4 思い出

 小さな星の林の中。小さな丸太を組み合わせてできた素朴そぼくな小屋の中で、少年はゆっくりと目を覚ました。

 ずっと……長い間眠り続けていたことだけは、なんとなく覚えている。

 お腹が空いていた。

 だから、家の中にあった干した果物を適当に頬張った。当てずっぽうで、お茶もいれて飲んでみた。美味しかった。

 もう一眠りだけしてから、少年は外に出てまばらな林を探索した。真っすぐ歩いたらあっという間に星を一周してしまったから、今度はぐねぐねとあっちこっちを探検した。

 ここはどこだろう。

 木々は美しく、柔らかい光を放つ緑の葉っぱが空を覆って揺れている。

 白い花が咲いている。大きな石が転がっている。

 幼く小さな、星の朝。

 柔らかな地面の上で、夢中で新しいものを探すウルタの耳に、ふと、土を踏みしめるかすかな足音が届いた。

 手を止めて、顔を上げる。

 舞い散る緑の葉に囲まれて、白い服を着たキレイな女の子がポツンと佇んでいた。

 緑色の目をした、見たことのない女の子だった。

「……君は、誰?」

「私は……ルーナよ」澄んだ声が彼に答えた。「あなたは?」

「僕は、ウルタ」

「ウルタ……」

 二人は見つめ合う。

「私、どこかであなたに会ったこと、あるかな……?」

 暖かな日差しが、木漏れ日として彼女の顔を照らしだす。

「僕は……君を知らないよ」正直にそう答えた。

「そう……」ルーナはほんの少し寂しそうに笑って、目を伏せる。「それじゃあ、私の気のせいなのかしら?」

「わからないけど……」ウルタは肩をすくめる。「でも、これから友だちになることは、できるでしょ?」

「ええ! もちろん!」ルーナは顔を上げて、ニッコリと微笑んだ。「ねえ、ウルタはどこに住んでるの?」

「向こうに家があるんだ。一緒にお茶でも飲もうか」

「素敵!」

 二人並んで、林の中を歩いて行く。

 空を見上げる。

 目を閉じる。

 僕はルーナを、本当に知らない。

 でも、もしかしたら……。

 ルーナは僕のこと、本当に知ってるのかもしれないなって、なんとなく、そう思った。



 こうやって僕らは、かわりばんこに、同じことをする。


 片方が片方を埋めて、命を育てて……。


 僕らは、お互いから生まれた双子の命。


 僕らは、お互いを思い出せない。僕が君を埋めたこと、君が僕を埋めたこと、どうしても、忘れてしまう。


 思い出せるのは、交代するあのひとときだけ。


 星が一番大きくなったあの一瞬に、死んだ君を埋めるためだけに、僕はすべてを思い出す。


 動かない君になら、僕はありがとうと伝えられる。


 でも、君を埋めてしまったら、僕は全て忘れてしまうんだ。


 暖かな思い出も、伝えたかった気持ちも、全部全部……。


 そういう、ことわり


 だけど……。


 それでも僕は、君を知っている。覚えている。


 だって、君に語ったたくさんの思い出の中を生んだあの星は、いつか僕が埋めたルーナの体が、たどり着いた場所なんだよ?


 星屑となって散っていった小さな一粒が、僕らの祈りが、何万光年の旅路たびじの末にあの美しい星で、命を実らせたんだ。


 だから、何度も生まれる僕はみんな、君を知っている。


 僕らウルタが運ぶ思い出の中には、いつだって、ルーナがいる。


 かすかでも。


 確かに。


 どこか遠くの青い星に埋まった君から、僕は生まれてきたんだから。


 君も、きっと……。

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この星にはずっと前から君が埋まっている 小村ユキチ @sitaukehokuro

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