特別ふろく「アトラム辞書」

アトラム辞書

これは私がこの物語を書く前にアトラムの文化、風習をまとめた物だ。

毎日新しい発見があり、発見の奇妙さに驚かされる。


ここに記したのはごく一部であり、書いたのに紛失してしまった情報も多い。

彼らや彼らの文化は刺激に満ちている。いささか刺激が強すぎることもあるが、それも含めて全てが興味深い。


まず、アトラムを紹介しよう。


■場所


アトラム

アトリア大陸で一番栄えている街。中央には中世の建物のように石で出来た建物が並ぶ。大きな動物は平屋のような住宅に住み、小さな動物はペンシルビルのような建物に住む。

主に南北に分かれており、中央部から北はアトラムの領土である。

アトラムに住む獣は基本的に寒さに強く、ゲッカニアの獣は寒さに弱い。以前はハデな戦争もあったが、今では小競り合い程度。


中世ヨーロッパ程度の文明があるが、独自発達している。


アトラムで最も驚かされるのは食文化だ。獣が獣を食らう。それ自体は当たり前だが、ウシを食べている横をウシが通り、肉を焼いているのはヒツジだったりイタチだったりする。

通りがかりの獣は気にする様子もない。


ゲッカニア

南にある街。爬虫類や両生類が統めている。アトラムとは戦争状態にあるが、文化的練度が低く劣勢である。彼らは寒さにめっぽう弱いが食事の少なさと、その戦闘力の高さでアトラムと戦い続けている。ス・ララト・バッソという王の独裁で成り立っている。アトラムで手に入れた情報しか知りようが無いが、王は傍若無人で多くの獣を奴隷のように扱っていると言う。言葉は悪いがそれはアトラムも同じだ。


ヌーエ

アトラムの南西に浮かぶ小島。崖一面に古代文明が刻んだ文字が残されている。上陸する生物だけを必ず殺す何かがいると言われている。信仰の対象として大切にされているので過去に上陸した記録は無い。船から壁画などを見るツアーが上流階級の中では流行している。


ヌエギと呼ばれる山があり、そこに壁画が描かれている。船で3日ほどかかる


大きさは四国程度かと思っていたが、どうもそれより小さい。アトラムの地図からはプロパガンダが感じられるほどに自国領土を大きく描きがちなので正確な大きさは不明。私には伊能忠敬のような根気はない。


トゥンパ

アトラムの城から5時間ほど歩いた場所にある山に住む獣の総称だ。オオカミとイヌが多いが、イタチもいる。狩猟で生計を立てているからか、肉食獣だけが住んでいる。トゥンパにもアトラリムは適応されるが、トゥンパの獣はアトラリムで上下関係を作らない。


街に住む獣を「鉄臭い」と下に見る。また、街に住む獣は「土臭い」とトゥンパを馬鹿にしている。


戦闘能力は高く、戦争が起こると傭兵として出稼ぎに行くことも多い。まるでネパールのグルカだ。


ポウタッヌ遺跡

アトラムのあちこちにある地面や岩が大きく抉れた場所をそう呼ぶ。ポウポウの力により抉られたと聞いたが眉唾だ。しかし、その切り口は滑らかで、私のいた世界でもこんな掘削機械は存在しない。

※ポウはポウポウ、タッヌは「抉る」の古代語


■獣


ゾウ

その数は少なく、アトラムを統めている王族のような存在。アトラムの獣の名前は族名・村名・素名で成り立っているが、王たるゾウはアトラム・●●と村名がない。村名がない事が王たる証なのだ。


現在は戦わないが、戦闘能力も高い。アトラム国の資料の中にはゾウが戦っている絵も多い。武器は使わず、その巨体を武器に戦っていたと言われる。


サイ

一本の立派な角を持つサイ。王の生命を守る兵士であり、軍の大将でもある。古代では最前線に立っていたが、生まれてくる子が少なく、現在は王に仕える貴族「アーラム」として存在感を発揮している。軍や宗教もサイが長となり仕切っている。神職につく物も多く、王の言葉を民に伝える役目も仰せつかっている。


