第13話 VSウルシュカ・プロトゴーレム
ゴーレムに人と同じような意思はない。あるのはインプットされた命令と、その命令を遂行するために与えられた能力だけだ。
2人を襲うのも、ゴーレムが2人のことを敵対者だと認識しているからに他ならない。
相手が人間だとか、戦うための能力を持っているかとか、そういったことは一切関係ないのだ。
相手が自分に敵対する意思があるか否か。それだけなのである。
ジャドはゴーレムの足の関節を狙って剣を突き立てた。
彼の狙いは、とにかくゴーレムの注意を自分に惹き付けることだ。そのための手段は何でもいい。
ゴーレムがジャドを視界に捉える。
足を高く上げ、踏み潰そうとしてくる。
ジャドはそれをすれすれの位置で避けた。
あまり離れるとゴーレムの意識がカームの方に向くかもしれない。それだけは避けなければならなかった。
なるべく相手の足下に位置取って撹乱することで、自分の方が厄介な相手だと相手に思わせるのがジャドの狙いだった。
「ストーンバレット!」
無論、隙あらば頭の魔石を狙うことも忘れない。
ジャドが放った石礫はゴーレムの肩に当たって、弾けた。
ゴーレムの手が迫ってくる。
チャンスだ!
ジャドは手を跳んでかわし、上に飛び乗った。
そのまま先程と同じように腕を駆け上がり、肩の上に乗る。
「アイシクルランス!」
肩の上から、魔石を狙撃する。
氷の槍はゴーレムの頭に辺り、欠片となって散っていった。
頭の石に、小さく抉れた痕跡が。
今の一撃は外れたが、魔法は僅かながらも効果があるということが分かった。
ゴーレムが肩の上のジャドを捕まえようと手を伸ばす。
「ライティングレイ!」
そこに、カームが放った光線が突き刺さった。
光線はゴーレムの指に辺り、指先の石を僅かに削った。
ゴーレムの動きが一瞬止まる。
意識していなかった方向からの攻撃に、戸惑ったのだろう。
しかし、すぐに動きを再開する。
迫り来る腕をジャドは避けて、ゴーレムの頭の上に移動した。
そのまま足下の魔石に剣で渾身の一撃を叩き込む。
がつっ、と固い音を立てて、魔石に薄く罅が入る。
しかし、完全に砕くにはパワーが足りない。
「ウィンドスラッシュ!」
駄目押しで魔法を放つが、罅を僅かに大きくしただけだ。
ちっ、と舌打ちするジャド。
「シャドウファング!」
ゴーレムの足下でカームが叫ぶ。
カームの影が大きく膨張し、竜の顔を象る。それはゴーレムの足に喰らいつき、鋭い牙を突き立てた。
びしっ、とゴーレムの足に大きな罅が入る。
そのままびきびきと罅は稲妻のように足首を貫いていき、遂に、足首を砕いた。
ゴーレムの体勢が大きく崩れる。
ジャドは慌ててゴーレムの上から飛び降りた。
ずしゃっ、とゴーレムが転倒した。辺りに砂埃が舞い、壁から小石がぱらぱらと落ちてきた。
「この──」
ジャドは起き上がろうとしているゴーレムに駆け寄り、頭に飛び乗った。
そして。
「いい加減、くたばれ!」
魔石めがけて、剣を突き立てる。
ぱきん、と魔石は真っ二つに砕けて、頭のへこみから外れて床に落ちた。
頭に浮かんでいた文字の光が──消える。
ゴーレムは動きを止め、ばらばらと砕け散り元の石となって床に転がっていった。
「…………」
はぁ、と息をついて、ジャドはゴーレムだった石の上から下りた。
「大丈夫ですか?」
近付いてくるカームに、頷いて応える。
「はい、何とか」
「……こんなものが眠っていたなんて」
カームは石を見上げて、言った。
「動力源を抜いたからもう動くことはないでしょうが、何かの手違いで再び動き出さないとも限りません」
ジャドは床に落ちていた魔石の欠片を拾った。
それを掌の上に乗せて、魔法を唱えた。
「ウィンドスラッシュ」
ただの石の欠片となった魔石を細かく砕くのは容易かった。
魔石は7つの欠片に砕けて、床に落ち、砂粒の一部と化した。
「処理が終わるまで、此処のダンジョンは封鎖ですね」
「……はい」
カームの言葉を聞きながら、ジャドは天井を見上げた。
高いドーム状の天井は闇が蟠っており、それはまるで夜空のように、彼の目には映った。
「さあ、帰りましょう。此処で得た情報をまとめなければなりませんし」
「そうですね」
こうして、彼らのダンジョン調査は無事に終わりを告げたのであった。
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