残されたメッセージ③
とある天文学者の手記
最初は奇跡が起きたのかと思った。
でも違った。
あれは悪夢の序章に過ぎなかったのだ。
今から半世紀ほど前、私たち天文学者は地球に接近する可能性の高い小惑星を発見した。
この星と衝突する確率は99パーセントを超えている。その天体の規模からして、地球上にいる生命体の大絶滅は避けられない。
人類は窮地に立たされた。
しかし、政府がその事実を公表する直前、その小惑星は忽然と姿を消した。
最初は観測機器の故障かと思ったが、不審な箇所は見当たらない。莫大な質量を持つ星が突然に消失したのだ。
同僚は「危機を脱した」と喜んだ。
だが、消えた理由は不明なまま。
私はそのことに不安を感じずにはいられなかった。
やがて、この悪い予感は的中することになる。
数日後、巨大な宇宙船が何隻も地球の空に現れたのだ。
人々を誘拐して去っていく彼ら。人を宇宙船に連れ去るためなら、建造物の破壊もする。ある大物政治家も拉致された。
政府はそれを彼らからの宣戦布告と見なした。
それから私たち天文学者は多忙になった。
政府や軍事関係者からの質問攻め。
「彼らはどこから来たのか?」
「彼らの目的は何だ?」
「どうして今まで宇宙船を観測できなかった?」
その質問には全て「分からない」で返す。
私は天文学者であり、宇宙人の専門ではない。分かるわけがないのだ。
だが私なりの予想では、小惑星を破壊したのは彼らだろう。わざわざ人類を生かすために破壊した。
つまり、彼らは私たちを生捕りすることに何かしら目的がある。
そこから先は分からない。
学生時代に鑑賞した映画では、宇宙人が人間の生き血を吸うために捕獲していたが、そういうことなのだろうか。
彼らとコミュニケーションを交わせた例はない。
その映画のように「人間はただの食料なのだから会話する必要はない」とでも考えているのかもしれない。
いや。
もしかすると、彼らと人類の知能レベルが違い過ぎて会話が成り立たないのではないか。
もちろん、知能が低いのは私たちの方だ。
彼らの使う技術はどれも私たちの最先端を凌駕している。人類が彼らの技術力に追いつく可能性は、どれだけ時間をかけてもないだろう。
私たちが犬や猫と接するような感覚とでも言うべきか。
彼らから見れば、人間は「ニャーニャー」と鳴いているようにしか感じないのかもしれない。
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