深緑の工業国ードイツー

@Sushi

第1話 入国

平成27年11月31日、デュッセルドルフ空港に私は降り立った。デュッセルドルフはノルトラインヴェストファーレン州の州都であり、ライン川に沿って古い町並み、近代的なビルが立ち並ぶ西ドイツの大都市のうちの一つだ。後に述べる事になるだろうが、日本人としては重要な街の一つである。

海外旅行や学会を何度かこなしてきた身、滞在に関しては何も抵抗はないはず。だが、最初の関門は突如、なんの前触れもなく私の眼前に現れたのだ。パスポートを片手に、パスポートコントロールへ。ありきたりな質問を受けたところで、その質問はやってきた。

「何日間滞在するのですか?目的は?」

普段なら、会議だの学会だのと言い、滞在期間も一週間ほど、と答えるはずが

「3年間、仕事をしに。」

となんの疑いもなく答えた。今でこそ、この応答が混乱を招くものだと確信しているが、当時からしてみれば何もおかしい事は言っていないと信じ込んでいた。次の瞬間、柔和だったドイツ人オフィサーの表情が曇り、質問も厳しいものへと変わっていった。滞在許可証(ビザ)の有無から始まり、研究機関からの招待状の提示などを要求され、あまつさえ、所持金の有無などを詰問された。無限とも思える時間から解放され、デュッセルドルフ空港のロビーからタクシー乗り場へと移動した。車に揺られ、30分程でデュッセルドルフ中央駅に到着。40ユーロ(当時140円=1ユーロ)支払い、駅構内で自分の電車の到着を待つ。英語ならばある程度は話せる、だが、ここはドイツ。電光掲示板の表示はドイツ語だ。自分の乗る電車を見つけると、横に表示が記載されており、60 min. Spaeterと出ている。定刻までにホームに到着し、いざ目的地のミュンスター…と思いきや、電車は来ない。東京に住んでいた経験からするとあり得ない体験である。時間は刻々と過ぎ、10分が経過した。まさか、と思いスマートフォンで調べてみると、Spaeter=遅れ、遅延という単語が出てきた。ここ、ドイツでは電車の遅延はよくあることで、スケジュール通りに進むことがまれである。遅れること60分、目当ての電車に乗り込み、90分の旅路を経て、目的の赴任先であるミュンスターに到着した。正直なところ、ホテルに到着した後の記憶は曖昧である。着替えもせず、シャワーも浴びずに、まさに泥のように深い眠りに入っていった。

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