恋人は、自分にとって、着ても着なくてもいい上着のようなものなのか?
そんなマダオ(まるでダメなおっさん)・海斗が拾ったのは、子犬ーーではなく大学生。
彼は、付き合っていた男性が女性と結婚するだけでなく、そのまま交際を続けさせてほしいと言われました。おいコラ。
マダオはとりあえず彼を家に置き、一緒にご飯を食べる生活を送ります。
その人じゃないとダメだと思う気持ち。
交差し、ぶつかり合い、諦め、受け入れていく。
それは時に線引きを間違えてしまいそうなほど曖昧なもの。
それでもしっかり前向きに生きようとする青年と、
愛だなんだとわからないマダオの、雨上がりのような物語です。
それぞれの事情を抱えながら、それぞれに傷を負った二人が出会った、雨の夜。濡れた「子犬」を思わず拾ってしまった男に訪れる心の転機。
自分で気づかない、あるいは気づいても気づかないふりをしてしまう人間の微妙で繊細な心の動きを掬いとる描写。二週間というほんの短い間に、気づかぬふりをしているうちに、いつしか心を解かれほどかれ、かけがえのない存在になっている。食事やアルバムといった小道具をうまく活かして、その感覚が読んでいる者にも沁みるように伝わってきます。
前向きな風の吹く終わり方に思わず口元がほころびます。あたたかい余韻を残す、短いながらも素敵な物語です。