第25話「嘘」
「やあやあおめでとう、無事、
白い空間の中、いつもの調子でブルボンが出てきた。
『この野郎てめえ』と、思わず先ほどの件に関して文句を言おうと怒鳴りつけるつもりだったが、隣にロアンヌの姿があったことに気が付いて直前でそれをやめた。
下手なことを言うと、ロアの弟が死んだことがばれる。
ロアの弟が自殺したのは、ブルボンが何かをロアの弟に吹き込んだからにちがいない。そういう意味でロアの弟を殺したのは、ブルボンであるといっても過言じゃない、しかしその真実を明らかにしたところで、ロアが落ち込むだけだ、いや怒りが湧くに違いない。
一緒に旅すらしてくれないだろう、仲間は一人でも多い方がいいのだ。ロアのネコ化の能力は正直俺たちにとってかなり貴重な力だ。
不本意ではあるが、ロアの弟の死は伏せて、女神に従う方が賢明だろう。俺は言いたいことをすべて飲み込みながら、だまってブルボンをにらみつけた。
ブルボンはそんな俺の言いたいことをすべて分かっているかのように、目をつむり不敵な笑みを見せる。くそ、べつに俺はお前に賛同してるわけではない、状況を考えて最善を考えただけだ。お前のような冷血女とは違う。
ただ、ブルボンの考えがわからないわけではない、こいつは徹底的な合理主義者なのだ、そのためには、ロアの弟を追い詰めて死んでもらう必要がある。理屈は分かるがしかし……、どうしようもない怒りと不条理な気持ち悪さがブルボンに対して湧くことは抑えられなかった。
「ロアンヌは、老化の敵が死ぬところを見たか?」
俺は話の矛先をロアンヌに変えた。姿はすっかり美脚の若い女子に戻っていた。よかった、あの国宝級の美脚が失われたら大変な人類の損失であった。
「うんにゃ……見てないにゃ。ロアもあの後すぐエコロケーションで状況を把握したにゃ、そしたらバケモノがいた場所にもう一つ影があったことに気が付いたにゃ。急いでそこに向かうと、それがルミィちゃんだったにゃ。そして気が付いたら悲鳴が聞こえて、そして今に至るにゃ」
そうかよかった、ロアの声が聞こえたから近くにいると思ってたのだが、どうやら自分の弟の死は直接見なかったらしいな。
ならばなんとかこのまま知らせずに済ませておきたい。
「私は老化させられたことまでは覚えているのですが、気づいたら今この白い空間にいました。死んだのではないのですね」
ルミィも同様に若さを取り戻したようだ、といっても俺は直接老ルミィを見ていないので、何が起こったのかはわからない。
「この空間で一日待機の刑を食らってない以上、ルミィも死んでないんだろうと思う。それにしても恐ろしい能力だった……」
「でもこれからは、これが使えるんですよね。すごく力強いです」
ルミィはぎゅっとこぶしを握りしめながらそういった。
確かにルミィの言う通り、ぐっと戦いが楽になる。相手とレベル差があってもタッチさえしてしまえば、無力化させることができる。冒険の序盤にして最強のスキルじゃないか。
「さて、そんなわけで、そろそろ現実に戻る時間だよ。次の目的地もまだこのオギルビーのどこかのようだ。スキルゼーレを宿した宝石をどこかの金持ちが持ってるぽいね。噂ではオークションか何かに出されるようだ。お金がないのは知ってるけど何とかそれを手に入れてほしい。それじゃあまたね、ばっははい!」
またしても俺たちに質問の余地を許さず、ブルボンは消えていった。
あたりの景色が変わっていく、しかし現れた景色は予想とは違うものだった。てっきり公園の中だと思ったが、俺たちが今いるのは屋内であった。
「あら、私の部屋のようですね」
ルミィの言う通りこの狭い部屋には見覚えがある、ルミィの部屋に違いない。
どうやら復活場所はある程度ブルボンが調整可能なんだろうな……あの場に戻っていたらロアンヌが弟の死体を目の当たりにすることになる。そうなった場合のロアンヌに与える影響をブルボンは考慮したんだろう。計算高い女だ……。
「とにかく、元に戻れてよかったにゃ。おばあちゃんで猫とか最悪だったにゃ」
「そうですね、私はほとんど何が起きてたか分かってなかったですけど、恋もしないままおばあちゃんになるなんてぞっとします……。とりあえずお茶入れてきますね」
そういってルミィはキッチンの方に向かった。俺たちはイスに座りそれをまつ、ロアンヌと2人で向かい合う形になってしまい少し気まずい。
「アルフはシャワーを浴びたほうがいいにゃ。よく見たら血まみれにゃよ」
と言われて自分の体を見ると、確かに赤黒いしみがまとわりついていた、これを見ると少年が自らの首にナイフを刺したシーンを嫌でも思い出す。
トラウマになりそうだ。
「そ、そうだな。ルミィに借りるとしようか……。」
「そうしたほうがいいにゃ、ところで結局ロアは弟たちには会えなかったにゃ、どこ行ったんかにゃあ、とっても心配にゃ」
ドキッとさせられる、ロアの弟は俺の目の前で死んだとはとても言えない。
「……おれの見立てでは、あの老化させる少年は、オギルビーの家出少年とかを老化させていたようだ。最近増えていた老人の浮浪者たちの正体は、その老化させられた少年達だったんだよ。だから、きっとロアの弟たちも巻き込まれて老人になったんじゃないかとおもうぞ」
「……そうだったのか、あの老人たちの中に弟がいたんにゃね。ぜんぜんわからにゃかった、いくらおじいちゃんになっていたとはいえ、弟に気づかにゃいなんて、お姉ちゃん失格にゃ……」
「まあ、まさか老人が弟だなんて普通思わないし……ってそういえば俺も気づかずロアにオイルぶっかけたままだった!ロアこそシャワー浴びないと!」」
全く気付かずさっきからなんか臭いのは俺の血の匂いかと思ってたが、目の前のロアから放たれる油のにおいであった。
「にゃあっ、なんてことしてくれたにゃ!お気に入りの服だったのにー、ルミィさんさっそくだけどシャワー借りるにゃー」
そうして、慌ててロアはこの家の片隅にあるシャワールームの方にかけていったのだった。
よかった、弟の話からは気をそらすことができたようだ。
【アルフォートたちは
――魔王復活まで347日】
「あれ、この老化の能力って……」
消費MPが55だと?
――だ、誰も使えねえじゃん……。
老化のスキルはどうやら無用の長物になるようであった。
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