オウム

鳥類で唯一王宮近くに住むことが許され、食べられることもなく毎日を過ごしている。王に小話を聞かせたり、政治的な進言も行う。飛び回り市井を見回ることもある。道化のような存在だ。カーシミッドはオウムだけの職業だ。王の言葉や制定されたルールを歌いながら聞かせて回る。

また、飛べることや小ささから諜報活動も行う。


トラ

主に軍隊を仕切っている。防衛庁長官にあたる「タトラ」もトラだ。全ての街にいる訳ではなく、要となるエリアには必ず1頭はいる。

トラは領土を守るのが主な仕事だ。イヌやクマが敵を倒し、トラが守る。前線でもその強さは変わらないが、高さがある場所が一番力を発揮できるとのことだ。城でもトラは上層階の警備を行い、詰め所も上にある。


オオカミ・イヌ・クマ

警官、兵士、斥候のような存在だ。あちこちに派遣され、蛮族との戦いやたまに単独で攻め込んでくる蛇などとも戦う。軍事面でも多くのイヌを仕切り、トラからの命令を忠実にこなす。


立場的にはクマ→オオカミ→イヌだが、オオカミの中には力が認められ、クマとも対等の立場で生きている者もいる。


誰もハッキリ言わないが、クマもオオカミもイヌを若干馬鹿にしている部分がある。逆にオオカミはクマやオオカミを盲信とも言える思いで尊敬している。


サル

医療や武器や防具の開発。乗り物の作成、手が発達している事もあり、学者のような身分だ。戦闘に向いているサルも多いが、サル以上の能力を持つイヌやオオカミがいるので影は薄い。王宮に仕えているサルから街の何でも屋として働くサルもいるのでアトラムの商工業を支えている存在と言っても過言ではない。


私が身に付けている下着もサルの仕立て屋が作ってくれた。知能に関しては全ての獣が似た感じだが、サルは想像力が豊かだ。私が日本やベトナムで見たものを説明すると、その意味や構造を話しながら理解する。どうも考え方が立体的だ。しかし、悲観的な性格や皮肉屋が多い。その想像力の産物なのだろうか。


ネコ

トラとネコの絆は深く、見た目的には異種間ではあるが結婚をする事も多い。そのしなやかな体から芸能の仕事を行っている者が多い。古代から踊りや見世物が行われている「ミャズ・チュラン」ではチュラン(踊りと格闘技のような物?)を見せている。アトラムの伝統を守る存在でもあり、社会的身分は比較的高い。ただ、ネコはアトラムの歴史の中で何度もクーデターを企てたことがあり、トラのように兵に付く事はできないらしい。


メイドのように働く者や売春で生活をしているネコも多い。


どのネコも見た目が美しく、後ろ姿はニンゲンである私もドキっとしてしまうことがある。


ウシ・ブタ・ヒツジ・ウマ

土とともに生き、農業を行っている。その大きな体を悠々と揺らし、地面を均して作物を育てる。力も強く体に多くの荷物を背負い国中に行商に出歩く。あまり頭は良くなく、国政に出てくることはない。また、食用にもなっている。

国民の足としても活動しており、サルが作った車を上手に引き、そこにサイやクマが載っている様子を見ることができる。


商売人(便宜的に人という文字を使う)だけが使える市場を取り仕切っているのはウシだ。バ・イキャロット・ヤドドモルンボ(皆はヤドと呼ぶ)が市場の長で、ヌヌテンの中では唯一の貴族だと言う。


ウサギ・イタチ

比較的小型の彼らは商店を経営している事が多い。小さな体にそれなりの頭脳。ウシから安く食べ物を買い、少し高く売りつける。ずる賢い物が多く、あまり評判は良くない。また、多産なことから仕事にあぶれる者も多く、売春で生計を立てている者が一番多い。


ネズミ

アウトカーストといっても過言ではない。多くの法律があるアトラムだが、ネズミを殺した時にくだされる罰則はない。オオカミかイヌに少し怒られる程度だ。

あまり数が多く、食に貪欲な彼らはゴミの処理から建設の際の頭数、雑多な仕事を任されている。1番厳しく頭数管理もされており、名前も与えられていない。彼らが名乗る名前は全て自称である。売春、盗みなど犯罪に走ることも多い種族だが、もし捕まった時は裁判の機会は与えられない。その場で殺されるからだ。


