【私が将来の夢を見つけるまでの些細な出来事の顛末と親友ができた話】

ボンゴレ☆ビガンゴ

私が将来の夢を見つけるまでの、些細な出来事の顛末と親友の話

 鈴木美玲みれいは、はじめは水泳部だった。

 それがいつの間にかサッカーボールを蹴っていたので、不思議だった。

「水泳部やめたの?」聞くと、「つまんなかったからやめた」とあっけなく答えた。

「ふーん、そうなんだ」と別に気にもとめなかったけど、気がついたらソフトボールのユニフォームを着て校舎の外周を走ってたから「おや?」と思った。

「サッカーは?」聞くと、「なんか飽きたからやめた」とニカッと綺麗な歯並びを見せて彼女はあっけなく答えた。


 飽きっぽい性格なのかなぁ、なんて思いながらサラサラのロングヘアをたなびかせて走り去るクラスメイトを見送ったけど、しばらくするとギターケースを背負って学校に来るようになっていたから「おやおや?」と思った。

「ソフトは?」と聞くと「スポーツあんま向いてないみたいでさー」と長いまつ毛をパチクリさせて、あっけらかんとした顔で答えたから、よくもコロコロと部活を変えるなぁ、と思ったけど、ま、一度きりの青春だし色々やるのもいいよね、と思い「頑張ってね」と言った。そしたら美玲は細くて綺麗な指をひらひらさせて、「あんがと」と笑った。


 その後も、美玲は書道部になったり、陸上部になったり、バスケ部になったり、結局スポーツかよって思ったらまたすぐやめて文芸部に入ったり漫研に入ったりやめたりして、なんやかんやあって結局二年生になる頃には英語部の半幽霊部員に落ち着いていた。ちなみに私はただの帰宅部。まー私のことなんかどーでもいいんだけど、美玲は色々やるなー、将来の夢とかちゃんとあるのかなー、あるから色々チャレンジしてんだろーなー、なんて思って、そういや、私って将来なにになるんだろうってそろそろ人生について考えなきゃいけないのかなって文系理系選ぶ期限いつだっけーって思ったりした。


 それで美玲は半幽霊部員だから、暇になって、なんやかんや喋る機会も増えて、一緒に遊べるようになって結構良い感じの友達になったから、私にとっては彼女の飽き性は結果的にプラスだったのかな。


 なんて思いながら、和気あいあいとカフェで楽しく美玲とパフェを食べていたんだけど、カランコロンって音がして、女の人が店に入ってきた。横目で見ると私たちと同じ制服。小麦色に焼けた肌が体育会系の雰囲気を出してて、リボンの色的になんか多分先輩っぽい。しかもなんか目が釣りあがってる。

 カツカツ足音を立てて一直線に私たちの席にやってきたその人は、ダンって机に両手を置いた。なんだなんだ穏やかじゃないな。


「鈴木さん、こんなところで無駄な時間を過ごしてるくらいなら水泳部に戻ってよ」


 おっと、ガールズトークの途中に突然現れては「無駄」認定ですか、日に焼けた小麦色姉さんよ。なんてびっくりしたけど、小麦色姉さんは私に話しかけたわけじゃないし、私にとっては楽しい時間でも、この小麦色にとってみたら無駄な時間に見えなくもないのか、ってか女子高生の会話なんて、ほぼほぼ無駄でしかないような気がするからあながちこの人の言うことは間違いでないのかー、などと思ったので黙っていた。

 でも、美玲はイラッとしたみたいで、キッと小麦色を睨みつけた。


「加藤先輩。もう水泳部には戻りません。それに無駄な時間じゃありません。先輩こそ戻る気のない後輩を追いかけてる暇があったら部活しててください。迷惑です。そっちの方がよっぽど無駄じゃないですか」


 おおっと。美玲たん、はっきり言うね。小麦色がノーモーションで左ストレート打ち込んできた感じはしたけど、美玲はその左に合わせて殺人クロスカウンターみたいな切れ味鋭い一撃かますんだから、私ゃ冷や汗もんだよ。ま、二人が険悪なムードになろうとも私には関係ないし、口を挟む権利も無さそうだし口にはパフェに乗ってるビスケットが挟まっているし、まー面倒くさそうだから傍観者に徹するけどもさ。


