ハロウィンと見習い魔女エミリー

にゃべ♪

第1話 見習い魔女のエミリー

 ここは魔女の住む魔女世界。この世界では今日も見習い魔女達が立派な魔女になる為に魔法の練習をしています。彼女達は魔法が一人前に使えるようになるまで他の世界には行けません。魔法が当たり前に使えるようになって先生に認められて、ようやく晴れて一人前の魔女として他の世界へも行けるようになるんです。


 他の世界へと旅立った魔女達は自慢の魔法を使ってその世界で色々な活躍をします。他の世界で活躍する事は魔女達にとって当たり前の事であり、一人前の魔女になった証でもあるのでした。


 ここ、トールの第2魔法学校でも未来の魔女を目指す見習い魔女達が懸命に魔法を学んでいます。では、少しその様子を眺めてみましょう。

 おや? 早速魔法の練習をする見習い魔女が見つかりました。どうやら彼女は杖を構えて魔法を使おうとしているようです。集中して魔力を集めて魔法の発動を促しています。さあ、うまくいくでしょうか? 気合を入れて、カッと目を見開きます! 


 そうして構えた杖から魔法が――発動しませんでした。うーん、残念。


「あれぇ~?」

「また失敗?」


 本当なら10m離れた魔法感応用紙の標的に魔力の弾が当たるはずでした。今魔法を撃てなかったのが魔女年齢11歳、実際年齢66歳のエミリーです。どう言う事かと言うと、つまり生まれて66年生きてはいますが、見た目は11歳の人間と同じ程度と言う事です。魔女は人より寿命が長い分、成長もゆっくりなんです。エルフとかと一緒ですね。


 身長145cmで銀色の美しい長い髪が自慢の彼女は、見た目だけなら何でも出来る優等生っぽい雰囲気を醸し出しています。


 けれど実際のエミリーは周りの友達が次々と魔法発動に成功する中、その実力が中々開花しない、所謂落ちこぼれの見習い魔女なのでした。彼女は補習が始まってもう8度も魔法発動に失敗しています。その結果を見て先生に呆れられたエミリーは当然のように負け惜しみを言いました。


「失敗じゃないもん! 調子が悪かっただけだもん!」

「この調子じゃあ次のハロウィンもお留守番決定ね」

「そ、そんな!」


 魔女にとってハロウィンは特別な行事です。何故なら年に一度のその日、見習い魔女達でも人間世界に行く事が出来るからです。ハロウィンの日は異界と繋がる境界の扉が開く為、まだしっかり魔法の力が身についていない見習い魔女でも次元移動が可能となるんです。

 けれど、慣れない次元移動は危険も伴います。ですから、先生がそれなりに魔法を使える生徒を選別してハロウィンに研修として連れて行く事になっていました。


 見習い魔女が人間世界に行くのは一人前の魔女になる為の特別なステップで、誰もがその日に人間世界に行きたがります。当然のようにエミリーもまたハロウィンの日の人間世界行きに憧れるひとりでした。


「仕方ないじゃない。魔法が使えない魔女なんて人間の女の子と一緒よ」

「私、魔女だもん! もうちゃんと魔法も使えるもん!」

「はぁ……。それが出来てないからこうして補習をしているんでしょう?」

「むぅぅ……おかしいなぁ。さっきは成功したのに」


 エミリーは自分が魔法を使えない事に対して疑問を覚えていました。彼女だって全然魔法が使えない訳ではないのです。練習では何回かちゃんと魔法を使えています。

 けれど、先生の前では何故か必ずと言っていい程その魔法はうまく発動しませんでした。腕を組んで首をひねり不思議がるエミリーを見て、先生は冷静に現実を突きつけます。


「そもそも失敗するようじゃまだ未熟なの。分かる? 人間世界はそんな甘い場所じゃないの」

「でも私も人間世界に行きたい! もう留守番はヤダ!」


 エミリーは魔法がちゃんと使えないと言う理由で、もう何度もハロウィン行きのチャンスを逃していました。今までに10回は涙を飲んでいます。そう言う事もあって、今回の選別でもかなり気合を入れて臨んでいました。


 けれど、結果はご覧の通りです。魔法の発動すら感じられないようでは、到底ハロウィンの日に人間世界に行く事なんて出来ません。先生は軽くため息を吐き出すと、駄々をこねるエミリーに優しく話しかけます。


「じゃあしっかり鍛錬する事ね。私の目の前でちゃんと魔法が使えたら合格にしてあげるから」

「言ったね! 絶対だよ!」


 こうしてその後も彼女は懸命に魔法を使おうとするのですが、補習の時間が終わるまでに、先生を満足させるほどの魔法をエミリーは発動させられませんでした。


 次の日、彼女が学校に登校して教室に入ったところで、補習の様子を聞こうと友達のルーミィが話しかけてきました。


「また先生に怒られたの?」

「そうなんだよー。頭固いよね全くぅ~」


 彼女に話しかけられたエミリーはすぐに溜まっていた愚痴を吐き出します。


「でも先生の言う事は正しいよ。魔女が他の世界に行くって言うのは立派な魔女になったって事だもの」

「私だって立派な魔女だよ」

「魔法もちゃんと使えないのに?」

「ぐぬぬ……。つ、使えるもん! この間は調子が悪かっただけだもん!」


 ルーミィの正論に彼女は全く言い返せません。このまま負けてしまうのを悔しく感じたエミリーは負け惜しみを言いました。その言葉を聞いたルーミィはにやりと笑みを浮かべます。


「じゃあここで使ってみ?」

「よ、よーし!いくよっ!」


 売り言葉に買い言葉になってしまい、後に引けなくなったエミリーは教室で魔法を使う羽目になってしまいました。

 魔法の自習用に教室の壁には補習でも使っていたあの魔法感応用紙が貼られています。彼女は意識を集中して杖をかざし、用紙に向かって魔法を飛ばすイメージを強く思い浮かべました。


 けれど、その気合とは裏腹に彼女の杖から魔法は発動しませんでした。いつまで待っても何も変化がないので、ルーミィはエミリーを急かします。


「だから使ってみってば」

「え、えぇいっ!」


 それからも彼女は何度も魔法を使おうとしますが、この緊張状態が悪かったのか、感応用紙に魔法が記録される事は一度もありませんでした。その様子を見たルーミィは両手を腰に当てて、小さくため息を吐き出します。


「ま、こんな事だろうと思ったよ。やっぱエミリーは留守番決定だね」

「まだ本番までに半月もあるし! 絶対それまでにマスターするし!」

「はいはい、頑張ってね。あ、そうだ! お土産何がいい? 買えそうなら買ってくるよ?」

「バカにしないでよ! 絶対私も人間世界に行くんだから!」


 彼女にからかわれながら、それでもエミリーは人間界行きを諦めてはいませんでした。やがてその日の授業も終わり、また補習が始まります。

 他の見習い魔女達が次々に魔法を使いこなしていく中、エミリーだけは中々上手く魔法を使う事が出来ないまま、その日の補習も終わりました。


 補習のせいでひとりで帰る夕暮れ時の帰り道、自分の実力の無さを嘆きながらエミリーはボソリと独り言をつぶやきます。


「でもどうして私は魔法がうまく使えないんだろ? 魔女なのに……はぁ……」


 家に帰った彼女は夕食の支度をする母親に向かって、何故自分は魔法が使えないのかと愚痴をこぼしました。すると母親はエミリーにも分かるように優しく彼女を諭します。

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