第27話「フライディ・オギルビータウン」

 親方は二つ返事でノアを引き受けてくれた。ちょうど若手も欲しかったし、子供のいない親方夫婦はノアのような身寄りのない子供を育てるのを生きがいとしていた。

 俺もそうやって親方にそだてられたのだ。なんていい人たちなんだろうな。


 ノアも新しい部屋を与えられて満足そうだった、あの元漁師のボロ小屋に比べたらそりゃあ天と地程の差があるだろう。



 ――さてその足で俺たちはファウラーの北に位置する漆黒の洞窟に来た。ジャイアントコウモリを倒したあの洞窟である。

 ここにあるくらくら茸が目的である。

 今日は水曜日なので金曜日まではこの場所で、キノコ狩りができるわけだ。中にいる敵はコウモリたちとスライム達である、初めて来たときはかなり苦戦したのが、もう俺にはある程度対処法がわかっている。


 さらにエコロケーションの能力を身につけた上に、ロアは鼻も効くし、夜目がきくのである。前回とは違ってこちらも敵の位置を把握できるというわけだ。


 そんなわけで挑んだ漆黒の洞窟であったが、予想以上の楽勝だった。

 まずコウモリに対してだが、これはもう爆音によってほぼ無効化することができた。俺とルミィは耳栓をしていたが、どうにもロアンヌの耳だけはふさぐことができないので、使う際にはおもいきり逃げてもらった。


 そしてスライムに関しては、不覚にも大量のスライムに襲われたため、一度はあえなく全滅してしまった。あいつらは残念ながら、暗がりの中ではかなり見え辛過ぎて、ロアでも襲われる前に発見することができなかった。


 二度目は注意深くエコロケーション使うことで、しっかりと敵の位置を把握すると、全員によるオイル&フレイム攻撃で無事スライムを撃退した。

 その後もスライムの不意打ちを結構受けたのだが、ロアがスライムの攻撃で窒息させられそうになった時に、破れかぶれでエナジードレインを使ってスライムにかみついた結果、なんとあっさり撃退することができた。しかも自身のHPも回復できるおまけつき。


 効果的な手段を見つけた俺たちはこれによって、ほぼスライムを完全制圧することができたのだ。

 LV1でも攻撃さえ受けなければどうということはない。

 今後もスライム系の敵にはエナジードレインで対抗していけることが分かった。まあ、スライムに対してかみつくって行為はかなり気が引けたのだが。


 というわけで、もはや洞窟内に敵なしとなった俺たちは洞窟内にあるくらくら茸はほぼ全部取りつくした。取りつくすと、新しいやつが生まれなくなるとルミィが言うので、何本華は残したが、それでもなんと300本近くのくらくら茸をGETしたのだ。

 一本300Gなので何と90000Gの資産価値がある。

 さすがにこれだけあれば、オークションでも対抗できるに違いない。

 

 逆にこれだけの量があると、一カ所のお店だと安くなるとルミィが言うので、ファウラーとオギルビーで分散して売ることにした。

 ルミィはいろんなことに気が回って素晴らしい。この旅が終わったら是非妻にしたい。


 そしてオギルビーに戻った俺たちは、きのこを売りさばくと、せっかくなので例のオギ酒場にて酒でも飲んで友好でも深めることにした。

 なんかきのこを売りさばいて、飲み会をするってやばい集団のような気がするが、一応俺たちは世界を守るために旅をしている集団である。


「かんぱーい!」

 オギルビー名物のオギルビールを手にしてみんなで一斉にそれを口にした。

 くぅのどにしみこむぜ! ちなみにこの国の法律で飲酒に年齢制限はないから、ロアが飲んでも問題ないんだぜ。

「キノコ狩りお疲れさまでした」

 なぜかルミィがみんなをねぎらった。一番仕事してたのはルミィだったような気がするけどな。そしてルミィは酒に強いらしくガンガン飲んでいく。


「それにしてもくらくら茸って高いんですにゃ。あんにゃ高いにゃらロアは泥棒なんてせずにキノコ狩りやってればよかったにゃ」

 早くも酔い始めたロアだが、発言が不穏すぎる。


「おい、ロア声が大きい……。泥棒やってるとかしれたらただじゃ済まんぞ」

 ロアがはっとした顔をする。

「ごめんにゃのです」


「それにしても、ロアちゃんの弟のハル君がどこにいるか全然分かりませんね」

 ルミィはすでに4杯目のオギルビールを飲んでるが、顔や言動に変わった様子はない。ロアはすでに顔が真っ赤で、俺も少し酔ってきた……。


「にゃーぁ、そうにゃあ、オギルビーで立ち寄りそうにゃところは行ったんだけど、ちっとも目撃情報とかないにゃ。ハルの友達とかも見てないそうにゃ」

 ロアは酒飲むと泣き上戸なのか、すこし涙目になっている。真実を知る俺はとてもつらいがここは下手なことは言えない。

「死んでたにゃどうしようっ!」

 グラスをテーブルにおき、両手で顔を覆うロア。泣いてしまったか……。


「あの、ハルには恋人とかいなかったのか?それとどこか出かけてしまったとかそういうことは?」

 せめて死んだ可能性だけでも否定しないと……。実際ハルには恋人とどこかに消えてしまったと伝えてくれと頼まれてるしな。


「そんななわけにゃいにゃ、ハルはロアのことが大好きにゃ。ずっと守ってきたにゃ、だからロアをおいてどこかに行ったりはしないにゃあ!」

 そういってかなり酒でべろんべろんな口調で、ロアは弟への熱い思いを語りだした。あかん奴だ、姉の愛情が重すぎる、これじゃあ、あながちハルが恋人とどこかに旅だったことにしてくれって言ったのは本心だったのかもしれないな。


「ロアちゃん、あまり弟さんに愛情注ぎすぎるの良くないと思うわよ。弟君たちは弟君たちで男の子だし、自分の人生があるのよ」

 さすがに酔っぱらってきたのか、それともただ黙ってられなかったのか、ルマンドは語気を強めてロアに忠告し始めた。

 どうも正義感が強すぎるなルミィは、こんな兄弟の問題とか放っておけばいいんだよ、ケンカになるぞこのままだと……。


「ルミィさんには関係ない話にゃ、弟たちはロアのたからにゃの! ノアとハルに恋人とかいらにゃいのにゃ、ロアがいるにゃ……」

 ロアはだいぶゆがんだ愛情を持ってるようだな。まあ親代わりに今までこの二人の面倒を見てきたんだ、ゆがむのも仕方ないだろう。

 ああでもこれはルミィの意見とぶつかりそうだなあ。まだまだ、この酒宴は続くのであった。

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急募、LV1のまま世界を救う方法【LVあげ縛り】 ハイロック @hirock47

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