【短編】深夜

灰咲勇兎

深夜

深夜。


一人の少年が煙草を吸いに外に出る。


たった一つの反抗、犯行。

少年は1%の自己満足と、99%の恥を得る。


世界は深夜になると姿を変える。

鼓動も、息遣いも、誰かの瞬きさえも消え去り、少年は深呼吸ができる。


自動販売機の灯りは直線的な眩しさで煙と同化する。

少年はしばらく迷い、結局コーラを選ぶ。

コーヒーは苦過ぎて、飲めない。……少年はまた恥を得る。


少年は、一体恥を幾つ重ねたら人は大人になるのかを考える。


煙草を吸うのは今の世の中では恥らしいじゃあないか。

深夜に出歩くことだって、ならず者のすることなのだろう。

コーラを飲むと馬鹿になる……などと言われていたこともあったようだ。


大人になれなかった大人たち。

子どもでいられなかった子どもたち。

子どもでいたかった大人たち。

大人になった気でいる子どもたち。


結局誰しもがヒトであり、生物であり、ただのタンパク質に過ぎない。

諦念を持った一塊のタンパク質である少年は吸殻を入れた缶を遠くへ蹴飛ばす。


少年は自嘲する。


帰る場所がある自分、明日を考える自分、人を見下す自分、コーラを美味しいと思う自分、本当は煙草の美味しさが分かっていない自分。


少年はもう恥を得すぎていた。

それでいいと考えるという恥すらをも持ち合わせていた。


夜が明ける。

また朝が来る。

少年はまた、おはようを言うという恥を得る。

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【短編】深夜 灰咲勇兎 @haisaki_isato

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