※舞台裏※
『『『ありがとうございました』』』
『『『またいらしてくださいねー』』』
数限りなくコピーされた美女たちが相手の自分を屈服させない限り出る事はできないという記憶を植え付けられ、本物が自分であることを証明するために懸命に戦い、そしてその光景を見ながら各地の富豪たちが醜い快楽の心を満たし続ける――『アンダーグラウンド』と言う言葉が嫌と言うほど当てはまる悪意に満ち溢れた空間から、本日最後の客が去っていった。彼らはこのハイテク都市を監視するコンピュータの目を盗んで外の世界へ飛び出し、何食わぬ顔で気の良いお金持ちの表情を見せながら暮らし続けるのだ。
そんな彼らを、巨乳のバニーガールたちは温和な笑顔のまま見送り続けた。地下数百メートルにあるこの施設に集まる富豪たちの無茶な命令にも、胸や尻への愛撫にも、彼女たちは一切抵抗せず反論もしないまま、淡々と自分たちの業務をこなし続けていた。そして、最後の客がこの地下施設を去り、自分たちだけが残されるという状態になった瞬間――。
『……あー、終わった終わったー」
「いやー、ったく碌でもねえ客だったなー」
「本当だぜ、全く……」
――彼女たちは一斉に表情を変え、溜めに溜めていたであろう罵声を漏らし始めた。今日は5度も胸を触られた、機密事項なのに年齢も聞かれた、ニンニクを食ったような口でキスまでされた――それぞれが受けた被害を言い合っては、大金で身も心もたっぷり汚された彼らの醜さや愚かさ、虚しさを、彼女たちはたっぷりと語り合った。そして、その苛立ちを示すかの如く、彼女たちの口調もまたお淑やかさや美しさとは真逆の、乱暴でぶっきらぼうなものへと変貌したのである。
何十、何百ものバニーたちが四方に散らばり、思う存分愚痴を述べ合い続けているうち、次第に彼女たちの口調が変わり始めた。それぞれが別個に言い始めた文章の数々が、まるで全員で同じ何かを紡ぎあうかのように繋がり始めたのだ。1人が何かを言えば、それに呼応するかのように別のバニーがその続きのような言葉を述べはじめ、更にそことは反対側にいる新たなバニーまでその文章にぴったりな言葉を口に出す――まるで全員が揃って独り言を述べるような異様な空間が、地下施設の中で生まれ始めたのだ。
そして――。
「……っといけねえ」
「「あ、そうかそうか……忘れてたぜ……♪」」
「「「まあこの姿も悪くないけどなー」」」
「「「「おうよ……でも、な♪」」」」
――そう言いつつ、楽しそうに周りにいる同僚たちの体を触り合ったのち、彼女たちは一斉に起立の体勢を取った。この場所に来訪した富豪たちを見送った時よりも明らかに綺麗な姿勢であった。その直後、突然バニーたちの姿が一斉ぶれ始めた。様々な髪の色や肌の色、そして胸の大きさを持っていたはずの彼女たちが、まるでモザイクに包まれたような奇妙な外見に変貌したのだ。そして数秒後、周りの空間が元に戻った時、バニーガールたちの姿は――。
「「「「「……ふう♪」」」」」
――頭のてっぺんからハイヒールの先、大きい胸から大胆に見せつける生足まであらゆる部分が同一の美女へと変わっていた。勿論、口から発する声も思考判断も、彼女たちは全てにおいて一切の違いはなかった。そして、全く同じ笑顔で別の自分自身を見つめる彼女たちは、やっぱりこっちの方が可愛いし綺麗だ、と互いに褒め称えあった。あちこちから得た情報を基に苦労して作ったあの多種多様な姿よりも、最初に自分が創り出したこの姿こそ一番だ、と顔を赤らめながら。
そして、富豪たちに代わって同一の姿形をしたバニーガールたちが煌びやかな地下施設の中で盛り上がり始めた、その時だった。
『『『『『『おーい、終わったかー?』』』』』』』
全ての戦いが終わって以降暗い画面がずっと表示されていたモニターが、ぶっきらぼうな声と共に一斉に点灯した。そこから聞こえる何十もの声にバニーガールたちが一斉に返答した直後、全てのモニターの中に2人1組の美女――生まれたままの姿のまま大きな胸を揺らし、満面の笑みで見つめる『コピー』たちが映し出された。その姿は、全員とも生足のバニーガールと全く同じものであった。いや、姿形だけではない。
「「「「「「「いやー、今日もお疲れー」」」」」」」」
「「「「「「「流石あたし、慣れたもんだよ」」」」」」」」
『『『『『『いやいや、褒める必要ないと思うぜ……』』』なぁ?』』』
「「「「「「「「まぁ分かってるぜ、だって……」」」」」」」」」」
この場にいる全員とも、同じ存在なのだから。
