トゥルーマジック・リサーチャー
そへ
第1話
魔法と科学。それは常に対になるものとして扱われる。そしてそれらが交わる時―――相反する二つの概念は、進化を遂げる。
――――――――――――――――――――
「あー。なんか面白いこと起こんねえかなぁ」
ここは『零都市』。世界最高峰の科学が集結する場所だ。
そして、そこに住むこの少年、
「寮にいてもつまらないし…どっか散歩にでも行くか…」
今は夏休み。学生なら遊びやら宿題やらですぐ終わるだろう。と思う人もいるだろうが、宿題はとうに終わらせてしまったし、高校生ということもあって友達はみんなバイトやら帰省やらで居ないのだ。
もう夜だが、まだ寝る時間でもない。
そんな訳で、創は寮の外へ散歩に出かけた。
「科学ってのは、やっぱしここまで行くと自然が恋しくなるもんだなぁ…」
夜になっても煌々と輝く街を見て、そんな独り言を喋りながら散歩していた。
「ん?あれは…」
それは突然のことであった。何故か、美しい
それもおまけに、血まみれで。
「ううっ…くっ…!」
今にも死んでしまいそうなその様子に、動揺を隠すことは、一介の学生には無理な話であった。
「だ、大丈夫ですか!?と、取り敢えず救急車を…!」
創が救急車を呼ぼうとスマホを取り出すと、白髪の女性が腕を掴んでこう言った。
「や…めてっ!救急車は…呼ばない…でっ!」
「え!?え!?どういう事!?救急車はダメ!?」
「何処か…安全な場所に…!」
周りに頼れる人はいない。時刻は夜10時を回っている。創のように暇を持て余した人はなかなかいない。
「安全!?えーと、公園じゃダメだし…!ああもう寮でいい!背負って行きます!」
「ありが…とう…がはっ!」
本当にもう一刻を争う状態のようだ。
彼女を背負った際、二つの天使の塊が背中に触れたが、そんなことを気にしている暇もない。
全速力で寮へ向かう。幸い5分とかからなかった。
「はあ…はあ…はあ…えーと…取り敢えずベッドに寝かせよう…!」
寮につき、彼女を寝かせる。
しかしここまで酷い怪我人を手当した事が創には無い。体中切り傷だらけ、更に腹部には酷い刺し傷、どうするべきであろうか。
「…キミ」
創が困惑していると、女性が話しかけてきた。
「は、はい!」
「少し、私の『魔術』を手伝ってくれないかしら…今から私が言う通りに行動をしてくれると嬉しいのだけれど…」
「え、『魔術』?」
科学が進んだ現代。今更そんなオカルティックな事を言う人がいるとは予想打にしていなかった。
「魔術って…そんな事言ってないで取り敢えず手当しますよ!このままじゃ本当にやばいですって!」
「やっぱり…信じ難いわよね…魔術が本当にあるなんて…それが普通の反応だわ。でも信じて…お願い…!この魔術で私の体は治るの…!ぐっ!」
そう語る彼女の言葉は力強かった。魔術というものをこれまで信じてこなかった創だが、彼女の言葉は妙に説得力がある。
ならば。
信じるのはまだ早いが、やるだけやってみよう。そう思った。
「……わかりました。それであなたの気が済むなら」
「…!あり…がとう!じゃあまずは、どんなものでもいいから、人形をこの部屋の真ん中へ置いてくれないかしら…」
「人形…あ!前にゲーセンで取ったキラキラミカちゃんの人形があった!」
キラキラミカちゃんは置いといて、人形の用意はできた。
「そうしたら、どんな方法でもいいから周りに六芒星を描いて…」
六芒星。聞いたことがある。オカルトでよく聞く単語だ。
しかし、床にどうやってそれを描けばいいのか。鉛筆では描けない。描くものがどのようなものかはわかっても、それを描くものが無いのでは話にならない。
「…!あれならどうだ!」
この前服を直すときに使った毛糸。それで描こうというのだ。
「これをこうして…こうだ!」
「それでいいわ…」
なんとか上手くいったようだ。少し安堵する。しかしまだ工程は終わっていない。
「最後に…あなたが六芒星の前に立って…両手をかざして『
いよいよ工程も終盤となってきた所で、更にオカルティックになってきた。
こんなに真剣にやっているということは、やはりこの女性の言う事は真実であるのか。
しかしやってみない事には始まらない。創は決心した。
「『
すると―――
みるみるうちに、白髪の女性の体が光に包まれ、傷が物凄い速さで治っていく。
傷の治りが早い、なんてことでは説明がつかない。
超速再生とでも言うのか。
「嘘…だろ…」
そして、ついに完治した。
「…ふう…やっと治ったわ…ありがとう。あなたのお陰でなんとか助かったわ。」
「……!」
唖然。呆然。これらの言葉では表せないほど、創は驚愕していた。
「あ、そう言えば自己紹介、まだしてないわね。私の名前はソフィア。魔術師よ。あなたの名前は?」
魔術師。また魔術。先程のアレを見せられては、もうそれをおいそれとオカルトだと言い切ることはできない。
「え…えっと…今橋創です…」
「え、あなたが創くんなの!?なんて偶然かしら…!」
「?」
何やら、ソフィアは創の事を既に知っているようだった。
「私、ずっとあなたを探していたのよ!その途中で奇襲されちゃったけれど…」
「い、いやいやちょっと待ってください!何にもわからないです!まず魔術って何ですか!?そしてなんで僕の事を知ってるんですか!?なんで僕を探してるんですか!?」
ここで創が声を荒らげてしまったのも仕方がない。誰でも魔術やら何やらなどといきなり言われれば、混乱してしまうだろう。魔術があるなどと知ってしまえば、今までの自分の現実が一気に壊されるのだ。