「……なっ!?」と出鼻をくじかれた『なんとか先輩』は顔を真っ赤にして何かを言い返した。けど、まーこれも私には関係ないから黙って聞いていた。あ、でもカフェで怒鳴る人がいたら迷惑だよな、その迷惑グループに属してるって思われたらせっかくいい感じのカフェを見つけたのに出禁とか食らっちゃうかもな、それは困るな、そうなると関係ないとは言えないな、って思ったから、仕方なく、立ち上がってその先輩の手首をガシってつかんだ。


「な、何よ!あなたには関係ないでしょ」的なことを先輩は言ったんだけど、いやいやこの状況で他のお客さんも見てるのに関係ないとは言い切れないでしょって思って、でも先輩の言うように美玲が水泳部に戻る戻らないは私には関係ないから、そういった意味では確かに関係ないのかなって一瞬思ったけど、まあとりあえず「うるさい!帰れ!」って叫んだ。

 そしたら美玲が笑い出して、周りの目が更にこっちに向いて、そしたら先輩も恥ずかしくなったのかバカバカしくなったのか、ぶすくれた顔のまんま肩をいからせて店を出て行った。

 何だったんだろ、って思ったけど、まあそんなこと考えたって仕方ないし、それよりこのデラックスイチゴパフェをちゃんと味わわないと勿体無いと思って、よし食らおうって脳みそシフトチェンジして、もうその話は終わりにした。


 美玲は楽しそうに笑ってたし、小麦色も帰ったし結果オーライだなーって思いながらイチゴを頬張った。だから私は別に昨日の出来事に関しては特に弁解することもないし、悪いことしたとは思ってないです、ま、カフェで騒いだってのはちょっとだけ悪い気はしますけど、それも「なんとか先輩」が原因だし、別にカフェから学校にクレームが来たわけでもないでしょう?って、言ったら先生は困った顔して頭をかいた。


「米山さー。お前の言いたいこともわかるけど、加藤の気持ちも考えてやれよ」


 先生は心底困ったような顔をしていた。昼休みに職員室にわざわざ呼び出してする話がそれかよって思ったけど、先生の顔を見てると正直めんどくさそうな感じの雰囲気が出てて、多分、先生もカトー先輩にギャーギャー言われて、一応事情聴取だけでもしておこかってくらいの熱度だったから、まあ適当に済ませておけばいいか、って思った。


「わかりました。気をつけます」


 そう言うと、先生はやっぱり本当のところはどうでもよかったみたいで、簡単に許してくれて(いや、そもそも咎められるようなことしたか?)、私も社交辞令的に「すみません、失礼しました」って意味なくペコって頭下げて教室に戻ろうとしたんだけど、なんか私だって釈然としないから、もーいーや、午後はフケようと思って、プラプラ校舎を歩いて下駄箱に向かった。で、待ち伏せしてた「カトー先輩」と鉢合わせしてしまったのだ。


「あなた、鈴木さんと一緒にいた子ね?」先輩は言った。めんどくさいなーって思ったから「そうでしょうか?」って言って切り抜けようとしたんだけど、言葉のチョイスを間違えた感は自分でもあって、案の定カトー先輩は私を睨んで「話があるの」とか言い出して逃げるに逃げらんない感じになっちゃった。

 私はそんなカトー先輩の話より、自分で言った「そうでしょうか?」ってトンチンカンな言葉がなんかツボに入っちゃって、ちょっと薄笑いとか浮かべちゃったの。全然センパイに対して小馬鹿にした、とかそういう気持ちはなかったんだけど、センパイはイラっとしたみたいで「放課後、少し時間ちょうだい」って池田君に言われたい言葉ベスト一位(注:美玲といつもやるゲーム、学校一のイケメン池田君にいってほしい言葉を交互に言い合って悶絶するだけの生産性まったくないゲーム)をズバッと投げつけてきた。


「……てなことがあって、うわー、色々ミスったなー、学校フケて帰ろうとしてんのに、放課後指定されるのって困るし、体育会系の先輩を敵に回すのって考えたらとっても面倒臭いよね?」


