食糧「ニンゲン」

@Aoooblue

第1話 成田 凌

 蒸されるような炎天下の中、成田はパソコンの画面に齧り付いていた。部屋には冷房がついておらず、壊れかけた扇風機がカタカタと音を立てて回っているだけだった。吹き出る汗を拭うことすら忘れて成田が調べているのは、行方不明の婚約者、佐藤由美に関する情報だった。二年前に突如として消えた婚約者を探し続けているが、一向に手がかりが見つからない。成田は、もう由美は死んでいるのでは…?という思いを必死になって抑え込もうとしていた。


「暑い……二年前から探偵の依頼も全てキャンセルしているからな……金も底をついてきた、冷房なんて入れる余裕は俺には無い」


 婚約者を失った成田は、徐々に塞ぎ込むようになり、気力を失っていた。


「もう、俺も由美のもとへ……」


 そう思っていた成田の手元で、けたたましく携帯が鳴った。

 大学時代の後輩、森本大志からだった。成田は塞ぎ込んでいる今でも、森本とだけは連絡を取り、身の回りのことを手伝って貰っていた。


「どうした森本、暑くて気が立ってるんだ……手短に頼む」

「どうした……って先輩!今日は佐藤先輩の誕生日じゃないですか!そんなジメジメした所にいないで、気分転換に居酒屋でもいってお祝いしましょうよ」


 そうか、今日は由美の誕生日だったか。誕生日忘れてたなんて言ったら、由美、怒るだろうな……


「……分かった、今日は由美の分まで飲むよ」

「了解です!20時に駅前の居酒屋集合ってことで!それでは失礼します!」


 ……もう切りやがった。あいつは昔っからせっかちで、暑苦しい。


「約束の時間まで、まだまだ時間がある。少し仮眠とるか……」


 そう言って成田は横になり、瞼をゆっくり、閉じた。

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