第10話 ウルシュカ文明

 石像は、壁に沿うようにして並んで幾つも配置されていた。

 石像の足下には台座があり、文字と思わしきものが刻まれているが、何と書いてあるかはジャドには読めなかった。

 ジャドは、石像のひとつに手を翳して精神を集中させた。

「鑑定眼」


『【ウルシュカ戦士の像】

 ウルシュカ文明時代に作られたウルシュカ戦士の石像。』


「ウルシュカ文明……」

 ジャドは脳内に眠る記憶の糸を手繰った。

 ウルシュカ文明──今よりおよそ1000年前。現代の文明が築かれる前に地上に繁栄していた文明のひとつで、巨大な天変地異が原因で滅んでしまったと言い伝えられている文明である。

 これは割と有名な話なので、その辺にいる街の子供に尋ねても聞くことができるだろう。

 ウルシュカ文明の遺物は世界のあちこちで出土しているのでそれほど珍しいものではないが、これだけ完全に形が残っている遺物は稀だ。

 おそらく、今まで地下深くに眠っていたため、風化を免れたのだろう。

「ジャドさん──」

 石像を見ていると、背後から声が掛かった。

 近付いてくる、闇を照らす白い光。

「カームさん、どうやって此処に?」

「重力中和の魔法を使いました。ジャドさん1人を置いて私だけ先に進むわけにはいきませんから」

 カームは石像を見て、ほうと声を漏らした。

「こんなに石像がたくさん……おそらく此処は、遺跡なのでしょうね」

「遺跡? 遺跡がダンジョンになったということですか?」

「いえ。多分地中に埋もれていた遺跡の上にダンジョンが発生して、何らかの拍子に入口が繋がったのだと思われます」

 ダンジョンの最下層にある遺物が眠るフロアも、元は遺跡の一部だったのだろう、と彼は言った。

 彼は石像に近付いて、台座に書かれている文字に注目した。

「これは……ウルシュカ文字」

「読めるんですか?」

 ジャドの問いに、カームは首を振った。

「ウルシュカ文字は、まだ一部しか解読されていないんです。残念ながら、私には読めません」

「そうですか……」

「専門家を加えた調査隊に此処を調べてもらえれば、何か分かるかもしれませんね」

 少なくともカームには、この石像のことを詳しく知る手段がないようだ。

 しかし、此処にウルシュカ文明の遺跡があるという事実は、大きな収穫となった。

 古代文明の遺跡は、学術的に価値のあるものが多い。それはこれまでに数多く遺物が発掘されているウルシュカ文明のものであっても同様だ。

 カームがダンジョンの最下層で発見した遺物が何なのかを知ることができれば、その価値は更に大きくなることだろう。

「此処から上の階に戻ることは不可能ですし、先に進みましょう。ダンジョンの最下層が遺跡の一部なのだとしたら、何処かで通路が繋がっているはずです」

 カームは照明魔法を唱えて空間を広く照らし、石像の陰に隠れて存在している奥の通路を見つけ出した。

 崩れそうな石畳で構成された脆そうな通路だ。進む際には細心の注意を払わねばなるまい。

「では、行きましょう」

 杖に灯した明かりで先を照らしながら、2人は遺跡の通路に足を踏み入れた。

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