労働力、そして食料としてアトラム中にいる。ネズミの種類も多く、森林、水辺、砂漠、街など、場所を問わず生息している。


ネズミを束ねている存在はおらず、各々が好き勝手に生きている。出産管理はかなり厳しくされているが、文句も言わずに生きている。


以前、住処で出産を見たが、周りのネズミが生まれたばかりの子ネズミを食べているのを見てゾッとした。しかし、アトラムでは子食いは普通のことらしく、タムリにこの話しを振ると嫌そうな顔はしたが同意した。


ポウポウ

毛が非常に少ないサル、我々ヒトと同じ姿形をしている。アトラムで必ず1人だけ生まれる。それはどんな動物から生まれるかわからない。ただポウポウとして生まれ、体に強大な魔力を秘めていると言われる。全ての動物の呪いが生み出す存在として恐れられると同時に祀られている。なんでも呪いを物凄い力として操れるらしい。



■食べ物


シャ

焼肉。ペルシアのカバブに近い。


※シャが焼く

※テテトが煮る

※ンググが生


アモ

・小麦粉のパン。チャパティやトルティーヤに近い。アトラムの主食


アララ

・粉を水でこねて団子状にした物。スープで煮る・焼くなど多くの作り方がある。南米にキャッサバを粉にした物があると聞いたことがある。それに近いのだろうか?味は殆ど無いが、テテトの中に入れてかき回すと、テテトの味が染み込み美味い。


ズズ

白菜に近いオレンジ色の葉物野菜。草食獣だけでなく、肉食獣にも好まれる。匂いが少なく、シャキっとした歯ごたえは火を通しても残っている


ズーキ

ズズをメインに多くの野菜をすりつぶした飲み物。青汁に近いアトラムでは肉食獣は肉のみを食べる事が難しいため、常飲されている。足りないビタミンを補っているのか?まずくはない。獣によってはハチミツを入れたりしている。


※○ララ はこねる

※○ーキ はジュースにする


イッカ

草食の獣が常食しているサラダだ。豆、草、花などが盛り付けられ、見た目にも美しいが、味は雑草と同じだ。

醤油や味噌があれば私にも食えるかもしれない。


種類は豊富にあるが、どんな物でもイッカと呼ばれる。ルルの花と豆とズーキのイッカだけはそれなりに美味い。ルルの花は強い酸味があり、スープにも使われる。しかし、食べ過ぎると腹を下す。獣は平気で食べる所を見ると、この体質は私だけなのだろうか。


ネコルカル

どんぐりのような木の実。殻は柔らかく、ライチのような甘みがある。


トー

鳥の足みたいに数本の長い実が付いている。ねっとりとした食感に塩辛さ。甘くないバナナみたいな感じだ。


セピュシャ

黄色い実の中に緑の小さな種が多く入っている。種の中は甘い液体で満たされているが、実自体は淡白だ。見た目はひょうたん型で大きさは握りこぶし2つ分ほど。


デデググ

くるみと似た形をしており、薄いカラを割ると5つの実が出て来る。味はうっすらと塩気があり、食感はマカダミアンナッツに似ている。


驚くことに酒がある。ハチミツで作る酒、乳で作る酒が多い。作った酒に果物を入れたりと種類は豊富だ。


どれも度数は低い。屋台、市場、店などどこでも売られている。店に売られる時はいろんな獣の胃袋や腸に入れられている。そしてその大きさで値段が決まる。


私が一番好きなのはセピュシャを入れて数日放置し、飲む時に実を潰してから一緒に飲む飲み方だ。バナには「もともとの味がわからなくなる」と言われるが、セピュシャの酸味と酒の甘みが絡み合い美味い。


