第4話

 僕達の集めた証拠は、ギルド総会からギルド通信社を介して全世界に広まった。


 それが決め手で、フィアンマ・ゴールドは逮捕された。会長ブライトが蒸発し、会長代理フィアンマが逮捕され、息子のグロウも死亡となれば、ゴールドユニオンの失墜は免れない。再起するにしても、かなりの歳月が必要となるだろう。


 そして、僕達への処分も変わった。停止期間が1年から2週間に短縮してもらえたのだ。恩赦ではなく2週間ってことになったのは、やはり暴力沙汰を起こしたのは事実だから、そのケジメはつけろってことなのだろう。まあ、不当な厳罰だったと認められただけでも十分だ。来週になれば、僕達はまた普段通りの活動が出来る。


 クロスファミリーの拠点の前に、僕達はいた。実はこの事件のあと、3つの変化がクロスファミリーに起きたのだ。その1つが、僕の隣にいる男、ジェスター。


「まさか、クロスファミリーに入っちゃうとはね」


「ええ。私、こう見えて魔物ハンターに憧れてまして、魔法の素養もそれなりにあるんです。そんな私が篝火報道に入社したのは、ハンターなんて危ない仕事をするなって身内からの反対が大きかったからに過ぎません」


「でも君は、数日前まで危ない目に遭っていたじゃないか」


「ええ。ですから、篝火報道にいようが魔物ハンターギルドにいようが、全く同じじゃないかと思うようになりました。ならば、私は私が本当にやりたい方を選ぶまでです。今後は、よろしくお願いします」


「ああ、ようこそ、クロスファミリーへ」


 2つ目は、なんか嬉しそうな様子でやって来た兄弟。


「なあ、兄弟。これ、似合ってるか?」


 兄弟は嬉々とした様子で、自分の服の胸にある名札を指さす。そこには、「フラッシュ・ゴールド・」という名前が。


「ああ、似合ってるよ」


 全く。自分の名前が書かれた刺繍を見て喜ぶなんて、幼児と同じだよな。でも、彼の心情を考えれば、当然か。


 兄弟は、僕達クロス家の養子になった。つまり、名実共に正真正銘の兄弟になったんだ。


 当然ながら、これを阻止する勢力はいただろう。でも、グロウは死亡したし、フィアンマは逮捕された。しかも、押収された資料の中には、過去に彼女がイリアとフラッシュを魔物が巣食う山へ送り込んだ証拠まで入っていた。これは、フィアンマがイリアとフラッシュを拒み、世間に「私はフラッシュが自分の子供だと認めません」という主張を証明するのに十分すぎるものだ。てか、これを見た世間は、兄弟をフィアンマの子供とさせることを認めるか、普通?


 てなわけで、兄弟が養子になるのには当然の流れとなった。


「やったぜ。なあ、兄弟。俺達は本当に兄弟になったんだよな。誰が何を言っても兄弟なんだよな? なあ、俺達は、ずっと兄弟なんだよな?」


「ああ、そうだよ兄弟。分かったから、分かったからそんなに懐かなくていいから! これからも兄弟なのに変わりはないから!」


 ま、こんなに無邪気な兄弟を見たのは久々だ。


 そして、3つ目。


「よし、出来たぞ。お前ら、見ろ」


 声の主はギルド長。僕の父だ。作業を終えて脚立から降り、正門の上に新しく作られた『それ』を僕達に見せる。


 歓声が漏れた。そこにあったのは、クロスファミリーの新たな紋章だった。


 もともと、クロスファミリーの紋章は、一本の黒い十字架だった。今回、そこに金色の十字架が追加された。黒い十字架と金色の十字架が、互いに『×』の字に交差されていたのだ。それはまるで、僕『シャドウ・クロス』と兄弟『フラッシュ・ゴールド・クロス』の二人を暗示しているかのようだった。


「最高だぜ。なんだか、俺達の新しい時代が始まるような予感がするぜ」


「うん。僕もそう思う。最高のデザインだよ。ありがとう、父さん」


「おう。お前ら、今後も仲良くやれよ」


 父からの簡潔な激励に、僕達は「おう」と元気に答える。


 今後、道行く人からクロスファミリーの新しい紋章について聞かれたら、僕はこう答えるつもりだ。


 あの交差された二本の十字架は、僕達、光と影の兄弟を示しているんだって。そしてその輝きは、二度と消えることはないんだってね。

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光と影の兄弟 バチカ @shengrung

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