第12話 王都防衛の番人

 白い石が、連なるように集まっていく。

 細かな石は関節のある指となり、壁際に集まっていた石は連結して太い足となり、巨大な石は縦に繋がり胴となり。

 ジャドが抱えていた丸い石がふわりと浮かび上がり、胴となった石の上にくっついて頭となる。

 幾分もせずに、それは人間のような形となった。

「これは……!」

「鑑定眼!」

 驚愕に目を見開くカームの隣で、冷静に鑑定魔法を放つジャド。

 鑑定魔法は効果を表し、その鑑定結果を彼の眼前に記した。


『【ウルシュカ・プロトゴーレム】

 ウルシュカ文明が生み出した石像歩兵。主に王都防衛用の番人として用いられていた古代兵器。』


「……どうやら、俺たちはとんでもないものを発掘してしまったらしいです」

 ジャドは腰の剣を抜きながら、言った。

「これは、ウルシュカ文明が作り出した王都防衛用の兵器です。防衛用ということは──」

 ジャドの言葉は途切れた。

 ゴーレムの頭にびっしりと刻まれている文字が点滅を繰り返し、ゴーレムが動き出したのだ。

 その巨体からは想像も付かないような速度で足を繰り出し、2人に向かって歩いてくる。

 明確に、2人のことを狙っている動きであった。

「……確かに、此処で悠長に眺めている場合ではなさそうですね」

 カームは1歩後退して、ゴーレムを見据えた。

「先程の六角形の石──あれを填めたから動き出したんですよね。それなら、あれを抜き取れば動きは止まるはず。何とかして石を抜き取りましょう」

「……それしかないでしょうね」

 ゴーレムが足を高く持ち上げる。

 踏み潰すつもりだ。

 2人はばらばらの方向に跳んで、避けた。

 ずしん、と足が床を強く踏み潰す。

 足下の揺れに踏ん張って転倒を堪えながら、ジャドはゴーレムの頭に填まっている魔石を探した。

 しかし、相手は身長五メートルを超える巨人だ。魔石は小さいので、彼の位置からでは何処にあるのかは分からなかった。

 どうにかして相手の身体をよじ登るか、膝をつかせるかしないと、話にならない!

「ウィンドスラッシュ!」

 ゴーレムの後方に回り込み、魔法を放つ。

 ジャドが放った風の刃は、ゴーレムの足首を切りつけた。

 しかし、相手は固い石。表面に薄く傷が付いただけで、ゴーレムの動きは鈍りもしない。

 ゴーレムの顔がジャドの方を向いた。何かされた、ということが分かるのだろう。

 手を伸ばして、ジャドを捕まえようとしてくる。

 あの巨大な手にどれほどの握力が備わっているのかは分からないが、大人しく捕まえられる気は彼にはなかった。

 ジャドは相手の手をぎりぎりまで引き付けて、腕の上に飛び乗った。

 そのまま、腕を一気に駆け上がっていく。

 このまま、一気に……!

 両手の剣を構えて、肩に乗り、頭に近付く。

 顔の中央、頭のてっぺん、順番に目を向けて、

 頭の後ろ──丁度中央の位置に、白くきらりと光る六角形の板を見つける。

 あった!

 何とか魔石を抜き取ろうと手を伸ばすが、魔石が填まった場所には指が引っ掛かるところがなく、抜くことができなかった。

 溝に剣先を突き立ててみるが、びくともしない。

 いっそのこと、魔石を叩き割るか──

 ジャドが剣を振り上げた、それと同時に足下でカームの声がした。

「ジャドさん! 後ろ!」

「!」

 ジャドが後方に振り向いた、そこにはゴーレムの巨大な手があった。

 捕まえられてなるものかとジャドはゴーレムの上から飛び降りる。

 間一髪、ゴーレムの手はジャドの頭上を横切っていった。

「カームさん、此処からゴーレムの頭の後ろを魔法で狙撃できませんか?」

 カームの元に駆け寄りながら、ジャドはゴーレムの頭を剣先で指し示した。

 カームは少し考えた後に、頷いた。

「……難しいですが、狙ってみます。ジャドさんは、何とか相手の注意を惹き付けて下さい」

「はい!」

 ジャドは剣を構えてゴーレムに向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る