同作者様の別作「いばらの咎」と世界を同じくしている本作。前作のシリアスで耽美的で華美で暗く湿った世界に魅せられてこちらにもやって来たわけですが、なかなかどうして、同じ世界と思えぬほどにポップな本作。
残念オブ残念の超絶ヒロイン、ゼリスリーザ様。彼女は王様を射止めようと頑張るわけですが、なんかもう直視できないくらい残念。
体型も残念、頑張り方も残念、キャラも残念な彼女ですが、七転八倒の末、七転び八起きでハッピーになってゆきます。
はじめこそ、苦笑しながらそれを見守るわけですが、物語が進むにつれ彼女やその周囲の様々な状況を我が事のように思い、手に汗握りながら応援していました。
求めるものは、己の意思と力で掴め。などと彼女は言いませんが、そんなハードボイルドな姿勢すら感じられるほどのヒロインです。
別作「いばらの咎」を読めばその対比で四倍楽しめますが、勿論本作のみでも120%面白い。
読むうち、私の苦笑は心からの笑顔に変わり、最後は万歳三唱。
いや、読んでよかったです。ホントに。
ほら、皆の者、そこをどけ。
空前絶後の超絶怒涛の最高のヒロイン、ゼリスリーザ様のお通りだ!!!
おおゼリスリーザ、お前は何を言っているのだ……!
彼女はちょっぴりとんちきでちょっぴりあんぽんたんでちょっぴり猪突猛進でちょっぴり暴れん坊将軍ですが、読者である私は知っていたよ……あなたは最初からずっと家族思いの根は優しい女であるということを……。
この上なく強くたくましくふてぶてしく図々しくそれでいて美しく賢い女ゼリスリーザ。
異国の王の愛妾になるべく腕力で従姉を下し海を渡ってやって来たが、彼女が目指していた王にはすでに寵愛を傾ける愛妾がおり、彼女の入り込む余地はなし。
だが母国ではあんなに家族を泣かせて大勢の人に見守られて政治的な大義まで背負って旅立ったというのに、ここで帰るわけにもいかないし……。
そんな彼女がたくましく次の道を選ぶまで、がこの物語の筋なのですが。
時にげらげら笑ったり、時ににやにや笑ったり、時にほろりと涙したりなどして、ゼリスリーザと一緒に旅をしました。
本当に、あんたはたくましい女だよ……。絶対自分で幸せをつかみ取りに行くって分かっていたよ。
最後、彼女はどんな未来を選び取るのか?
そうなるって分かってたよ!と思いながらも、辿り着いた時はほっとして、心が温まりました。
「大公の妃だって狙える」と称えられる美貌をもちながら、控えめな胸と、ぜんぜん控えめでない性格の所為で、妹に結婚を先越された貧乏貴族の娘ゼリスリーザ。従妹と兄弟たちからの”嫁き遅れ”評を見返すべく、虎視眈々と機会を狙う彼女の前に、絶好の縁談が与えられた。国交を結んだばかりのルオーゼ王国、その国王に贈られる愛妾に、というものだ。
うすい胸を期待と野望に膨らませ、愛妾に立候補したゼリスリーザだったが、そこには甘くないライバル達と、もっと甘くないお国事情が待っていた――。
ふざけた紹介で申し訳ありません。薄胸の威勢のよい女性が大好きなもので、つい。
物語冒頭から、親族たちにいろいろ貶められるヒロインですが。そこは我らが(?)ゼリスリーザ、全く敗けておりません。”自称”公国一の美貌と、腕力と、持ち前の幸運を武器に、自ら運命を切り拓いていきます。
実は『いばらの咎』と同一の舞台の物語。二つの作品の差異を描きわける作者様の筆力も、楽しみです。