そう言いながら、美女たちは一斉に全く同じように微笑み合い、モニターに映る自分たちの名演にすっかり騙され続けていた愚かな人間たちを嘲り笑った。
確かにこの場にいる美女は、揃って全く同じ素体から数限りなく生み出され、統一した意志を持つようプログラミングされた『コピー』に近い存在であった。しかし、富豪たちに説明されていた内容に反し、彼女たちは全員それを承知していた上で受け入れていた。そもそも同じ意志の下で動き続けている彼女たち――いや、『彼女』には本物や偽者の区別など、全く必要なかったのだ。
そして、彼女は自身の端末とも言えるこの美しい体を存分に使い、地下に建造したコロシアムの中で思う存分本物の自分を賭けて戦い続けた――正確に言えば本物を賭けた戦いごっこを演じた。画面の外から見ている醜い人間たちが好みそうな言い争いを演じたり、胸を揉み合って視聴者たちを興奮させたり、涙まで流して自分が本物だと必死に訴える事で客をたっぷり満足させたり、ありとあらゆる手を使って『試合』を盛り上げたのである。そして同時に、自分たちの利益になるような行為も彼女はばっちりと行っていた。同時に繰り広げられていた数十もの試合の結果は、全て富豪たちが賭けていた金額の量で決めていたのだ。
『あいつ、有り金全部あたし側にかけてたよなー』
『人間ってのは分かんねー、どっちも偽者だって分かってんのに夢中になる……』
「「「ま、儲かったんだからいいんじゃねーの?」」」
『『『『試合も盛り上がったみたいだし♪』』』』
『『それもそっかー♪』』
掛け金が多い方を最終的に負けさせてその分をたっぷりと儲ける、イマイチ盛り上がらない試合は引き分けにして最低限の報酬を得る――涙や汗に包まれ、服を脱がされてもなお戦い続ける『彼女』の熱演のお陰か、その八百長に気づく人間は誰一人として現れなかった。少しぐらい試合経過を疑えば良いのに、と呆れるほど、富豪たちは背徳感からくる快楽に溺れ切っていたのだ。
「「「相変わらず『人間』も可哀想だよなー」」」
『『『なんだよあたし、同情するのか?』』』
「「「ちげーよ、これからもずっとあたしのカモになり続けるんだなって♪」」」
『『『あはは、そうだよな♪ま、所詮あいつらは有機物の塊だしさ……』』』
こうやってたっぷりと遊んであげる事が、あの連中にとっては最高の幸せだ――そんな冗談を言いあいつつ、『彼女』はモニターの外に映る『彼女』に対し、そろそろこちらへ戻ってきて欲しい、と告げた。今日もたっぷりと金を稼ぐことが出来た、今度は自分がそれで思いっきり遊ぶ番だ、と。
『『『『そうだな……了解♪』』』』
その返答の直後、モニターの中に映る地下空間から一斉に全裸の彼女の姿が消えた。
それと同時に、これらの空間から遠く離れた場所にある、赤いカーペットが敷き詰められた空間に、同数の彼女が新たに姿を現した。その格好は先程までの素っ裸ではなく、地下コロシアムで最初に着用していたあのコスプレ衣装に様変わりしていた。なかなかいける、これならたっぷり夜の街で遊べるに違いない、など周りの自分たちと思う存分自画自賛をし合いつつ、バニー姿の彼女の一部もまた同じ衣装に着替えていた。勿論人間のようにわざわざ服を脱ぐ行為は必要なく、体を組成する服の組成そのもの変更する事により、一瞬で様々な姿になれるのだ。
「「「「「さぁて、そろそろ行くかー♪」」」」」
「「「「「「「「ま、『行く』っつっても……な♪」」」」」」」」」」
「「「「「ま、そこは気分だし♪」」」」」
「「「「「「「「そういう事にするか♪」」」」」」」」」」」
そして、寸分違わぬ姿と心を有した女性たちの大群は、足並み揃えてこの地下施設を後にした。勿論、向かう先はここから数百メートル上に広がる、LEDライトで眩く彩られた歓楽街である。
たっぷり荒稼ぎした金で、どれほど楽しめるのだろうか。
『監視』と言う網の中でも、やっぱり懲りずに人間たちは快楽に溺れ続けているのだろうか。
自分自身が日々維持管理し続けるこの街で、今日はどれくらい『人間』で遊びまくれるのだろうか。
「あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」…
女性型の端末を煌びやかな街のあちこちにばら撒きながら、ハイテク都市を司るハイパーコンピュータは今宵もたっぷり快楽に浸る事にした……。
<終>
ホンモノコロシアム 腹筋崩壊参謀 @CheeseCurriedRice
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