疾走る犬

徳生

第1話...至急報から始まるプロローグ

深夜2時、横浜市内。とりわけ閑静な住宅街として知られる本牧を警らする1台のパトカー。


周囲に目を配りながらも襲って来る眠気を振り払うために桜崎は相勤と雑談していた。


桜崎「この街、年々活気なくなってきてますね。」

大山「仕方ないさ。地下鉄の話もポシャった位だしな。」

桜崎「こんな時間、開いてるのコンビニ位しかないから、大通り沿いなのに暗いんですよね。」

大山「だからこそ、こうして警らしてるんじゃねぇか?いいか、桜崎。悪い奴は暗いところが...。」


その時、二人の会話を引き裂くように無線が飛び込んで来た。


山手1「至急至急、山手1から神奈川本部!」

本部「至急至急、山手1どうぞ」

山手1「えー了解!当局の職質制止を振り切り車両1台逃走。現在本牧3丁目交差点を信号無視。小間門方向へ逃走中、マル援願いたい!」


至急報を送って来た場所は目と鼻の先、更にこちらに向かっているようだ。


桜崎「横浜4から神奈川本部。傍受了解。対応します。」


桜崎は無線を送ると、アンプに手を伸ばす。

街を切り裂くように赤色灯を光らせると同時に視界が動き出す。


桜崎「パトカー転回しまーす!ご協力ください!」


フットサイレンを鳴らしながら鮮やかにUターンをすると、レガシィのエンジンが甲高く鳴った。


山手1と合流すべく走る横浜4、当然その間も無線が状況を送ってくる。


本部「神奈川本部から山手1。照会の結果、3件の該当あり。内訳は3件とも、薬物事案。対応の各移動にあっては、交通事故防止に充分留意の上...。」


大山「これ、早いとこ止めんと不味いよ?」


ステアリングを握る大山が呟く。

...程なくして視界に飛び込んで来たのは猛スピードで山手1の追尾を振り切ろうとする軽自動車だった。

二人の乗る横浜4も追跡態勢に入る。


山手1「前方の軽自動車、止まりなさい!」


当然、サイレンもまくし立てるような警告も聞こえてる筈である。それでも軽自動車はスピードを緩めない。


桜崎「ナンバー読んだぞ!止まれぇ!」

桜崎はマイク越しに叫ぶ。それは、犯人を止めるためだけではない。周囲に注意を促すためでもある。


大通りでは逃げ切れないと悟ったのか、軽自動車は裏道に入る。だが、入った道が悪かった。何故なら、その先は本牧北小学校に続く袋小路なのだ。しめた!桜崎は心の中で叫んだ。

しかし、次の瞬間、激しい衝突音がした。


山手1「山手1から神奈川本部宛、先の逃走車両、パトに当てて来た!パトに当てて来た!」


大山「行け行け行け!」

大山の指示で桜崎が逃走車両に向かって走る。犯人もここまで逃げて来るだけあって往生際が悪い。更に山手1に当てて来る。


桜崎が警棒で運転席側の窓ガラスを破砕すると逃げていた男と目があった。しかし焦点の合わないような視線だった。

桜崎と山手1のパトカー乗務員が男を引き摺り出すと。

「2時26分、道交法違反で現行犯逮捕!」

男の手首に重く冷たい手錠がかけられる。


男の持ち物、軽自動車の中を慎重に確認するまでもなかった...。堂々と白い粉が入ったパケが山のように積まれていた。


「一件落着」


深夜の大捕物を終え、庁舎に戻る車内。


大山「山手1が職質かけた場所って知ってるか?」

桜崎「埠頭の歩道橋の下じゃなかったですか...。」

大山「ビンゴ!つまり悪い奴は暗いところが好きなんだよ。」


大山は満足そうな笑顔を浮かべた。


まだまだ新米の桜崎はこの中堅、大山から学びとろうと決意した瞬間だった。

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疾走る犬 徳生 @Norios

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