第2話 強行突破!
「魔女が魔法を使えるって言ったって最初からはそりゃ使えないよ。練習練習。赤ちゃんだってハイハイから二足歩行になるんだよ。それだって懸命に練習したからさ。練習なくして習得なしだよ」
「私、赤ちゃんの頃なんて覚えてないもん! それに練習はみんなと同じだけやってるし!」
うまく行っていないエミリーは母親の言葉に対して揚げ足取りで反論します。それを聞いた母親は彼女の心を労るように更に優しく話しかけました。
「覚えるのに早い遅いはあるものよ。大丈夫、エミリーもきっと魔法を使えるようになるから。だって私の自慢の娘よ! 当然じゃない!」
「……分かった。有難うママ」
「今すぐ出来ないからって落ち込まないでね。きっとちゃんと使えるようになるから」
この母親の言葉を胸に、エミリーは魔法の練習を頑張る事を誓います。努力すればきっと報われると、今まで以上に魔法の練習に精を出すのでした。
「てぇぇぇぇい!」
休み時間とか時間があれば教室の自習用の壁に向かって練習。
「うりゃぁぁぁ!」
勿論魔法実技の時には本気で集中して魔法の練習。
「ほいぃぃぃぃ!」
最後に補習の時でも一切手を抜かずに力を使い果たすまで魔法の練習。
しかし、どれだけ懸命に努力をしてもその苦労は中々花を咲かせません。彼女の頑張りを目にしていた先生もそこまで頑張っていて、何故魔法がうまく使えないのか首を傾げます。それで、先生なりに教え方を工夫しようとエミリー用の教え方を模索し始めました。
「気合だけは一人前ね。でもその前に魔法の基礎からもう一度復習しようか」
「それ何度もやった! 魔法は見えない力を制御する方法だとか、影に属する法則だとか、魔法陣の効果だとか……」
座学について言えば、彼女は決して落ちこぼれではありません。魔法の理論もしっかり身につけていて、それに関しては全く問題がないのです。
「そう言えば、あなたはテストの点は悪くなかったわね。後は実技か……。改めて聞くけど、魔法が全然使えないとかじゃないのよね?」
「使えるよっ! 10回に2回くらいは成功してるし!」
「それを言うなら5回に1回でしょ……」
「……それが、5回だとうまく行かないんだよね」
つまりは10回やれば7回目とか9回目に成功したりするけど、5回やった時点じゃほぼ成功しないと、そう言うよく分からない成功率のようです。
先生はこの話を聞いて右手の肘を左手で支え、右手の人差指を頬に当てながら考えます。
「ま、確率が低いだけなら反復練習しかないわね! 体に魔法の感覚を覚え込ませる! はい! もう一度最初から!」
先生の出した結論はとにかく練習と言う誰もが辿り着ける単純なものでした。エミリーもその方法以外にいい方法が思いつく訳でもなく、素直にこの指導に従い、その後も疲れ果てるまで魔法の練習を続けます。
補習が終わる頃には精も根も尽き果てて、その場にバタリと倒れてしまいました。
「うへぇぇ……疲れたあ……」
その様子を見ていたルーミィがスポーツドリンクを手に彼女の前に現れます。ルーミィはエミリーにドリンクを渡しながら言いました。
「途中まで見てたけどさ……やっぱ今年はハロウィン行き、諦めなよ」
「ま、まだ10日もあるもん!」
「10日でちゃんと魔法を使えるようには見えないけどなぁ」
彼女はエミリーに客観的な事実をつきつけます。それでも彼女は少しも怯みません。それどころか胸を張って大袈裟に宣言します。
「私はここからの追い上げがすごいんだから!」
「そ。頑張ってね」
エミリーのその根拠のない自信に満ち溢れた言葉にルーミィはすっかり呆れたのでした。
それからあれよあれよと時間はあっと言う間に過ぎて、ついにハロウィンの前日になりました。教室では先生が生徒達に向けて明日のハロウィンについての注意事項を説明し始めます。
「さて、明日はハロウィン当日です。みんなちゃんと準備して明日は楽しみましょう。後、くれぐれも魔女だとバレないように!」
「はぁ~い!」
その先生の話を聞きながら素朴な疑問を思い浮かべたエミリーはそれをルーミィに耳打ちします。
「ねぇ、魔女だとバレないようにするって、魔法を使わなければいいんじゃない? じゃあちゃんと魔法を使えない私にもチャンスが……」
「バカね。魔法は使うけど、使ったように悟らせないようにするって事なのよ。そう言う技術が魔女には必要なの」
彼女の拙い説を友達はあっさりと一言で打ち砕きます。話を聞いたエミリーは自分だったらどうかなと考えを巡らせて困惑しました。
「えぇ……みんなはそれが出来るの?」
「魔法が普通に使えるようになれば大抵出来るようになっているものよ。だから先生が見定めてくれているんだし」
「でも先生に認められていないの私だけだよ?」
そう、クラスで先生が許可を出していないのはもうエミリーひとりだけでした。その件についてルーミィは敢えてハッキリと明言せずにふんわりとぼかします。
「それはつまり……そう言う事なんだよ」
「トホホ……」
自分にはまだ制御出来る程の魔法の力は身についていない。それを実感した彼女はすっかり落胆してしまいます。それで本当なら参加するはずの最後の補習にエミリーは現れませんでした。
一向に現れない彼女を先生は待ち続けましたが、補習時間の終わりまで姿を見せなかった事でエミリーもやっと現実を知ったのだと先生は察します。
こうして10月30日は呆気なく終わっていきました。
次の日はハロウィン当日です。校舎前では今日のハロウィン遠征に行く生徒達が魔女帽子に黒いローブと言う魔女の正装をして集まっていました。
「それじゃあ、みんな行きますよ!向こうでは基本自由行動ですが、時間だけは厳守するように! 11月1日の日付が変わる前までには戻る事!」
「はぁ~い!」
先生に引率されて見習い魔女達は魔女世界と現実世界を繋ぐ扉の前までやってきました。後少しで扉は自然に開き、人間世界と繋がります。見習い魔女達は今か今かとその瞬間を待ちわびていました。
しかし、そのタイミングを見計らっていたのは彼女達ばかりではなかったのです。それは時間となって扉が開いたその瞬間の出来事でした。
「今だっ! 星の加速っ!」
「あっ! エミリー?」
そうです、認められないなら勝手に行けばいいと判断したエミリーが扉が開いた瞬間を狙って飛び出してきたのです。彼女は加速魔法を発動させて有無を言わさずに強引に扉に突進していきました。
周りではそれに気付いた人も多かったのですが、何しろ突然の出来事だったので誰ひとりとしてこのエミリーを止める事が出来なかったのです。
「先生! あれ……」
「分かっています。私が追いかけます。みんなはハロウィンを楽しんで」
ひとり先に突入した彼女を追って先生が急いで扉の中へと入ります。何かが起こってからでは大変と先生は全速力でエミリーを追いかけました。
その頃のエミリーはみんなを出し抜けた事に快感を覚えていました。いつも失敗ばかりの彼女の魔法が今回ばかりは一発で調子よく発動したのです。これで有頂天にならないはずがありません。
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