そう目の前の美玲に聞くと「そーだねー」と箸を止めてちょっと考えた。ちょっと物思いに耽る顔とかすごく大人っぽくて綺麗で、カメラで撮って額縁に入れて飾りたいくらいだけど、すぐにいつもの美少女顔に戻って、まあこれはこれで可愛いんだけど、もっと今の顔を見ていたかったなぁ、なんて思ったりする。


「加藤先輩しつこいからなぁ。うまいこと立ち回ったほうがいいよ。で、昨日はそれで加藤先輩と話したの?」って美玲が私に聞いてきたから「いやー、なんか面倒だから、結局バックれたー」と答えた。

「なによ、それー」なんて美玲は大爆笑して、そんな笑うことかなって思ったけど、私の生粋の面倒くさがり屋が、誰かの笑顔に変換されたんだなって思うと、自己肯定感もむくむく出てきたから「ウケるよねー」って返して卵焼きを口に運んだ。


 机の向こうに美玲は座って、お弁当を頬張っている。美玲は毎朝自分でお弁当作ってるらしくて、それだけでもすごいのにめちゃくちゃ料理がうまい。天才だ。

 私が食べてた卵焼きも美玲の持ってきたお弁当のおかずで、私のミートボール(冷凍)とのトレードの結果だ。


「だからかー、べっちゃん。加藤先輩にロックされたみたいだよー。水泳部の佐島さんからライン来たもん。加藤先輩しつこいから気をつけてって」


 今更だけど自己紹介。私、米山舞。アダ名は米の音読みからとった「べっちゃん」

 ぜんっぜん可愛くないんだけど、美玲は呼び方を変えてくれない。


「えー、まじー? 面倒くさいなー。てか私が悪いの?それ。美玲とカトー先輩の問題でしょ~」


「いやいや、自分でややこしくしたんでしょー」


 そーかな、私がややこしくしたのかな、うーん納得できないなー。自分の都合で人を動かそうとして、うまく動かせなかったから怒るってちょっと自分勝手すぎない?まかり通るの?そういうの。でも、少なくともカトー先輩はまかり通ると思ってるからそういうことするんだろうな、ああ憂鬱だ。面倒くさい先輩に目をつけられたもんだ。


 嫌だなぁ、あんまり関わりたくないなぁ、せっかく新しい生活にも慣れてきたのになぁ。できるだけ目立たないようにしてたんだけどなぁ、って思ったんだけど、次の日、早速カトー先輩以下、金魚の糞的な女子生徒四、五人に囲まれて、「顔貸して」なんて昭和のスケバンみたいなこと言われた。

 その言葉つかいにちょっと可笑しくてニヤってしちゃったんだけど、いかんいかん、また怒りを買うって思って慌てて頬を引き締めて、「すみません、忙しいんで」って言って、逃げようとしたんどけど、体育会系のちょっと足りない系の人達だったから、すぐに直接的な行動(要するに暴力)をとってきたので、ちょっとカチンと来て、頭に血が上って、まずいかなぁって思ったんだけど一瞬我を忘れちゃって、「やめてください」って突き飛ばしたら、カトー先輩は案の定盛大に吹っ飛んで廊下の壁に『頭を強く打って』しまった。


 あ、やっちゃったって、すぐに我に帰ったんだけど、もうカトー先輩は壁にめり込んで動かないし、頭は潰れたトマトみたいになっちゃって、グロい感じで死んじゃった。もう、本当人間って面倒くさい。すぐ死ぬ。どんな皮膚してんのよ。紙か。


 金魚の糞たちはあまりの出来事に固まってるし、もーめんどくさいから目撃者は全員殺そう、と思ってパパパって殺しちゃった。まー、放課後だったし誰も見てないし、逃げれば大丈夫でしょ。って思ったんだけど、やっぱり私って面倒くさがり屋でズボラで爪が甘いせいで、見られてしまってたんだなーこれが。


「あわあわ」って後ずさりして無様に失禁する男子生徒が視界の端に映った。あ、これうちの学校で一番のイケメンの池田君じゃん。なんで、こんなところにいるんだよー、てか失禁してるし、うわー幻滅ぅ、なんて思いながらも、見られたら殺さなきゃまずいでしょ、って思ったんだけど、これ論理的には破綻してないよね?


