第11話 ダンジョン最深部

 カームの予想は正しかった。

 遺跡の通路は途中でダンジョンの通路と繋がっており、2人は無事にダンジョンに戻ることができた。

 どうやらダンジョンの下層はちょくちょく遺跡と繋がっている場所があるらしく、ダンジョンの通路と遺跡の通路が混じり合っている場所がちらほらと見受けられた。

 ダンジョンが遺跡を侵蝕してしまっているとは由々しきことだ、とカームは言っていた。

 このままでは遺跡はダンジョンに飲み込まれてしまうということに他ならないからだ。

 まあ、それを今此処で杞憂したところで彼らが遺跡に対してできることはないというのも事実なのだが。

 道中襲いかかる魔物を撃退し、2人はやっと目的のものが眠っているダンジョンの最下層に到達した。

 最下層は、細い通路ではなく、巨大なドーム状の空間のようになっていた。

 魔法で空間を照らすと視界内に現れたのは、あちこちに転がる白い石。カームが冒険者ギルドでジャドに見せてくれた遺物の欠片は、此処から取ったものらしいことが分かる。

 カームは空間をまっすぐに横切っていき、ひとつの巨大な石の前で立ち止まった。

「お見せした石は、此処から採ったものです」

「これは……大きいですね」

 ジャドはカームの横に立ち、石を見上げた。

 石は、3メートルほどもあるそれは巨大なものだった。

 表面には絵のような文字のような、不思議な模様が彫られている。

 触るとつるつるしており、明らかにこの石が人工物らしいことが分かった。

「鑑定眼」

 ジャドは石に向けて鑑定魔法を放った。


『【古代の遺物】

 古代文明の遺物の一部と思わしき石の欠片。』


 鑑定結果は、カームが見せてくれた石から得られたものと同じものだった。

 これでも、石の欠片……ということは、此処にある他の石もこの石の一部ってことか?

 ジャドは眉間に皺を寄せた。

 その顔を、カームが覗き込んでくる。

「どうですか、何か分かりましたか?」

「うーん……」

 ジャドは唸った。

「この石が、此処にある他の石とセットらしいってことは分かりました」

「他の?」

 カームは周辺を見回した。

 これと同じような白い石は、そこかしこに転がっている。

 確かに言われてみれば、その石たちは何かの形を作っていたような、そんな感じの形状をしているようにも見えた。

 しかし巨大すぎるせいで、それが何なのかは分からない。

 この空間がドーム状になっていることと何か関係があるのだろうか。

 2人は手分けして、石たちに何か明確な特徴がないかどうかを探して回った。

 そして。

「ジャドさん。こちらに」

 何かを見つけたらしいカームがジャドを呼んだ。

 彼の元に向かったジャドに彼が見せたのは、人の頭ほどの大きさのあるボールのような丸い石だった。

 表面にはびっしりと、細かい文字が刻まれている。

 そして表面の一部に、六角形のへこみがあるのが見受けられた。

「これは?」

「此処に転がっていました。明確な形をしているので、何かのパーツなのではないかと思うのですが……」

「パーツ……」

 ジャドは試しに石に鑑定魔法を掛けてみるが、得られた情報は先のものと全く同じものだった。

 鑑定魔法は、使い手の熟練度で得られる情報量に差が出る。ジャドの鑑定の腕前では、正体不明のものに対してはあまり詳しい情報は出てこないのだ。

 無論、ジャドはそのことを知らない。鑑定魔法でも分からないことはあるんだな、くらいにしか感じていないことだろう。

 ジャドは石の表面を撫でて、訝った。

「この表面に彫られているのは、ひょっとしてウルシュカ文字ですか?」

「形状は似ていますね」

 カームは頷いた。

「何と書いてあるのかが読めればこの遺物が何なのかも分かるのでしょうが……こればかりは仕方がないですね」

「うーん……」

 ジャドは石を観察して、例の六角形のへこみに目を付けた。

「此処だけ、へこんでますね」

「本当ですね。何かが填まっていたのでしょうか?」

「ふむ……」

 ジャドは周辺の床を見回した。

 そして、多くの石ころに混ざって六角形の白い板のようなものが落ちているのを見つけた。

 その石は遺物たちの石とは材質が違うようで、手触りは滑らかなガラスのようだった。

「鑑定眼」


『【魔石】

 魔力を秘めた石。』


「魔石……」

 何でこんなところに魔石が落ちてるんだろう、と思いつつ、ジャドは石のへこみに今拾った魔石を合わせてみた。

 魔石は、へこみにぴったりだった。この魔石が石のへこみに填まっていたというのは間違いなさそうだった。

「これが、此処に填まっていたみたいですね」

「填めてみましょうか」

 カームがそう提案してきたので、ジャドは石のへこみに魔石を填め込んだ。

 魔石は石のへこみを埋めるように綺麗に填まった。

 すると──それまで何の変哲もないただの石だった遺物の表面に彫られた文字が、急に光を放った。

「!?」

 ずん、と地鳴りが起きる。

 辺りを見回す2人の周囲で、それまでただ転がっていただけだった白い石たちが、ぐらぐらと動き始めた。

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