六道線路サバイバル
@MethoD_ef
駅舎
――×――×――
「…………あった、かぁ……い?」
瞼から差し込む日差しが鬱陶しくて目が覚めた――気がする。
「……どこ、ここ」
古い木造の……駅舎?
昔の映画で見たことがあるような景色だ。
正立方体にも見える建物。
天井は高く茶色の
部屋の中心には年季の入った灯油ストーブが煌々と稼働している。
そして隣で。
「……うーん……ん? あれ、
「おはよう
私と同じタイミングでこの世に生を受けた妹・愁花が目を覚ました。
寝ぼけ眼をこすりながら辺りを見回していることから。
状況の不認識具合は私と大体同じことがわかった。
「ちょっと。どこなのここ」
「わかんない。私だってあんたよりちょっと先に起きただけよ」
「……夢、かな」
「だろうね。感覚はやけにはっきりしてるけど」
ストーブから贈られてくるソレよりも。
隣の愁花から伝わる体温が温かくて。
焦る気持ちすら巻き起こらない。
このまま二度寝してしまえば。
そして次に目覚めたときはいつもの日常が戻ってくると思った。
「はい。お二人とも起きましたね。おはようございます」
「ちょっ」
「寒い寒いさっさと閉めて!」
微睡みに体を預けようとした時。
薄っぺらいドアが開き。
冷風と共に車掌の格好をした男がニコニコしながら入ってきた。
「おや、これは失礼」
音を立てないよう上品に戸を閉め。
頭を深く下げ。
再び持ち上げ。
貼り付けた笑顔のまま車掌は言う。
「
「…………はぁ」
「だって。どうする?」
気の抜けた声しか出ない私に。
大して焦ってもいない愁花が問う。
「どうするもこうするも……なくない? 死んじゃってんだから」
検討はついていた。
そもそもこんな状況――夢か死んでしまったかのどちらかでしか味わえまい。
「それがあるのです! どうするもこうするもお二人次第!」
「と、いうと?」
「蘇るチャンスをあげましょう。うら若き少女へのささやかなプレゼントです」
「私達がはげたおっさんの双子だったらどうしてたの?」
「当然一も二もなく無間地獄へぶち込んでおります」
「うひゃー。うちらは美少女双子JKでよかったね」
大げさに語る車掌と対照的な愁花。
私とそっくりの顔で。
ポーカーフェイス保ちながらつまらないボケをしないでほしい。
「えぇえぇ。死後の世界は現世とは比べものにならない程理不尽ですから」
「で、どうするの美郷、チャンスくれるって」
「うーん……どうしようか……」
そもそも私達がなんで死んだのか思い出せない。
もし現世とやらが嫌になって死んだのであれば。
生き返ったところでしょうがない。
「ねぇ車掌さん、生き返らなかったら私達どうなるの?」
「無間地獄へと出向いていただきまして、一定の期間をお過ごしいただいた後、その魂のみを引き継ぎ次の生物へ転成いたします」
「なるほどねぇ、じゃあ使うわ、チャンス」
流石にこのままずっと。
ここで愁花と二人なんてのは都合が良すぎたか。
転成っていうのがピンとこないけど。
次の生物とやらになったとき隣に愁花がいる事はまずないだろう。
現世も地獄もどうでもいいけど愁花がいないなら私の存在に意味がない。
だったら。
そのチャンスとやら逃すわけにはいかない。
「それはよかった。やっていただくことは簡単です。
これからこの駅にやってくる電車に乗っていただきまして、
『現世行き』という駅に降り、
『現世行き』の電車に乗り継いでいただけばいいだけなのです」
「「ふーん」」
意外と簡単な条件だった。
というより。
ここまで簡単だと裏が見え透いている。
ただその内容までは読めないし。
とりあえず電車に乗るしかないようだ。
「いい? 愁花」
「だって美郷は受けるんでしょ? なら一緒がいいもん」
意見はまとまった。
車掌は嬉しそうに笑い。
再び戸に手を掛けた。
「では私はここで失礼いたします。
くれぐれも乗り過ごし、乗り遅れにはご注意を」
冷風が差し込み私達は反射的に抱き合った。
愁花の優しい香りがする。
きっと大丈夫。
私達二人で出来ないことなんて。
今まで一度もなかった。
――×次回予告×――
私達はなにも知らなかった。
『ダメ愁花! そっちに行ったら――』
『ごめん美郷……私……
私達が乗り込んだ電車は。
現世に繋がっている――地獄そのものだった事を。
『なんで……誰がこんなことを……』
『気持ち悪くてもう……限界……』
飲み会終わりで口元を常に抑えている酔っ払い大学生や。
小や大の便意に苦しむサラリーマンが
私達は『現世行き駅』までの間に。
いくつもある『トイレ駅』で降りるか否かの選択を常に強いられた。
巻き起こるハプニング。
引き起こされるパンデミック。
序章にして最終章。
かと思われるような――修羅の連続。
――×次回・修羅道線1×――
六道線路サバイバル @MethoD_ef
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