「ば、バケモン」なんてガクガク震えながら私のことを指差すから、さすがの私とてショック受けるわけじゃん。確かに怒りに我を忘れて、元の姿になっちゃってたわけだし、本当の姿を人間に見られたら、そりゃ珍しい生き物だから驚くのもわかるんだけど、同じ霊長類じゃん。ある意味親戚じゃん。ちょっと進化の過程で違う道選んだだけじゃん。ちょっと人間にはできない能力で人間社会に紛れ込んでるだけじゃん。ガクガク震えて泣き叫ぶほどかなー。

 池田君って学校一のイケメンで、それなのに誰に対しても優しくて、女の子はみんな憧れているわけで、私だって人間のふりして生活してりゃ人間に愛着持つし、人間の美醜感覚も理解してきたから、池田君イコールイケメンって方程式は整っていて、女の子だからイケメンには好かれたいってそりゃ思うわけ。で、そんな優しいイケメンの池田君に本当の姿を見られたからとはいえ、「バケモン」呼ばわりされたら。そりゃーショックだわよ。


 女の子にバケモンなんて!ひどい!憧れてたのにー!って心で絶叫しながら池田君もバシーンって殺しちゃったんだけど、いやぁ人間を殺してアンニュイな気持ちになったの初めてだったわ。まーそれはそれで貴重な体験だったんだけど、学内の生徒がいっぺんに何人も死んじゃったら大変な感じになっちゃうじゃん。かなりグロい感じで殺しちゃったし。ヤバいヤバイってスタコラサッサと逃げ出して知らん顔してたけど、もう次の日になるとマスコミやらなんやらも騒ぎ出しちゃってて、ま、勿論、私がやったなんて誰も知らないし、普段の私は人間の姿でいるんだから別に知らん顔してればよかったんだけど、「べっちゃん、なんで池田君まで殺したの?」って美玲が「アイス屋さんに行く? それともスタバ?」みたいな軽いノリで聞いてきたから、「をを!?」ってなった。


「え、なになに、何がー?」トボけておどけてみたけど、ニコってしたまま美玲は「だから池田君は殺す必要なかったじゃん」って言うから、んー!? こりゃあれだぞ? あれがあれだぞー!?って混乱しちゃって。


「結構、好きだったんだけどなー、池田君。人間にしちゃ可愛かったのに」って美玲が言うから、「げ、マジか」って今まで気づかなかった私の浅はかさを後悔した。


「うわー、あれ? マジで? 美玲マジで? 美玲も? 」


「ふふ、本当に気づいてなかったんだね」


「全然! フツーの人間だと思ってましたけど!?」


「べっちゃんは全然人間のことわかってなかったもんねー」


 嘘? 結構熟知してる気でいたんですけど、あれー。本当?


「ライオンってサバンナじゃお腹出して寝るわけじゃん。自分より強いものがいないっていう自信があるからだらしなくしていられるんだよね」


「は、はぁ」


「私のことも全然興味なかったでしょ。べっちゃんは誰も恐れてないんだよね、王者の風格があった。だから私はすぐ気づいたよ。人間じゃないな、って。ふふ。私は結構べっちゃんのこと好きだったんだけどな」


「えー、私だって美玲のこと好きだよー、じゃなきゃ毎日つるまないでしょー」


「ただ単に、無意識のうちに【仲間】だって理解してたからじゃない?」


 むむむ、そうなのかな。そんなことないと思うけど、本人がそう言うからそうなのかな、って考えて、うーんと唸って腕を組んだ。


「じゃあ、ここで問題です。私は一番初め何部だったでしょう」


えーそんなのわかんないよ。美玲コロッコロ部活変えてだもん。と思ったけど、一応考える。うーん、サッカー?


