第14話 鑑定士としての誇り
二人がダンジョン調査を終えてラニーニャの街に帰還した、翌日。
鑑定士としての勤めに戻ったジャドの元に、カームが訪れていた。
カームは懐から取り出した革袋をジャドの前に置いて、深々と頭を下げた。
「調査協力、ありがとうございました。貴方のお陰で実入りのある調査になりました」
「役に立てたのなら良かったですよ」
ジャドは革袋を受け取って、口を開いた。
中からは、金貨が10枚出てきた。
予想よりも多かった仕事料の金額に、ジャドは目を丸くした。
「……これは」
「今回の発見は世紀の発見と言っても過言ではないものでしたしね。そのことを踏まえて、かなり色を付けさせてもらいました」
カーム曰く。今回ダンジョンの下層で発見した石像やゴーレムは、ウルシュカ文明を研究するための貴重な遺物となるとのことだった。
ゴーレムがまた何らかの拍子に動き出さないとも限らないので、遺物の安全性が証明されるまでダンジョンは王都が閉鎖することになってしまったが、そのことを差し引いてもかなりの収益が見込めるらしい。
ダンジョン探索を生業としている冒険者からは残念がられるだろうし、冒険者ギルドはその分の収入が減るだろうが、こればかりは仕方がない。
これからも調査の方を頑張ってほしいと密かに願うジャドだった。
「資金の出所は私の懐ではありませんから。安心して受け取って下さい」
「……ありがとうございます」
ジャドは素直に頭を下げた。
革袋を手元に置きながら、ふと、出張でダンジョンに潜っていた先輩のことを思い出す。
先輩も、こんな風に報酬を受け取っていたんだろうな。
今も、仕事でダンジョンに潜っているのかな──
「また近場のダンジョンを調査することになったら、お伺いさせて頂きます。その時は、また宜しくお願いします」
カームは席を立った。
右手を差し出してきたので、ジャドはそれを静かに握り返した。
今回は鑑定士としてはあまり役には立たなかったかもしれないが、調査の力になれたことが彼にとっては嬉しかった。
これが、出張の仕事。
冒険者ギルドにいる時は味わえない体験ができる仕事は、楽しい。
これからも、出張鑑定依頼は積極的に引き受けたい。ジャドは、そう思った。
「では、私はこれで」
カームは冒険者ギルドから出たところで立ち止まり、再度頭を下げて、ジャドの目の前から去っていった。
2人の話を聞いていたヘンゼルが、カウンターからのんびりとジャドの方を見て、笑った。
「ジャドちゃん、初めてのお外でのお勤めはどうだった?」
「……冒険者だった頃のことを思い出しました」
ジャドは革袋を見つめて、答えた。
「俺、鑑定士としては頼りなかったかもしれないけど……一緒にダンジョンに潜って、謎と向き合えて、楽しかったです」
「あらあら」
「先輩も、こんな風に、ダンジョンで鑑定士の仕事をしていたんですね」
「そうよ」
頷くヘンゼル。
「イオちゃんは、どんな時でも鑑定士の仕事に誇りを持っていたわ。ジャドちゃんも、今回の経験で少しは同じ気持ちが味わえたかしら?」
「はい」
ジャドの返事に彼はにこりとして、
「その気持ちを忘れないようにしなさいね。貴方は、この冒険者ギルド自慢の鑑定士なんだから」
この冒険者ギルドには、自分しか鑑定士がいない。
自分がこの冒険者ギルドの顔だと思って頑張れ、と先輩に言われたことを思い出し、ジャドは気持ちを引き締めた。
先輩……俺、先輩にはまだまだ及ばないけれど、先輩みたいな鑑定士になれるように、頑張るよ。
握り拳を作って、彼は遠い空の下にいる先輩に向けて決意の言葉を述べるのだった。
鑑定士のおつとめ 高柳神羅 @blood5
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