これは異世界の事を書いた小説ではない。異世界へ行く為のチケットである。

これは果たして本当にこの世界で書かれた小説なのであろうか?
否。断じて否と申し上げたい。
つまり私はこう思う。この小説で描かれている世界に実際に住んで居る作家がその世界の言葉で小説を書き、小稲荷一昭と言う一人の作家が和訳をしたのであろう。と。
細やかな情景描写、歴史の作り込み、その土地に根付いた文化は、もはや実際に見て聞いたものを書き上げているようにしか思えない。
それほどまでに写実的に描かれた世界観が、読む人を異世界へと誘うのだ。
また、「癖のある」読点使い、科白回し、描写が、読み進めるにつれて「癖になる」。ああ、私は小説を読んでいるのだな。と、実感できる。読み物としての完成度がそれほどに高い。
一つ懸念を挙げるのならば、読書初心者には、やや難解なものと成り得るかも知れない。しかしこの作品は、辞書を片手に置いてでも読む価値のあるものであると、私は断定する。