「ブブー、正解は水泳部でした。では第2問。何で水泳部辞めたかわかる?」


 可愛い人間の顔をした美玲が悪戯っぽく笑う。そっかー、こんな美人なんだもんなー、人間なわけないかー、なんて思ったりしながら、一年の時のことを思い出してみる。


「えっと、つまんなかったから、とか言ってなかったっけ。てかわかんないよー、そんなの。その時は今ほど仲良くなかったじゃーん」


「やっぱり、全然興味ないじゃーんウケる」


 けらけら笑う美玲。


「もーなんなのー? 教えてよー」


「泳ぐのって楽しいじゃん。だから入ったんだよねー水泳部。それで初めての部活でタイム計るっていうからちょっとだけ本気で泳いでみたんだ。人間の姿でどのくらい泳げるのかなーって試したくなって。でも、そしたらちょっとありえない記録出しちゃって。ワールドレコードだ、オリンピック候補だなんだって大騒ぎになっちゃってさー。でも私は泳ぐのが好きだったから水泳部に入っただけで、速く泳ぎたいなんてこれっぽっちも思ってなかったのね。だって水泳部でしょ?競泳部じゃないわけじゃん。のーんびり水に浮かんでスイスイ水を掻いて可愛い人間たちと楽しく泳ぎたかっただけなの。それなのに、コーチを大学から呼ぶとか急遽大会にエントリーするとか、先生が騒ぎ出して、もー面倒くさくなって辞めちゃったんだ」


 そ、そんな理由だったのね。全然知らなかった。


「学校中の話題だったじゃん。知らないほうがおかしいよ。べっちゃん全然、人の話とか興味ないんだもん。けど、そこが良い所なんだけどね」


「は、はあ……恐縮です。あれ? じゃあ他の部活とかに入ったり辞めたりしたのも……?」


「同じ感じ。楽しくやれればいいのに、ちょっと私が本気出すとそりゃ良い記録が出るんだけど、それって個性じゃん。足が速い人も遅い人もいて、でも速さとか関係なく走るのが好きならいいじゃん。速く走らなきゃいけないって誰が決めたの?タイムを縮めるだけが走ることの目的じゃないじゃん。人間ってそういうところ固いっていうか、柔軟性ないっていうか、ウケるよね」


「はぁ」としか言えなくて、私は別に走るのも泳ぐのも好きじゃないし。とか言ったら論点そこじゃないし、話がずれるだけだから黙って聴いていた。


「で、なら団体競技なら楽しくできるかなーって思ったんだー。サッカーとかさ、日本人ってすごく熱中するじゃない? あれが面白くて、普段はサッカーなんて話題にも上がらないのにW杯とかの時だけやたら盛り上がって、みんな偉そうに誰々が注目とか言うじゃん。バカみたいだけど、そんな人間が可愛くて。実際にやってみたら熱中する人間の気持ちわかるかなーって思ったんだ。まあそれなりに面白かったけど、女子ってレベル低いし、本気でやったら人間なんかに負けるわけないし。でも、個人種目よりは楽しかったな。私がいくらゴール決めても私のところにパスがこなきゃ勝てないし、チームプレイって人間らしくて好き。でも、そうなると、あいつは徹底的にマークだ、ってあたりが強くなるのね。ラフプレー? とか言って服引っ張ってくる人とかいて、ルール的にはダメっぽいんだけど、ある程度オッケーなのか審判見てないのか、ダメって言ってるのにみんなやるじゃん、どーゆーことー!?とか思って、ちょっとやり返してみたら、相手が複雑骨折とかしちゃってね。あー、こりゃ接触するスポーツはダメだなって思って、じゃあもうちょっとルールが厳格なやつで女子でもレベルの高いスポーツで、サッカー的な団体競技やろーって思ってソフトボールやってみたりしたの。ま、色々あってやめたけど」


「ふわー、そうなんだー、美玲あれじゃん天才じゃん」


「あはは、なにそれー。ウケる! 天才って! てか今あくびしたでしょ。聞いてなかったでしょー、テキトーなんだからー」


「そ、そんなことないよ。ちゃんと聞いてたよ」本当だ。聞いてはいた。なんか長くってややこやしかったから、あんまり頭には入ってないけど。


「ほら、やっぱり聞いてない。怒るよー」なんて言いながらも美玲は楽しそうだったから、よかったーってホッとした。


「人間って本当面倒くさいねー。べっちゃんに同意だよ」


「そうねー。可愛いところも多いけどね。でも、池田くんにバケモン呼ばわりされちゃったのはショックだったな。バケモンではないじゃん、私たち」


「うん、バケモンではない」


 ケラケラ笑う美玲。


「あ、でも、化け物って怪物とかモンスターって意味じゃなくて『化ける生き物』ってことかな、それならまぁ間違いではないのかな。私も美玲も人間に擬態してるわけだし。でもそれで言うなら、カメレオンとか、葉っぱになりすまして獲物捕まえる系の生き物もバケモンってこと?」


