個人的な私見だが深海という舞台は国家や組織の謀略が衝突する場所として適切だと思う。
地上や空中とは違い人目につかず、放り出されば絶対の死の世界は敗れたものに生を許さない。
第三者がいないはずの深き深海で行われし、本来は誰かにみせるはずの浄瑠璃をモチーフとした人型兵器の戦いをもってくるアイロニー、構成が上手い。
ですが、この戦いですら本作の前座にすぎません。
その後に起こす行動こそ作品の本質、テーマです。
詳しくはネタバレになるので書きませんがこの行動は誰かに強制されたものではありません。
本作は人形浄瑠璃をモチーフとした作品だが、行動を起こした者たちは誰かの操り人形かと言えば否である。
自らの意思で国に恋した殉教者として行動としたのでしょう。
深海の死闘、行われる謀略戦、それらに関わる人物を重厚な筆致で描写される本作。
読めば貴方は知られざる舞台の目撃者となり、『決して忘れぬだろう』と思います。
読んだらきっと貴方に刺さる格好いい軍事SFです。
キャラが美しい、メカが美しい、戦の一つ一つが美しい。
元から作者の藤井機斎様は重厚な文章を書く方でしたが、今回はそこに読みやすさへの工夫が加わることで、あっという間に引き込まれる物々しい美文が生まれています。
その中で舞う“和”のテイストに溢れたキャラ、メカ、思想、戦争、いずれもため息が出るほど美しい。
その美しさで描くのが軍事SFですよ。
やばいです。ややもすれば重苦しく泥臭い感覚さえ有るミリタリが、作者様の魔法で幽玄な世界へと変貌する。
ゾクゾクとしながら一気に読んでしまいました。
まるで濃厚な歴史小説を読んでいるような感覚に陥りますね……それ程に、このイソラは古き良き『和』の要素を感じる。
まずイソラと呼ぶ、古代兵器を現代の技術で蘇られたとされるロボット群。装甲車を相手に戦う姿は、まるで武者のそれ。舞うように、幻惑するように装甲車を相手にする。そんな様子がこの文から読み取れますね。
また作中の至る所に、いわゆる藤井イズム的な作風が感じられる。泥臭さ、伝奇、世界の暗さ(闇の中でネオンが光るようなそんな感じ)などなど、そういったのが好きな方には、実にもってこいですね。
これはまさに、文学的ロボ小説とも言える作品です!
<18.6/25追記>
語弊を恐れずに言うのなら、読者は彼らを理解できなくても良い。国に恋する、国を護る、国を生かす――彼らが掲げ、全てを費やしても良いとさえ考えているような、その理想をだ。
本作を読了した今、このイソラという物語を、敢えてそういった思想の物語であるとは括りたくない。そう括ってしまえば、途端にイソラという物語は陳腐と化して、鮮烈に輝き散った男たちの段が霞んでしまうだろうから。
恐らく、物語としての本質は、一つの夢と理想と憤りに身を投じた男たちの有り様そのもの。そう思えるほどに、発掘兵器イソラに重なる彼らの有り様が美しい。
常人では殉ずる事の出来ない理念を、それに己の全てを持ち込む行いを狂気と呼ぶのだとしたら、安曇野正義率いる一団は現代に沈む狂気とでも言い表せば良いのだろうか。安曇野警備保障の有り様は、かくも美しくイソラと重なる。
透明な論理とある種の狂気が支配する段に及んで、イソラという物語は、白刃のような輝きを真に発揮し始める。危うく、そして美しく輝き出すのだ。
そしては、それは自らを偶像としての座に追いやる行為でもあると、先生は理解していたのではないか。最終段が殉教者たちの物語であるのなら、やはり、その終着点は偶像たる安曇野正義が採った”かの行い”でしか有り得なかったのかも知れない。
彼らの決起がもたらしたものは何なのか、その答えを掴む為にも是非読んで貰いたい一作だ。
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伝統芸能に歴史観、そしてロボットモノ。
これらの要素を空中分解させることなく仕上がっている作品、それがイソラです!
つまるところ闇鍋です、今回も非常に濃ゆい闇鍋作品です。
巧みな文章表現により描き出される戦闘は、第二話目にていきなり夜間基地強襲というシチュエーションから始まります。
ミリロボ好き的にはこの時点で燃えるものがあるのですが、流石は人外の描写に長けた作者様。人型と呼ぶにはいささか異形ともいえる巨人〈イソラ〉が日本刀を振るう様を、見事に描き切っておられます。
これぞリアルロボと謳うキャッチコピーに、嘘はありません!
恐らくは壮大さと怪しさを増していくであろう物語に期待しつつ、レビューとさせて頂きます!
お勧めです。
本作は結末をあえて書かないことで余韻を残す作品であると思う。
安曇野と大義、主役級の二人は共に己の信念に生き抜いた。しかし護国、日本という国を憂い、行動した結果については全く表現しない事で余韻を現している。もしくは我々読者の個人個人の心の中で浮かんだものこそがイソラの舞台で描かれた彼らの行動の結果なのかもしれない。
真面目な感想はこの辺で止めておいて、やっぱいいよね。特殊環境下における戦闘! 本編のクライマックスに入る前、ある意味転換期におけるイソラvsセイレーン! 深海で音もなく、同じ遺物から生まれた違うコンセプトのマシーン同士がぶつかり合う!
深海を魚雷が、そして日本刀が切り裂いていく描写は重厚な文体と相なって手に汗握る名場面と呼ぶにふさわしいかと!
何から何まで人を選ぶことは確定的だが、それ故に読み進められるのであれば間違いなく心に残る名作になると断言できる作品です。