聞かれたらまずいでしょ、ちょっと、第二実験室に来ませんか?

いいでしょ、次、授業ないでしょ」


第二実験室に入ると、憤上は豹変した。

アユの腰を抱きかかえ、黒い実験台に押し倒した。

目がアユのふくよかな胸と太ももをなぞる。


「あんた、ほんとズルいよな。

かわいいツラして、

男しかいない、工業高校で、体育教師。

真面目で、熱血、どんな生徒だって、意のままに操れるよな」


「そんなつもりはありません!」

アユは近づいてくる憤上の胸を押しのけた。


「俺、知ってんすよ。

中田先生が校長と理事を下着ドロだって訴えるって、脅したこと」


「脅してません。事実を伝えただけです」


そう最初に、プールにある教員用の更衣室のロッカーから、

下着を盗み出したのは、生徒(きっと浅野や高橋といったクラスの男子だろう)だ。


けれど鍵を変え、二重鍵にした後、更衣室のロッカーから下着が盗み出せるのは、教員しかいない。


教員はみな、時間割を張り出され、予定を管理されている。

プールの時間に、自由にロッカーの予備鍵が使えて、予定を知られていない人間といえば、

授業を受け持ちがない校長や理事以外はありえなかった。

実際は校長が犯人だったわけだが、それを教育委員会に報告するといって、理事にかけあったあとは、すべてアユの思い通りに進んだ。


鈴木一朗の雇用も。

七原令馬の虐待の通報も引っ越しも。

それから、ひどいイジメにあっていた三谷透の転校手続きも。



「憤上先生は一体、何がしたいんです?」

憤上の目には、欲情の炎は見えなかった。


アユの言葉に憤上は、

「同じ言葉を、そっくりそのまま、あんたに返すよ」


アユは声を張って言った。

「前に答えた通りです。

私は生徒の将来しか、考えてません」


「嘘つけよ」


この男に、短時間で脱衣所から下着が消えた、

その謎を相談したのは間違っていたとアユは今さらながらに後悔していた。


「嘘じゃありません!」


憤上がアユの太ももの間に体を入れ、ももを持ち上げ、さすりあげた。

ハーフパンツを少しずらせば「シカオ」が見えてしまう。


アユは、足を閉じようとした

「俺はさ、化学教師として、生徒にいろいろ教えてるわけ。ヤバいもんとか、アブないもんとかね。

俺の教師人生に傷やとばっちりがつくような真似はすんなよ」


その時、アユの声を聞きつけた鈴木一朗が、部屋の中に飛び込んでこなければ、

アユはどうなっていたかわからない・・・。

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田中カナタ 真生麻稀哉(シンノウマキヤ) @shinnknow5

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