「知らないよ、私は池田くんじゃないもん。何考えて言ったのかは知らないよ。本人に聞いてみたら?」


 いやいや、イケメンの池田くんはもう、ぐちゃぐちゃに潰れて死んじゃったよ。


「あはは、そうだった。でもまぁ、私たちみたいに擬態ができるなら人間のフリして生きていけるからいいけど、他の種類のゴリラ達は絶滅危惧種らしいからねー。私たちトサカウオゴリラは恵まれてる方だよね」


 そうだねー。と異国の地で絶滅の危機に瀕してる同じゴリラの仲間たちのことを考える。

 住処を追われ、密猟をされ、日々数を減らしている同じゴリラの仲間達を思うと不憫でならない。私達はもともと擬態できるから、人間に紛れて今まで「発見」されて来なかったけど、見つかったら大変なことになるだろうな、新種の生物な訳だし、人間の言葉を理解してコミュニケーションできる生き物で、腕力も強くて、人間なんていう紙装甲の生き物なんか一発だし、恐れられてスグ虐殺されるんだろうな。私たちゴリラは息をするだけでアミノ酸が精製されるから超マッスルになっちゃうし、人間に擬態してても、肌触られたらカチンコチンの全身これ筋肉の表面張力だってことはバレちゃう。だから、人とはあんまり接触しないようにしてるけど、いざ私たちの存在がバレて、なんだかよくわかんない兵器とかで攻撃されたら人間には勝てない。無理だもん。すごいよね、人間。

 個体では弱っちくて生きることだってできないのに、集団で役割を分けて、生活圏を広げてんだもん。多分、人間って全人類合わせて「人間」っていう一つの生き物なんだと思う。それで、そんな個体では弱っちい人間に生活圏を奪われたいろんな動物や植物が今、絶滅の危機に瀕している。人間は地球の生き物の中で一番知能が高いはずなのに、知能が高いだけで聡明ではないし、ずいぶんバカみたい。


 うーん。なんとかなんないのかなー。って思って、あ、そうか、なら私が頑張ればいいんだって、考えが頭に浮かんで、意外と良い考えだなって自分の生き筋が見えた気がした。


「私さ、将来は絶滅に瀕してる生き物を救う仕事をするよ」


 恥ずかしげもなく、スッと言葉になった。


「へー、べっちゃん見かけによらず将来の夢とかあったんだー」


「ううん、今決めたの」


「思いつきかよー」と美玲はまた爆笑しながら胸を叩いた。その様子を見て、あー、確かに人間っぽくはないなって思った。


「もー、美玲、爆笑すると笑い方が『ウホホッ』になるし、胸叩くのゴリラっぽいからやめなよー」


 私が言うと「え?うそ?無意識だったー、恥ずかしいっ!気をつけよー」とぺろっと舌を出して、美玲また、あはは、と笑った。


「でも、べっちゃんが将来の夢を見つけられたんだったら、私も嬉しい」


 なんて言ってニコッと笑うから私も嬉しくなった。


 こうして私は将来の夢を見つけられて、これもそれも美玲と仲良くなれたからなんだって思ったし、美玲も私の夢を知ってとびきりの笑顔を見せたくれたから、ああ、美玲と仲良くなれて本当に良かったなって思った。


 人間も他の生き物も仲良く暮らせたらいいのにねーって、話しながら、夕暮れの校舎を二人で手を繋いで歩いた。

 絡み合う指の暖かさになんか感動して、私たちはこれからもズットモだよって言いそうになったけど、それはさすがに臭いからやめた。



 おわり。

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【私が将来の夢を見つけるまでの些細な出来事の顛末と親友ができた話】 ボンゴレ☆ビガンゴ @bigango

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