第37話 踊る人形達 1-1

「——というなんですけど......」

「......なんということを......」

「......本当にすいません」

「......一応報告しておかないと......それに"こっちで処理しておく"ともね」

「はい......」

「まぁあなた達の責任と決まったわけではないから、きっとあのお方もお許し下さるとは思うけど、勿論処理にはあなた達も参加してもらうわよ」

「はい。そのつもりです」

「いいわ。じゃあこの話はおしまい。もう直ぐ会議が始まるから、準備急いで」

「わかりました。では会場で」


最近貴族の座席に空席が生まれ、それを満たすために少年2人が貴族として誕生したが、なって数年で今回の事件を起こしてしまった。

自分には監督責任があるため勿論責任を問われるのだが、今はそんな事を言っている場合ではなく、一刻も早く事態を収束させる事に尽力しなくてはいけない。

これがいつも通りの日常内で起こったのならばまだ良かったが、後数時間で始まろうとしている数年ぶりの会議があるこの日に起こってしまった事に、知将貴族である三木祥子には眉間に寄る皺の事を考えられるだけの余裕はなかった。

若い2人の貴族。

15歳にして世界エデンにおける全ての学問を修了。

17歳の時に上級試験を受け見事に2人して首席。

同じ年に中央情報管理局にその能力を認められ貴族として就任。

三十五番、武将貴族神崎十夜。

機動力に重点を置いた近接戦闘特化の戦闘スタイルで、他の貴族から、対人戦においては一目置かれている。

五十二番、知将貴族松下高貴。

演算の高速処理による浮遊装甲ドラグーンの急速展開を得意としており、また地形など周囲の状況に合わせて瞬時の行動プログラミングを行い状況を有利にする戦闘スタイル。

現在歳は19であり、まだ2人とも戦闘経験が豊富ではないが、これからどんどん強くなっていくだろうと期待が寄せられている。

そんな2人が今回起こした事件。

それはワームホールを使ったゲートの開発中に起こった。

まだ原因は不明だが、突如ゲートが起動し神崎を呑み込んだのだ。

おそらく設定した座標空間のどこかにはいるのだろうが、様々な理由から早急に発見しなくてはいけない。

積み重なる苦労に、三木は重い溜息を吐くのだった。


•••••


ゼロは先程渡された資料に目を通しながら、カツンカツンと無機質な音を鳴らし拠点内を歩いていた。

フローポイントに差し掛かかると、目的地までその身を支柱に預ける。

到着まで少し時間があるので、その間は資料を読むことに集中する。

主な内容は、今までの魔法に関わる生体実験や魔法そのものの研究についてだ。

残念なことに、魔法についての研究成果は「未だ分からず」というものであり、予測を立てての実験は失敗に終わっている。

対して生体実験は、実験体サンプルとして使用したモンスターや人体については、そのほとんどの解析が進んでおり、一定の成果を上げている。

ページをめくり次の資料に目を通す。

どうやら資料ではなく申請書のようだ。

内容は、魔石を使ったモンスターの製造実験を近々行いたいというもの。

(スケルトンからわかるように、魔石がモンスターのライフ的な位置づけにあると予想は出来るが、だからと言ってこれはまだ危険すぎるな。もう少し情報が集まってからだな。却下っと)

魔石と魔法は相関関係にあると考えているため、魔法についての知識や実験データが無いに等しい以上、気軽に扱えるものではない。

却下及び延期の印を押し、次のページに行く。

次は拠点と周辺国家の動向についてだった。

動向と言っても大層なものではなく、拠点周辺をうろついている者たちの行動から推察される程度だ。

この拠点は何の問題もなく完成している。

今後は、この異世界の住人で、ゼロが囲った者たちが暮らすことが出来る施設を作る予定になっている。

そうすれば鍛治師のリィラやポルガトーレにいるメネアやナターシャ達を連れてくることが出来る。

そうすれば魔法を使ってもらうことが出来るため、本格的な実験データを取ることが可能になるだろう。

拠点の主な役割は、"生産"、"防衛"、"通信"、"格納"、"整備"であり、そのための必要な機材は全て設置が完了しており、既に生産ラインにて様々な物が生産されている。

物質変化装置ランプ技術を使った自動工場ファクトリーであるため、理論上どんな物でも生産可能だ。

そして周辺国家の動向。

今回の百人貴族会議にて話す内容の一つであり、今後この異世界でどの様に行動するかを決定する重要なものになる。

目的の場所に着いたので書類データを閉じる。

その目的の部屋の前には自動歩行人形オートマタが立っていた。

無色透明に近い程の薄い水色のロングヘアは、本来ならば本当に無色透明に見える筈が、身につけている純白のスーツにより自己を強調する要素になっている。

ゼロを視界に収めているその瞳もまた薄い水色であり、とても眠そうな目つきをしている。

名はコユキ。

新人類オリジナルだ。

新人類オリジナルの地位的にはヤマトの一つ下になる。

その高い能力を活かしてもらうため、この拠点の総合的な管理を任せている。


「お待ちしておりました。既に貴族の方々はお集まりになられております」

「わかった。直ぐに始めよう」

「それとマスター。今回は欠席者が一名いる様です」

「ほう。珍しいな。というよりこの会議では初めての欠席者か」

「はい。神崎十夜。最近貴族になったばかりの青年です」


("最近"か......)


「......そうか......誰の後釜だ」

「三十五番倉木総司です。242年と1ヶ月でした」

「......そうか。......何か言っていたか?」

「「自分の子孫を見られてなかなか楽しかった」と」


(今度御苦労だった、って言ってやらないとな)

コユキと共にこの部屋"通信ルーム"に入る。

通常の通信ならばどこでも出来るのだが、わざわざ通信のために設けられているのは、主に百人貴族会議などの重要な会議や、大勢の者たちと通信する時になかなか便利なためだ。

球体状のこの部屋は、全ての壁や天井、床にホログラフィー技術の全範囲投射により立体映像を映し出すことが出来る。

大抵の貴族達は電脳空間にいるため、そこから直接アクセスしてくるだろうが、ゼロはあまり電脳空間を好いていない——電脳空間にダイブすることが好きではない——ため、通信にはこの部屋を使っている。

部屋の中央にある座席に座る。

コユキはシステムのチェックを行っている。


「準備ができました。いつでもいけます」

「始めてくれ」

「了解しました。では、始めます」


そう言うと部屋の明かりが段々と暗くなっていく。

暗くなるのは投影した物を見やすくするためでもあるが、今回会議を行う場所がそもそも暗めなのも一因だ。

暗い空間に様々な模様の青白いラインが浮かんでくる。

会議を行う空間の唯一の光源。

それ自体は空間全体を明るくする程の光量はなく、ラインの周囲をぼんやりと照らすくらいの力しかない。

そのためとても暗い。

肉眼ではとてもではないが隣の者の顔は見えないだろう。

そういうデザインなのだ。

この百人貴族会議、百人の貴族とゼロとが話し合う会議であるのだが、一人一人に与えられるスペースが広いため"隣"と言っても結構距離があるのだ。

卵の内側の様な空間に101個の空間と座席が設けられている。

ここが今回の百人貴族会議を行う場所だ。

既に集まっていた貴族達の視線がゼロに集まる。


「さぁ。始めようか」

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異端者 異世界を行く 楠 かける @Kusu_Kake

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