■文化


テン

どこにでもある太陽信仰の一つ。太陽は5つ輝き、その光の強さがアトラリムに直結している。

アトラリムは


アラテン ゾウ

カムテン サイ、オウム

スヴァテン トラ、クマ、

トポテン イヌ、オオカミ、サル、ネコ

ヌヌテン その他

とある。それぞれの生まれにより信仰するテンは違う。


テンをまとめた本があり、それが歴史書としても機能している。聖書みたいな物だ

名前はテンピテラ


アトラリムを変えることはできない。恩賞により、立場がよくなったりはするらしいが、それは種族全てではなく、個人や隊単位だ。

恩賞の効果は一代限りで子に引き継がれることはない。


月は ソン と呼ばれ3つある。


アトラリム

いわゆるカースト。種族毎にやれる仕事に差異はそこまでないが、ある程度は決まっている。例えば「スヴァテン」の中にも細かい身分があるが、誰も気にしていない。アトラムでは多くの事象が形骸化していることが多い。しかし、アトラリムは獣の生き方を決める絶対の決まりとして大切にされている。


バッシャ

タバコに近い。マタタビのようにネコ科の獣はいい気持ちになれる。匂いは甘く、中東のシーシャの香りに近い。私も吸ってみたがニコチンやタールは感じない。体には良さそうだ。


トラとネコはバッシャを愛飲している。バッシャはタバコを巻く葉のことだが、現在では巻いた物もバッシャと呼ばれる。



あいさつ

林家三平の「どうもすいません」みたいに掌を自分に向け、指先を額に当てる。左手で行うのが礼儀で、左手に物を持っている時は右手でも構わないとのこと。位が上の獣を相手にする時は膝を付いて同じ行為をする。


アトラミゲゲシュンバルラ

通称アルラ。この世界の貨幣だ。1、5、10、50、100、500がある。矢じりが1アルラ、リンゴやツボ一杯の牛乳やカメ一杯の水が5アルラ、屋台に売っている大抵のものは5~30、服などの身に付ける物は50~100、日本円で換算したら1アルラは100円といったところか。


アルラは獣の歯や革でできている。蛇やトカゲが使われ、ゲッカニアの兵士の死体はそれ自体が貨幣としての価値を持つ。独特の焼印があるのは偽造防止のためだという。

焼きごてはサイの神官しか触ることができない。他の獣が触れると即死罪だ。


ベージ

菜食主義者。コミュニストに近い。肉食の民が草食の民を守るためにはじめた。隊長はエペクと名乗るイヌだ。目的のためなら手段は選ばない。その事に怒りを覚えることもあるが、アトラムの中で抑圧され続けている彼らを見ると理解はしないが共感はできる。


■娯楽


ピョジャ

アトラム式の相撲だ。転んだら負け。土俵は存在しない。どこまでも動けるルールなのは獣の身体能力に合わせたのか?両手両足、そして顎を使う。噛み付く時は血が流れないようにするのが礼儀だ。相手を流血させるとペナルティが課される。


面白いのは一回のゲームで二回しか戦わない部分だ。二勝しないと勝利にはならない。一勝一敗なら引き分けでゲームは終わる。大規模なトーナメントも行われているらしく、優勝すると多くのアルラを手に入れられる。種族別の試合が組まれ、最後は各種族の優勝者が入り乱れて戦う。大抵はサイ、クマ、ウシの大型獣が勝つ。しかし、長いアトラムの歴史の中で、一度だけウサギが優勝したことがあるらしい。


ヤンガ

ナイフ投げだ。肉をウシを模した土台に貼り付け、投げたナイフで切り落とした重さを量り優劣を決める。この競技はタムリの妻の部族「トゥンパ」が常に上位を独占している。

切り落とした肉はカゴの中に集められ、優勝者、2位、3位、4位、5位に配られる。


5位まであることが気になりバナに訪ねた所、テンの数と合わせて5つとのことだ。

アトラムでは基本的に5つの評価基準で優劣を決める。


テンへの信仰が生活レベルにまで入っている証拠だ。


ママヌママ


草食の獣だけが行う。牧草の大食い大会だ。ママヌママは獣によって階級が決まっている。ウサギがウシに敵うわけがないし当たり前だ。ママヌママもピョジャと同じく大規模な大会が行われている。

ヌヌテンの獣がカムテンのサイに一泡吹かせられる場らしく、大会の季節が近づくとアチラコチラで牧草を大量に食べてコンディションを整えているウシやウマがいる。

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そして獣は天を仰ぐ ポンチャックマスター後藤 @gotoofthedead

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