第12話 自己紹介

 アハハハ


 ギルの陽気な笑い声が部屋中に響いている。


 昼間の出来事を聞いて、よほど面白かったらしく、よく笑う。なんて、酷い奴だ。


「ベア、やり過ぎだな」

 楽しそうに笑うギルを見て、隣のエルフのベアトリーチェは、ふくれっ面だ。


 今、俺達は、ベアトリーチェの家で食事をしている。


 あの後、ルッツが家に帰ってきて、全員が揃い、ベアトリーチェが、慌ただしく夕食の支度をはじめたのだ。


  夕食の最初の話題は、昼間の出来事だった。


 正面に座る、俺達のパーティのリーダー、茶髪のギルは、その話になると、えらくご機嫌だ。


「もう、ちょっとギル、笑いすぎじゃないのっ」

 俺の隣に座る、おさげのアニーが、珍しくギルを批判する。決して、笑い話では無いはずだ。


 席順にも、小さな変化があった。

 俺の隣にアニーが座っているのだ。


 どうせ喧嘩するなら、隣同士の方が周りの迷惑にならないと、ルッツが頑なに主張したからだ。昼間の出来事がトラウマになったらしい。打たれ弱い奴だ。

 そんなルッツが、どうしてもとお願いするから……

 俺は、席を変わる事を了承した。 


「笑いすぎたか?」

 ギルは、真剣な表情をしようとするが、やはり、目は笑っている。何が、そんなに嬉しいのだろうか? 俺が気を失った事か、ベアトリーチェの行動か……よく、解らないが、とにかく楽しそうだ。


 ギルの隣に目を移すと、ドワーフの爺さんが相変わらずの勢いで酒をガブガブと飲んでいる。


 このままでは、明日の朝も、爺さんの酔い覚ましの散歩に付き合う羽目になりそうだ。あの、とても恥ずかしいゲロ吐き散歩だ。


 くそっ! ジジィは酒を慎め!


 ギルも酒を飲みながら、再び話をはじめた。


「そうだな、こいつは、簡単には死にはしないさ。そうだろ?」

「……」

 ギルはベアトリーチェを見ながら、俺を指差す。俺は、無視した。ここで同意するとベアトリーチェが怒りそうだ。


 俺の態度に、ギルは、やや不満そうだ。


「そういえば、お前、自己紹介がまだだな、俺と出会った時の事も含めて、今からしろ」

 何か思いついた様子で、ニヤニヤしながら、自分のグラスに酒を注ぎ足している。


「今さらかよっ!」

 俺は、少し文句をいう。どうしても、“ 死なない ”と言わせたいらしい。できれば、避けたいが、リーダーのギルに逆らう事もできない。


 だから、彼女ならと、期待を込めて隣をチラッと見る。


 いつもなら、自己紹介など聞きたくないと突っ込むアニーは特に文句は無い様子だった。くっ、信じてたのに残念だ。


 仕方なく、俺は、渋々と自己紹介を始めた。


「まずは名前からか? 俺の名前は、【ソロ・ウエストアンカー】、前衛の戦士を目指している」

「ウエストアンカーって、あんた、この街の出身なの?!」

 おさげを揺らしながら、アニーが心底不思議そうに、俺の方を見る。彼女は、俺がこの町の地理に疎い事を知っているので当然の疑問だろう。


「親父は、この街の出身だったらしいが……俺は、辺境の開拓村の出身だ」

 俺は、昨日の酒場での皆の自己紹介は、名前と職業だった事を思い出し、ここで切り上げようとした。


 確認の為、隣の様子を伺うと、ナイフをテーブルに置き、アニーは、俺の方を向いて座っていた。


 やれやれ、どうやら、自己紹介は、まだ続けなくてはならないらしい。もともと、リーダー命令の件もある、ちっ、仕方がない……


 俺は、気を失っている時に見た、ギルと出会った日の話をする事にした。


「俺がはじめてギルと出会ったのは……」

 俺は、辺境の村か魔物の大群に襲われた日の出来事を語りはじめた。その俺の話に、皆は真剣に耳を傾けていた。





「そうだ、あの時のお前は凄かったが、模擬戦は、最後の一撃以外、期待外れだったぞ」

 話が、一息ついた所で、ギルが口を挟む。


「えっ、期待外れだったのか?」


「とてもじゃないが、巨人と互角に力で勝負し、最後には一刀両断した者の戦いで はなかったな」

「そうよっ」

 何故かアニーが口を挟む。

 左手には、いつの間にか野菜が盛られた皿を持っている。


「そうよ! トロールの一撃を防げるように、見えないわっ!」

 かなり不満そうに、唐突にベアが声を上げる。模擬戦でも、ジジィとの訓練でも、俺は、かなり不甲斐なかったらしい。


「ああ、防いだのは本当だ。本人は記憶が曖昧のようだが、実際は、もっと凄かったぞ!」

 ギルは、真剣な表情でベアトリーチェを見つめた。


「この子の少ない魔力で、どうして、そんな事ができるの?」

 ベアトリーチェの疑問に答える者は居なかった。あと、魔力が少ないと言われてショックだ。


「ベアは、ソロの事が心配なんだな。でも……」

 ギルは、ベアトリーチェの、その美しい銀髪に、優しく手を置いた。


「でも、君は、ソロの力を認めているのだろう。だからこそ、魔力を叩き込んだ筈だ。この程度では決して死ぬ筈が無いと」

 そう言うと、ギルは、俺を笑顔で見つめる。


「俺は、ベアがこんなに早く君を仲間と認めるとは思わなかった。だから、彼女は、大切な君を失う事を恐れているんだよ」

「それは……」

 ベアトリーチェは、言葉を紡ぐのをやめた。彼女の柔らかな銀髪の間からチラっと覗くエルフ独特の長い耳は少し赤くなっていた。


 それから、会話が止まっても、食事は続いた。


 カチャカチャと、食器の当たる音が聞こえる。


 俺は、少し長話をして疲れたので、外に出て休憩をする事にした。

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英雄達のいるパーティで、魔法の使えない俺は、前衛として、頑張って生き抜いていく(仮) 小鉢 @kdhc845

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