「へ?あー。そう言えば自己紹介どころか説明もまだしてなかったかしら…じゃあ一から説明するわ。まず―――魔術。それは古い昔から存在していたわ。でも昔、魔術を嫌う人間が現れたの。その人物が作ったのがこの『零都市』。だからあなたが魔術を知らないのも、無理はないわね。私も本当はこの街に来ては行けないのよ。こっそり侵入したけどね。だからあの時救急車を呼んで欲しくなかったのよ。もし見つかったら厄介だわ」
「なるほど…何となく理解はできました」
「次に、あなたの事を知っていて、そして探していた理由。今、私達魔術側で、ある戦争が起こっているの。魔術大戦と呼ばれているわ。そしてその魔術大戦を終わらせるため、あなたの力が必要なのよ」
「魔術大戦…?僕の力…?」
百歩譲って。魔術がある。というだけならまだ信じれた。しかし戦争なんてものが外で起きているとは。零都市内では一切そんな情報は入ってきていない。
「零都市にこの情報が入ってこないのは、やはり情報操作ね。上層部が関わっているという事だわ」
「それで、僕の力、というのは?」
「…?そうよ。あなたの能力が必要なのよ。『
裏とは、なんだろうか。また魔術用語だろうか。
「何ですか、それ?僕、能力なんて無いですけど」
さっきから意味不明な事が多すぎる。何やら話が食い違っているようだ。
「…おかしいわね。この子じゃないの?…いや、上からの命令なのよ、間違っているはずが…」
すると、その瞬間―――
「オラァ!正教の魔術師!!見つけたぜ!」
窓ガラスが割られ、部屋に男が入ってきた。
「魔術師!敵襲か!創くん、取り敢えずあなたは正教側が保護するわ!」
「今日はなんでこんな波乱万丈なんだーっ!」
血まみれの女性を助け、魔術を使用し、驚愕の真実を告げられ。
かつてこんなに忙しい夜があっただろうか。
「『
敵魔術師がそう唱えると、部屋1面が炎に包まれた。
「やばい!火事になる!!」
「いいえ大丈夫です。結界を貼っておきましたので、この部屋の外に被害が及ぶことはありません」
「僕達は大丈夫じゃないでしょそれ!?」
「反撃します!『
激しい攻防戦が繰り広げられる。
幸い創の部屋は広かったのでなんとか隠れる事はできた。
「はあ…はあ…やばいって…本当に魔術だ…」
「あの小僧はどこへ行きやがった?お前、あいつを庇ってるってことは…まさかあいつが『鍵』なのか!?ならここで消すしかねぇ…!」
「気づかれた!創くん、逃げなさい!」
ソフィアが叫ぶ。しかしその願いは、叶わない。
「『
魔術師が放った炎は、創へと一直線に向かった。
「え―――僕、死ぬ?」
本当に、人は死ぬ瞬間に、走馬灯というのを見るそうだ。その一瞬間に、何分、何時間、何年もの記憶が写真のフィルムのように創の頭を駆け巡った。
生まれてから、今までの17年間、全て―――
『能力!?うちの子は何か特別なのですか!?』
「母…さん…?」
死んだはずの母の声がする。
『この能力は強すぎる。封印した方がいいだろう』
「今度は…父さんも…?死んだはずじゃ…?」
『でも危険だと言ってもこの子の力よ!?私達が勝手に封印する道理があるかしら!?』
『私だってしたくはないさ!でも危険過ぎるんだ…!この子のために!封印すべきなんだ!』
『なら…せめて、この子が能力の事を知り、本当に必要とした時にこの封印を解く事にしましょう!?この子にはこの力を使う権利があるわ!』
『…わかった。そうしよう』
―――封印。創の力は封印されていた。
強過ぎるが故に。自分自身の身を滅ぼしかねないと思われたのだ。
しかし今、死の淵に陥った創が助かるためには、これしかない。
「僕は…生きたい!僕には…この力を使う権利がある!」
『お前は本当に、この力を必要とするか?』
どこからかそんな声が聞こえる。
創の答えは―――
「勿論YESだ!!『
「…やはり…彼が『鍵』なのね!素晴らしいわ…!」
創の叫びと共に、何やら黒い玉と白い玉が飛び出した。
「…!?なんだこれ!?これが僕の力…?」
「チッ…目覚めやがったか…厄介だな…」
「なんだろう…力の使い方が…勝手に頭に入ってくる…!」
「くそっ!『
「無駄だ」
創が手をかざすと、白い玉がバリアとなって攻撃を防いだ。
「な…!」
「わかったよ…この能力が。裏とは、この二つの玉を操る能力。黒い玉は自由に形状が変化し、どんな武器にもなれる。そして白い玉は形状変化するシールド。これらを『アザー』と名付けよう。勝ち目は無いよ」
「そんな事が…!正教の奴らめ、なんて事を…!」
「やれ、アザー」
創のアザーが拳の形となり魔術師を殴打し、見事倒した。
「やったわ!創くん!キミ、力に目覚めたのね!」
「…正直まだ実感が湧きません。魔術も、僕のこの力も。―――でも信じる気にはなりましたよ。ソフィアさんの言葉」
「そう?じゃあ私達を助けてくれるかしら?」
「僕の座右の銘は、『人助け』です。困っている人がいたら、迷わず助けちゃうんですよ。だから、僕はソフィアさんを助けます」
「不束者でございますが、どうぞよろしくお願い致しますわ」
「いや結婚するんじゃないんですから…」
「あ、それと、私のことはソフィアさんじゃなくてソフィアって呼んでね!一応同い年なのよ?」
「ええ!同い年だったのか…」
少し不思議な
トゥルーマジック・リサーチャー そへ @sohe
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