第26話「ノア」

 公園での出来事の翌日、俺たちはまずルミィの弟を探しに、まずは例の海岸沿いの漁師の小屋に向かった。

 俺はもちろん弟が死んでいることを知ってはいたが、ロアにはもう一人弟がいる。彼のことをほおっておくわけにはいかなかった。そしてもう一人の弟は、その漁師の小屋に戻ってきていた。


「お姉ちゃん……。」 

「ノア!」

 二人はお互いを確認するとがっちりと抱き合った……。

 ノアと呼んだロアの弟はまだ10歳くらいだろうか、だいぶ幼い感じだ、彼がひとりで生きていくのは辛いだろう。

 

「いったいどこに行ってたにゃ?」

 頭をなでながらロアは弟のノアに尋ねる。


「お姉ちゃんこそどこ行ってたんだよぉ……。僕はずっと迷子だったよぉ」

「ごめんね、ごめんねノア……ねぇお兄ちゃんは? ハルはどこにいるのにゃ?」

 あの自殺した少年はハルというのか……。すまんがハルはもうすでにこの世にいない。俺とブルボンしか知らないことだがな。


「ぼくにも、わかんないんだ。気づいたらお兄ちゃんもお姉ちゃんもいなくなってて、僕は気づいたら公園で寝てた……」


「にゃにか覚えてないの?」


「覚えてない……なんだか嫌な夢を見てたみたい」


「そうにゃのか……。とにかくノアだけでも無事でよかったにゃ、きっとお兄ちゃんもどこかにいるにゃ」

 そういって、ロアは弟のノアをもう一回強く抱きしめた。ずいぶん弟のことを溺愛しているようだ。


「お、おねえちゃん、く、くるしいよ。そ、それに何なの、その猫耳としゃべり方。にゃあにゃあうるさいよ」

 やはり弟君も気になっていたか、それは不幸にも女神の恩恵、いや、呪いによるものなのだよ、君のお姉ちゃんは不幸にもブルボンの被害者なのだ。


「こ、これには深いわけがあるにゃ!」

 猫耳を触りながら、ロアは弟に自分にあった出来事を話し始めた。

 そして、ネコ化の解除と魔王復活の阻止のために旅にでなればいけないという話もした。


「というわけで、しばらく一緒にいれにゃいにゃぁ」

 ロアは悲しそうにそうやってノアに伝えた。しかしさすがに10歳児を一人きりにはできないしなあ。あっ、そうだ……。


「ノア君は花火職人に興味ないかい?」

 俺は膝を折ってノアに目線を合わせてきいた。もし職人になる気があるならば、親方がノアを預かってくれるはずだ。


「花火は好きだけど……職人?」

 ノアは首をかしげる。


「花火を作る仕事をやってみないか、お兄さんは花火を作る仕事の人なんだよ、ちゃんとした食事も住む場所もできるよ」


「それはいいにゃ、ノア花火職人目指してみるにゃ」

 ノアの代わりに答えたのは、ロアンヌだった、保護者としてはこんなありがたい提案はないからな。正直、弟の意思なんて必要ないのかもしれない。

 半ば強引に「うん」と言わされたノア君だった。

 

 そんな感じでノアの身柄は親方に預かってもらうことに、ノアの意思も、親方の意思も聞かずに決まった。全く大人というのは勝手なものである。

 とはいえ、許可を得なければいけないし……時間が惜しいが、一度ファウラーに戻るしかないな。


「じゃあ、まあ俺はファウラーにノア君を連れていくけど、どうしようか? 3人で戻っても仕方ない気がするし、オークション情報も手に入れなきゃいけないんだよな。ロアはオークションの話何か知らないか?」


「……オークションなら毎週土曜日に行われてるにゃ、金持ちが集まるからロアたち泥棒さんの格好のターゲットになるにゃ、そういえば、ネコ化の宝石もオークション帰りの人から盗んできたやつだったにゃ」

 そういえばロアは泥棒なんだった、悪いやつだなあ。親方には、ノアのお姉ちゃんが泥棒で生活しているということは伏せておこう、親方はかなり正義心が強いからなあ。というか、俺も泥棒業してる奴と一緒なんて本当はごめんなんだけどな。

 おなじブルボンの呪いを受けた仲間だし、弟のハルの死の件もあるしそこらへんは目をつむろうか。


「ひょっとしたら、またロアちゃんが盗んだのと同じ人が、またその石をオークションで手に入れるかもしれませんね」

 とルミィが俺が考えてなかったことを言った。確かに、それはあり得る話だ。


「もしそうにゃら、そいつの家はわかってるにゃ、もしオークションで手に入れられなくても、忍び込んで盗み出すことくらいわけにゃいんだにゃ」

 得意満面の表情でロアは言う、まるで罪悪感などないようである。弟の前でまったく教育に悪いなあ、この場合悪いのは貧乏なんだろうな。

 ちょっとずつ、ロアを教育して正しい価値観を身につけさせる必要があるのかもしれない。余計なお世話けどしれないけどな。


「まあそれは最後の手段として、あくまでまっとうな手段で手に入れようぜ。ちょうどファウラーに戻ることだし、例の作戦を実行しよう」

 土曜がオークションならば、まだ五日も先の話だ。漆黒の洞窟に行く時間も十分あるだろう。


「ひょっとして例の作戦って、くらくら茸大量GET作戦ですか」

 ルミィが人差し指を出しながら首を傾げた。

 そうだ、漆黒の洞窟にあるくらくら茸を大量GETして売りさばけば、かなりの金額を集められるはず、くわえて今回はこちらに仲間も増えてスキルも増えている。うまくいけばキノコ成金になれるかもしれない。


 まあ、盗みは良くないといいながら、幻覚剤の元になるキノコを集めて成金になるのはいいのかといわれると、何とも言えないんだがな。

 ということで俺ら3人はノアを連れてファウラーに戻ることにした。

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